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オランウータンに、いつまでも熱帯の森を。

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第53回 G20 インドネシアで開催 -世界の動きは-   

===================================
第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」
第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2
第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」
第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい
第40回 <響き合ういのち> ヒルデガルト聖歌コンサート
第41回 2022年 年頭に考える 100年前の日本のこと、これからの日本のこと
第42回 熱帯雨林の現実 ~インドネシア、新首都建設へ~
第43回 熱帯雨林の現実 その2
第44回 春に考える
第45回 オランウータンの「考える」
第46回 霊長類研究を考える
第47回 さまよえるウラナミシジミ 霊長類学者としての私の原点
第48回 高校時代の思い出 ~清澄山の蝶と蛾の話~
第49回 海からの手紙 ~陸地と海はつながっている~ 瀬戸内最後の楽園、祝島から
第50回 里山、里海、そこにある人々の暮らし
第51回 鼎談 ~ていだん~
第52回 イチモンジセセリの渡り ~大集団の実態と謎~
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第53回 G20 インドネシアで開催 -世界の動きは-


ロシアによるウクライナ侵攻に端を発した世界規模でのエネルギー危機が、日本はもとより
世界を襲っています。
特に欧州においては天然ガスの45%、石油の27%をロシアに依存していたわけで、これらの
供給が閉ざされた結果、なりふり構わぬ争奪合戦が世界各地で起きているわけです。

さて、インドネシアのバリ島で開かれていたG20首脳会議、エジプトで開催されていたCOP27
国連会議が相次いで閉幕しました。
戦争とエネルギー危機という現実を前に、「脱炭素」などときれいごとを言ってきた国際社会は
どう動くのか。
大変な世界情勢下でしたが、結果として、表向きは「金で解決する」という、解決には程遠い、
どうにも動けない愚かな状態がより明らかとなったように思えます。
金を出し続けることになる日本は本当に大丈夫なのでしょうか。

G20に関連しては、インドネシアが石炭火力発電から脱却するのを支援するため、日本や
アメリカなど10カ国地域が今後3~5年間のあいだに官民で200億ドル(約2兆8000億円)を
拠出すると発表。
気候変動対策の金融支援プロジェクトとしては過去最大規模といいます。
これは先進7カ国(G7)がすでに合意していた地球規模の課題である新興国・途上国の脱石炭
を支援する枠組み「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」と呼ばれるもので、
日米がインドネシアの主な支援国となっているそうです。

一方のCOP27の方は、長年の気候変動で発展途上国に生じた損失と被害への手当てに特化した
支援基金「損失と被害(ロス&ダメージ)」を設立することが決まったそうです。
いずれにしろ、どれも途上国への金銭的「支援」が約束されるだけで、被害の根本原因である
化石燃料の需要に関しては全く議論が進まなかったわけです。
脱炭素などと言っているだけで、結局は経済最優先、右肩上がりの発展をどの国もが夢見る
限り、これは当然と言えば当然です。

温暖化、脱炭素という言葉に世界が躍っている間に、世界の石炭火力発電所の2021年の発電量
は初の10兆KW越え、過去最大となりました。
電力需要、資源需要がこれからもますます増加するだけの道をヒトは選択しているようです。
電力や資源そのものの使用削減という話題は国益優先の国際社会ではタブーなのです。

戦争に慌てた欧州はこの1年間、「脱ロシア」を進めるためとして、あらゆる手で化石燃料の
調達に奔走してきました。
新規炭鉱を開発するイギリス。
ドイツは廃止するはずの石炭火力のフル稼働を準備、新たなガス貯蔵拡大計画も発表。
オランダも、石炭火力発電所の稼働率制限を撤廃。
イタリアも石炭火力の再稼働を検討中。
南アフリカ、ボツワナ、タンザニアなどアフリカ諸国には石炭供給の引き合いが殺到。
コロンビア、アメリカからの石炭購入までと手を広げています。

こうした煽りは当然アジア諸国にも及びます。
インドも石炭火力をフル稼働。さらに、100以上の炭鉱を再稼働し、今後2~3年で1億トンの
石炭増産を見込むといいます。
ベトナムも国内の石炭生産の拡大。
中国はなんと日本の年間石炭消費量の倍近く、年間3億トンの石炭生産能力を増強。

一方で、石炭輸出の最王手、オーストラリアやインドネシは石炭輸出の拡大要求に応える余力
はさほどないと売り控え。
インドネシアは国内向けの不足を理由に輸出禁止措置に出るなど、この機とばかりに大変強気
な対応をみせました。
なにせインドネシアは世界最大の石炭輸出国。
2020年の輸出量は約4億トン。
最大の輸出相手国の中国が約3割(約1・2億トン)を占め、インド、日本、韓国と続きます。

さて、そのインドネシアはG20の会期中に諸外国から70億~80億米ドル(約9,824億~1兆
1,228億円)の投資確約を得たと発表しています。
投資を確約したのは韓国や中国、欧州の複数国など。
東カリマンタンに整備される新首都「ヌサンタラ」の開発には、韓国・LGグループのほか、
UAE、中国、欧州諸国などが関心を示しているといいます。
資源外交はまだまだこれからです。

先の脱炭素支援のJETPはじめ、日本もインドネシアに対して支援、支援を打ち出しています
が、親中派のインドネシア相手に脱炭素支援にお金を投じても、結局は形を変えて、わからない
所で中国に利する仕組みの中に取り込まれているだけ。
石炭開発が収まることはないと思います。
なにせ、世界全体ではまだ約300ギガワット(GW)相当の石炭火力発電所の新規建設が計画
されていて、その約3分の2に当たる197GWが中国で建設される予定なのです。
ちなみに1GWは100万KW。だいたい原子力発電の1基分です。

私には温暖化も、脱炭素も、SDGs持続可能な云々も、問題をうやむやにするツールの一つに
思えてなりません。
石炭はもとより、石油・天然ガスなどの化石燃料の使用はたとえ先進国と言われる国々が脱炭素
を叫んだとしても、どこかで誰かが必ず使い続けるのです。
こういう現実を前に、こうした化石燃料の産出地の環境、自然をどのように残していくのか。
残さなくていいのか。
相手国任せにして国際社会が真剣に考えない限り、地球環境などというものは単なる宣伝文句の
一つ程度に利用されているだけなのではないでしょうか。

G20にCOP27、会議は踊るされど進まず。オランウータンも熱帯の森も、相変わらず救いの
手が差し伸べられることはなく、新首都建設とお金の話ばかりがヒトの世です。

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 4
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【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
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(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com

第52回 イチモンジセセリの渡り ~大集団の実態と謎~   

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第1回 森の人 オランウータン
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第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
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第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
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第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2
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第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい
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第41回 2022年 年頭に考える 100年前の日本のこと、これからの日本のこと
第42回 熱帯雨林の現実 ~インドネシア、新首都建設へ~
第43回 熱帯雨林の現実 その2
第44回 春に考える
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第47回 さまよえるウラナミシジミ 霊長類学者としての私の原点
第48回 高校時代の思い出 ~清澄山の蝶と蛾の話~
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第50回 里山、里海、そこにある人々の暮らし
第51回 鼎談 ~ていだん~
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第52回 イチモンジセセリの渡り ~大集団の実態と謎~

新米が出そろい、収穫の秋を愛でる季節となりました。

先日、甲府盆地で自然農を営むNご夫妻の水田にお邪魔する機会をいただきました。
稲刈り真っ最中でしたが、なんと今年は夏の間にイチモンジセセリの幼虫に稲の葉を食べられて
しまって大減収とのことでした。
ところでみなさん、イチモンジセセリという蝶をごぞんじですか?

以前ウラナミシジミの話を鈴木先生がされていましたが、今日はイチモンジセセリの話をしたい
と思います。
広く渡り歩く蝶、「さまよえる蝶」ということで、師の磐瀬太郎先生が紹介されていたウラナミ
シジミですが、広く渡り歩くといえばイチモンジセセリも「渡り」が特徴の蝶です。

磐瀬先生の1950年代の著書を読むと、こうした普通種の、小さくてたいして美しくもない蝶
たちへの思いに溢れています。
普段気にも留めない日常や、身近な自然を観察するこということの意味。
プロではなく、普通の人が、自然を「自分の目で見る」ということの意義を改めて考えさせられ
ます。

ウラナミシジミとイチモンジセセリ、ともに「渡り」の蝶ですが、両者の違いはウラナミシジミ
が単独で移動していくのに対して、イチモンジセセリは大群で移動するというところ。
まさに「渡り」のスタイルにおいて両極にある2種です。
「渡り」の生態に魅せられた学者先生は別として、農業者にとってはこの2種の蝶は、それぞれ
マメと、冒頭でも紹介しましたがイネを大食する「害虫」です。
これにキャベツの大敵モンシロチョウを加えたものが3大害虫といえます。

害虫ならばさぞかしその後研究され、その生態があきらかになっているだろうと思いがちです
が、農業の分野では「農薬」や「品種改良」によって、被害に対して一時的に対処する方法が
発達するばかり。
実は相変わらず蝶たちの生態は肝心な点は謎なのです。

イチモンジセセリというのは、チョウ目セセリチョウ科に属している小さな茶色っぽい蛾の
ような蝶です。英名はrice skipperといわれています。
その名の通り稲の間を飛び回り、大群衆で長距離を移動し、秋に卵で生まれたものが幼虫で
越冬。
翌年5月、水田の稲がどんどん葉を伸ばし成長する時期になると再び蝶となり、それが早植え
の稲の葉に産卵。
ふ化した幼虫が葉を食害するということを繰り返します。

7-8月の多発時には葉のほとんどが食害されるような大食漢となり、発生するとその後の稲穂
の生育に深刻な被害を及ぼします。
特に、遅植えだったり、良く育った稲に大発生することが多いともいわれていますが、理由は
不明。
それが理由かどうか詳しくは知りませんが、現在では全国的に早植え、早刈りが主流となって
いるためか、従来の5月に田植え、10月に稲刈りといった水田が被害を受けやすいようです。

8月後半~9月ころ越冬場所へ向けて時には何億頭という大集団で西の方へ移動するイチモンジ
セセリ。
1930年の関西での記録では、あまりの大群のため太陽の光も遮られるほどだったそうです
(磐瀬)。
なぜ西向きに飛ぶのか。
では、もともと東にいる集団はどこからやってきたのか。
なぜ移動はこの時期にかぎられているのか。
本当にこの時期にかぎられているのか。
大集団はどうして、どんな時に生まれるのか。

稲作文化の日本人にとって、イチモンジセセリの存在は非常に重要なはずですが、結局のところ
謎は磐瀬先生の時代のまま残っているようです。
先生は自然観察において共同研究の重要性と長期継続調査の意味、資料の蓄積の大切さを説かれ
ていますが、「自然を見る」というのは本当に気の長い仕事です。
大集団での「渡り」の記録自体も1930年、1950年代、1970年代と昔の記録は残っています
が、現在はどうなのでしょうか。

磐瀬先生は「人間の営みと蝶」というタイトルで害虫となる蝶の話をされています。
ヒトのくらしと密接に結びつき、互いに影響を与え合い変化していく自然や環境。
そうした視点で考えると、こうした蝶たちの生態も常に、周りの環境やヒトの暮らしに伴って
変化していくものであり、決してひとつの結論、答えはないのです。

鈴木先生がかつて調査したウラナミシジミの越冬地、千葉県の白浜。
実はソラマメの促成栽培は調査後すぐに途絶えてしまい、必ずしも言われているような「房総
半島南部はウラナミシジミの越冬地」ではなくなってしまいました。
でも、ひとたび結論が出てしまうと、その後の継続調査や広域調査を実際にフォローするものは
なく、結局は知識だけ、情報だけがひとり歩きしています。
とくにネットの世界ではそれが顕著ですが、情報ではなく、自分の目で自然を体験すると、
疑問や、違ったものが見えてくるのではないでしょうか。

「遊動」、生き物のノマディックライフは実に不可思議です。
甲府盆地に飛んできたイチモンジセセリは、いつ、どこから、どんなかたちで飛んできたので
しょうか。
磐瀬先生の時代は電報とハガキで情報をやり取りしていましたが、現在はネット社会という
便利なツールをヒトは手にしています。
磐瀬先生のような卓越した指導者はいませんが、ただただ情報を横流しにするのではなく、
ツールをうまく利用して、ひとりひとりが「自然を見る」目を養っていく。
科学の未来にとってとても大切なことだと思います。

イチモンジセセリ
写真:イチモンジセセリ

ウラナミシジミ
写真:ウラナミシジミ

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
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の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
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第51回 鼎談 ~ていだん~

お久しぶりです。7月23日のこだままことさんとのお話し会以来、長い夏休みをとおり越して、
今やすっかり秋となるまで、長い長い夏秋休みとなっておりましたが、またこのブログ、再開
したいと思います。
よろしくお願いします。

さて、話題を再び7月のお話し会にもどして、当日プログラムの中に「鼎談」というものがあり
ました。
「ていだん」と読みます。
何のことかわかりますか。
三人でお話しすることです。
「鼎」という文字は「かなえ」と読みますが、「かなえ」というのは古代中国で用いられた、
三本の脚がついた形の金属製の器、鍋のことだそうです。

この三本脚というのが重要で、例えばカメラの三脚がわかりやすいでしょうか。
ものを支えるうえでは三本脚というのは非常に安定した型。
二人で話をする対談に対して、鼎談はより幅の広い、深みのある話ができるかも~と。

実はこの話、道教とその実践クンルンの継承者、Kan,さんの3月の人間クラブでのワーク
プログラムで伺いました。
一日がかりの長時間プログラムのKan,さんのお話しでしたが、まず開口一番突然この言葉、
「鼎かなえ」を紹介されたのです。
原意は「鍋」ですが、実はこの、目には見えない、すべてを安全に受け止める「かなえ」という
ものが一人一人の中にあるという、「自分自身」がまずは大事なんですよというお話しから
はじまったのでした。実に含蓄深いお話しでした。

他人からの影響を気にして、受け身に生きるのではなく、自分自身を磨いて、遠くではなく
身近なことからはじめましょう。
となりの人は教えてはくれない。
自分の頭で考え行動しなくてはいけないというKan.さんのお話。
まったくその通りですね。

以前も少し紹介したかもしれませんが、Kan.さんのお話は、今は情報があふれる中「行動」
することばかりに重点が置かれているけれど「見守る」ということが大切だとか、五風十雨の
話だとか(詳細はにんげんクラブ発行のKan.さんに訊くvol.2 をご覧ください)、動物、
生きもの、自然への素晴らしい視点に溢れています。

ワークショップはオランウータンのお話では想像もつかないような大ホールにいっぱいの人、
人、人。
こんなにたくさんの人がこんなに一生懸命聞いていたら、世界はもう少しよくなっていっても
いいように思うのですが、実際には幼稚園の送迎バスの園児置き去りのような信じられないこと
が次々と起こっているのです。

「見守る」どころか、6人しか乗っていない園児を見落とすって、どういうことでしょうか。
実際に子どもを見てもいないのに「アプリ」に降車と入力していたなんてことも聞きますが、
再発防止策といってセンサーだ、ITだと言っているようでは、何か狂っているように思い
ます。
「神羅万象の人間以外はみんなお互いに見守り合っている。でも人間は果たして自然を見守って
いるのか。そういうまなざしを自然界に持っているのか。まして人間同士では、見守ることが
あるのでしょうか。」というKan.さんの言葉が心に重く響きます。

取り留めないようでいて、みんなが全部つながってくるKan.さんのお話しの中で「鼎かなえ」
とともに紹介された「鼎談ていだん」という言葉。
冒頭書きましたが、鼎談には2人だけでなく1人加わることによって話により一層の深まりと
広がりが生まれ、かつ、バランスのとれた話が期待できる。
対談、座談という言葉以外にわざわざ鼎談という言葉があるということは実に面白いことです。
そこに大きな意味と古代中国の時代から続く人の対話すること、話すことへのこだわりを感じ
ます。

おかげさまで私のつたないお話し会ですが、山田征さんに加え毎回素晴らしいゲストまでお迎え
して、私自身いろいろなお話を伺う貴重な機会となっています。
こうして実際にお会いして、話を交わすことの素晴らしさ。
いま世の中はITだ、人工知能だ、ヴァーチャルだと、「人」からますます離れ、人同士の
つながりが失われていっているように感じられます。
すべて悪とは思いませんが、子どもを見守る、実際に顔を見て言葉をかける、人間同士そんな
ふつうのことがふつうに、機械に頼らずにできる余裕を持ちたいものです。

ヒトは進化の歴史の中で、他の生きものとはちがい唯一「言葉」というものを持つことができた
生きものです。
その特権を享受して、人間同士の実体あるつながりをもっと大切にしてはどうなのかな。
言葉や、声といったコミュニケーション手段に頼らずとも、実に素晴らしいコミュニケーション
能力を持つオランウータンを見ながら思います。

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 4
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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」
第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2
第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」
第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい
第40回 <響き合ういのち> ヒルデガルト聖歌コンサート
第41回 2022年 年頭に考える 100年前の日本のこと、これからの日本のこと
第42回 熱帯雨林の現実 ~インドネシア、新首都建設へ~
第43回 熱帯雨林の現実 その2
第44回 春に考える
第45回 オランウータンの「考える」
第46回 霊長類研究を考える
第47回 さまよえるウラナミシジミ 霊長類学者としての私の原点
第48回 高校時代の思い出 ~清澄山の蝶と蛾の話~
第49回 海からの手紙 ~陸地と海はつながっている~ 瀬戸内最後の楽園、祝島から
===================================

第50回 里山、里海、そこにある人々の暮らし

来る7月23日(土曜日)は、「海の砂漠化」について、こだままことさんをゲストにお迎えして
のお話し会が予定されています。
お話し会:「オランウータンに、いつまでも熱帯の森を」
https://www.ningenclub.jp/blog01/archives/2021/12/_part_4723.html

こだまさんは瀬戸内海の祝島(山口県)から、この日のためにわざわざ出てきてくださいます。
オランウータンはさておき、こだまさんの貴重なお話し、ぜひみなさん聞きに来てほしいなと
思います。

 ※収録DVDはこちらからどうぞ!


今日7月18日は海の日。
ということで今回の記事も前回に引き続き「海」に思いを馳せながら書きたいと思います。
日本は島国で、日本人は海の民とも言われます。
近頃は「里山、里海」などという言葉もよく耳にするようになりました。
しかし、言葉ばかりで実際に日本の海がどのような状態にあるのか、海や山と共にある自然の
中での暮らしは日常からますます遠のき、忘れ去られているように思います。

オランウータンもそうですが、気がついたときには「無くなっていた」ということになりま
せんように。

ところでみなさんは祝島ってご存知ですか?

「瀬戸内最後の楽園」とも呼ばれる祝島。
瀬戸内海に位置するこの祝島の対岸、山口県上関町長島に中国電力が上関原発の設置計画を
発表したのは1982年。
この地は以来現在に至るまで推進派、反対派相まみえる係争の地でもあります。

とはいえ、日本各地の原発と(その予定地)同様、日本人の多くは「何も知らない」まま、
自分のこととは思わずに日々暮らしています。
私自身、上関原発を強烈に意識したのは2009年の埋め立て作業着手の際の漁船での実力阻止
行動の映像を見たときでした。
金と力とあらゆる意味での大きな声で「楽園」での普通の暮らしを望む人々を追い出そうと
する。
これが国策なのです。
何が里山、里海なのか。
都合のいい時だけ使う美辞麗句が空しいです。

関係者はその後に起こった2011年の震災と原発事故をどのような思いで受け止めているので
しょうか。
そして私たち国民は何を望んでいるのでしょうか。
10年以上たった現在でも、工事計画は中断のまま、撤回されてはいません。
それどころか先ごろ(2022年7月14日)岸田総理は冬の電力の安定供給のために原発を最大
9基再稼働すると発表。
喉もと過ぎればなんとやらです。
でもこれが「経済のため、日本のため、国民のため」と言われると多くの人が「仕方ない」
と思ってしまう。

経済でも、日本でもなく、「あなた」は本当にそんなに電気が必要ですか。
電気を得ることの代償をきちんと考え、感じてほしいのです。
何十年と住民を分断し、人々の生活を壊しても、これがなくては喰っていけないと言わざる
えない社会。
電気のためなら、自分に関係なければそれでよいのでしょうか。

よく聞かれます。「自然エネルギーも、原発もだめだとしたら、何なら良いの?」と。

いえいえ、その質問自体、気がつかないのでしょうか問題のすり替えなのです。
電気(エネルギー)は「こっちがよくて、あっちが悪い」そんな単純な話ではないのです。
高い代償を払っているのにそのことに気づかずに信奉している、おそろしいものとしか言い
ようがありません。
電気代が高いなどとすぐ言いますが、それこそお金ではどうにもならないような高い高い代償
を払って私たちは「電気」を使っていると考える時にきています。

日本の国土の、田畑を全部合わせたような膨大な土地を壊し、「自然エネルギー」の発電所に
変えてしまうかもしれない再生可能エネルギー。
原子力発電所は日本中にすでに54基もつくりましたが、今なお新設予定地があり、放射能ごみ
は捨て場がなく、放射能汚染は海に山に残り続けます。

ところで、良いも悪いも、いま日本の電力の多くを賄っているのは、実際は「火力発電」
なのですよ。(2021年度の日本の電力は火力発電が71.7%、自然エネルギーが22.4%、うち
太陽光9.3%、風力0.9%、そして原発は5.9%です。)
オランウータンが暮らす熱帯の森はこの火力発電の原料となる天然ガス、石炭の大きな産出地
です。
こうした天然資源の開発のため、今日もオランウータンの森は破壊され続けています。
ところが、この現実は全く問われることも、顧みられることもなく「脱炭素」などといって
ごまかし、ごまかされている。

一度開発された土地は決してもとに戻ることはありません。
世界がどんなに脱炭素を叫ぼうが、世界にはたくさんの国があり、それぞれがみんな「発展」
を望んでいるとしたら、こうした世界の未来がどこにたどり着くのか、なんだか本当に恐ろ
しいです。
日本人はこの間、「先進国」として他に先駆けて発展の道を歩んできたわけで、気づかない
かもしれないけれど、私たちはその分高い代償を払っているはずなのです。

熱帯の森を壊しながらも、そんなことを考えもせず、相変わらず、1%足らずの風力をもっと
もっとと推進して、今度は日本の山々、そして海まで壊し、ごみを作り続ける。
それもこれも「脱炭素」、「脱原発」、「地球にやさしい」ため、なんて本当に思っている
のでしょうか。
この滅茶苦茶ぶりに気づいてほしい。
「あなた」は本当にそんなに電気が必要なのでしょうか?

「海と山さえあれば生きていける。海は絶対に売れん。」と何十年と原発建設に反対してきた
祝島の人たち。
こうした自然とともにある日本人の暮らしが過去のものになり、お金と電気さえあれば生きて
いける。それがもっとも大切だ。
そんな考えの人々ばかりになったらどうなるのでしょうか。

最後の楽園がなくなったら、もう本当に「最後」ということなんですよ、というこだまさんの
言葉。
里山という言葉も、里海という言葉も、山や海があるだけでは成り立ちません。
そこに人の暮らしがあるからこその里山であり、里海なのです。
人の暮らし、生き方は本当に大切なものだと思いませんか。
お金や電気の輝きに惑わされることなく暮らしていくにはどうしたらよいのでしょうか。

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2
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(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com

第49回 海からの手紙
    ~陸地と海はつながっている~ 瀬戸内最後の楽園、祝島から   

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」
第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2
第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」
第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい
第40回 <響き合ういのち> ヒルデガルト聖歌コンサート
第41回 2022年 年頭に考える 100年前の日本のこと、これからの日本のこと
第42回 熱帯雨林の現実 ~インドネシア、新首都建設へ~
第43回 熱帯雨林の現実 その2
第44回 春に考える
第45回 オランウータンの「考える」
第46回 霊長類研究を考える
第47回 さまよえるウラナミシジミ 霊長類学者としての私の原点
第48回 高校時代の思い出 ~清澄山の蝶と蛾の話~
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第49回 海からの手紙

    ~陸地と海はつながっている~ 瀬戸内最後の楽園、祝島から

久しぶりの記事更新になってしまいました。
こんにちは。鈴木南水子です。

今年の6月は観測史上初尽くしの記録的猛暑となりました。
これから日本列島は夏本番を迎えるわけですが、短い梅雨といい、夏の水不足、そして今後の
農作物への影響が非常に危惧されます。
でも、とりあえず目先の心配事は電力需給のひっ迫でしょうか。
エアコン無くしては生きられないかのような現代社会、狂ってしまっているようです。

そんな中ですが7月23日に、こだま まこと さんをゲストにお迎えしてのお話し会
「オランウータンに、いつまでも熱帯の森を」が予定されています。
https://www.ningenclub.jp/blog01/archives/2021/12/_part_4723.html

思い起こせば昨年6月、こだまさんの「海からの手紙 2021」を山田征さんにご紹介いただい
たのがきっかけだったのですが、なんとこの7月にわざわざこだまさんが山口県の離島「祝島」
からいらして、征さんを交えての鼎談が実現することとなりました。
ご企画くださったみなさま、貴重な機会をありがとうございます。

こだまさんは、にんげんクラブの会報誌(2022年1月)にも「海藻の砂漠化を防ぎたい、海から
の手紙」としてインタビューが掲載されているのでご存知の方も多いかとは思います。
反原発の運動をきっかけに山口県上関町祝島に移り住み、海藻の収穫出荷作業を中心に、海産物
販売「こだまや」さんとして、海辺から山までを一つの連なる生態圏と考え、海辺に豊かさを
呼び戻せる持続可能な農漁業を実践しながら暮らしている方です。

「自分では手に負えないことだからと言って、自分がやめてしまうのが一番つまらないこと
だから、結果がどうであれ伝えていくし、自分のできることをし続けよう、と思っている。」
このようにこだまさんは語っていますが、素晴らしいなと思います。

「美しい自然」という言葉は美しいですが、その背後に隠されている現実は、自然が「美しい」
といわれるほど厳しいし、問題がいっぱいです。
熱帯雨林の抱える現実を目の当たりにしていると、私も文字通り「自分には手に負えない」と
思うことばかりです。

「こんな不毛なことをなぜ続けるのか。」という問いをよく投げかけられますが、「勝ち目が
あるかなど問題ではない。大切なのはどんな人生を送るかだ。」というのは南米のとある生態
学者、活動家の言葉ですが、この言葉どうり、未来に向けて、ひとりひとりが生き方を問われ
ているのだとも思います。

自然に勝ち負けはない。人知の及ぶところではないという言葉がありますが、自然はそもそも
ヒトの手に負えないことばかりなのです。
オランウータンの生き方を見ていると、ヒトはもっと謙虚に、自然とともに歩めないものか
とも思いますが、ヒトはそんなことすら考えもつかない奢(おご)った生活を好んでしまう
ものです。

オランウータンは絶滅の危機と言われますが、彼らの苦境は実は私たちヒトの苦境なのです。
私はいつも「オランウータンに、いつまでも熱帯の森を」と言ってはいますが、これは取りも
直さず、私たちヒトのためでもあるのです。
豊かな、美しい自然を感じることのできないヒトの社会に対して、オランウータンは警告して
くれているのです。

最後にこだまさんが昨年の6月に書かれた「海からの手紙」を、ほんの一部ですがご紹介させて
ください。
海藻が、ひじきが、私たちに警告してくれている現実に戦慄を覚えます。
広い「海で起こったことは誰もわからない」、シーストーリーという言葉があります。
海は広いな大きいなと、なんでも水に流して気づかないままでよいのでしょうか。

「海からの手紙 2021」

毎年こだまや祝島ひじきを購入してくださっている皆様へ

 現在、世界中の海岸で海藻が激減しています。特にここ数年は祝島でも目に見えて海藻帯の
衰退がみられるようになりました。今年の祝島の磯はこれまでにない程の磯焼け(海藻が消滅
する現象)を起こしています。

 初春の祝島の磯では、これまで岩場を多様な海藻が埋め尽くし、岩肌が露出するという事は
ありませんでした。水深や海岸の条件によって棲み分けされた多様な種類の海藻の帯が綺麗に
島を一周取り囲んでいたのですが、それが今年はまだらに生息し、隙間には裸の岩肌が見える
程に海藻が少なくなっています。一部の海岸では全く海藻が無い砂漠のような状態になって
いました。

中略

また地球上の酸素の3分の2は海藻と植物プランクトンが生成しているという事実もあります。
陸地にある森林よりも多くの二酸化炭素を海洋植物は吸収しているのです。その海藻が環境
変化によって、たった一年にして砂漠になってしまうという事に、まだあまり目が向けられて
いません。地上の草木が一年にして砂漠になれば誰もが驚き、原因の究明と対処にすぐ力が
そそがれるかもしれません。しかし海の中で人知れず大きな役割を担ってきた海藻がこのよう
な危機にある事にはまだあまり目が向けられていないように思います。

陸地と海は繋がっています。森林伐採と単一樹木の植林によって森は保水力を失い、土砂や
有機物は海へ流亡し、さらに海底に堆積した有機物は嫌気性分解され、硫化水素やメタンを発生
させているともいわれています。水に溶けた硫化水素は海を酸性化し、このことも海藻はじめ
海の生態系を壊している原因といわれています。水温上昇によって活発化する嫌気性分解は、海
の酸性化だけでなくメタンの発生を通してさらに温暖化に拍車をかけています。このままいけば
地球全体の冷却装置であった海は、ある一線を超え蓄熱装置へと役割を変化させてしまいます。
その帰結は、加速度的な巨大台風や豪雨、猛暑の発生です。海藻の減少は、ただそれが食べられ
なくなる、ということではなく、異常を知らせる警告そのものに他なりません。

 新幹線や高速道路の為に行われたトンネル工事、埋め立てや護岸工事が地下水脈を変えて
しまい、海底に湧き出していた湧水が絶えてしまったとも考えられます。湧水は、大地に染み
込み、時間をかけて海まで流れ、海底に酸素と栄養素を供給し、海の生き物たちを底支えして
いたものでした。田畑への化学肥料や農薬の大量投入や工場生活排水によって悪化した水質は
かつての姿をいまだ取り戻してはいません。海岸には絶望的な量のプラスチックごみが漂着
し続け、波に砕かれもう二度と回収できない破片となって海水の成分の一部となっていって
います。

後略

7月の第3月曜日、7月18日は「海の日」だそうです。
祝日として1996年に定められた当初は、7月20日が海の日でしたが、国民が余暇を取れる機会
を増やし、観光業・運輸業が活性化される経済効果を狙ったハッピーマンデー制度によって
現行のようになりました。
海に感謝をささげると言いつつ、結局は「経済効果」狙いというのが、なんとも「らしい」話
ですが、ヒトの勝手な思惑ではなく、7月23日のお話し会では、こだまさんが伝える海からの
警告に、一人でも多くの方が真摯に耳を傾け、気づいてほしいと思っています。

どうぞよろしくお願いします。

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2
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(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
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第48回 高校時代の思い出 ~清澄山の蝶と蛾の話~   

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」
第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2
第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」
第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい
第40回 <響き合ういのち> ヒルデガルト聖歌コンサート
第41回 2022年 年頭に考える 100年前の日本のこと、これからの日本のこと
第42回 熱帯雨林の現実 ~インドネシア、新首都建設へ~
第43回 熱帯雨林の現実 その2
第44回 春に考える
第45回 オランウータンの「考える」
第46回 霊長類研究を考える
第47回 さまよえるウラナミシジミ 霊長類学者としての私の原点
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第48回 高校時代の思い出 ~清澄山の蝶と蛾の話~

こんにちは。鈴木晃です。

前回に引き続き、半世紀以上も前の話になりますが、私がオランウータンの研究、霊長類の研究
を始めるずっと以前、昆虫少年だった高校生の頃の話を書きます。

私の故郷である千葉県南部の中央部には房総丘陵と呼ばれる山系が広がっています。
山といっても千葉県には高い山はなく、丘陵と呼ぶのにふさわしい300m級の山々の連なりです
が、この一帯は標高が低くても非常に貴重な動植物相を有しています。
とくにこの丘陵の東端近くに位置する清澄山(きよすみやま、標高383m)は日蓮聖人が立教
開宗した霊場としても知られていますが、動植物の宝庫として多くの人々の関心をひいてきま
した。

清澄山一帯は清澄寺の境内にある清澄の大杉(国の天然記念物)でも有名ですが、黒潮の影響
を受けた温暖多雨の気候と起伏に富んだ丘陵部の地形が多種多様な動植物相を育み、千葉県のみ
ならず全国的に見ても非常に貴重な森林生態系を維持しているわけです。

ウラナミシジミの研究で生き物の世界に目覚めた高校生の私の次なるターゲットはこの清澄山
でした。
とはいえ清澄山に行くためには館山経由で汽車を乗り継ぎ、さらにはバスに乗り換え半日掛りの
行程です。
毎月こうして清澄山に通い、泊りがけで三日間程度、蛾や蝶の採集に没頭しました。
一軒だけあった茶店のおばさんのところに居候させてもらい、この茶店から長いコードを引いて
山の中腹で白い布を張り、夜間に電灯の光に集まる蛾を採集するわけです。

こうした私のコレクションの中には当時日本で1頭か2頭しか採れていない珍しい種類の蛾が数
限りなく入っていました。
もちろん最初から私にそれらがわかっていたわけではなく、その道の大家の井上寛先生との出会
いが大きかったわけです。

井上先生はその後、大作「日本産蝶蛾総目録 全6巻」 を陸水社から出すなど、その道でお名
前を知らぬ者はいないような大先生ですが、当時は藤沢の高校で英語の先生をやっておられ、
趣味で日本中の蛾を集めていると伺っていました。
そこで夏休みに早速私のコレクションを持って行ったわけです。

受験勉強そっちのけで、白い菓子箱のような紙箱に3箱、これと思われるようなものをえり抜き
、東京湾を船で渡って藤沢のお宅まで押しかけていったのです。
一面識もない千葉から来た高校生でしたが、先生は一目見るなり私のコレクションを大変評価
して下さり、これを機に私の採集熱はますます熱くなったわけです。

先生には以来、同定(種名を調べること)をお願いしてきました。
先生からいただく便箋いっぱいに綴られた横文字の学名種名の一覧の手紙のやり取りを懐かしく
思い出します。
井上先生は生涯で1000種を超える新種、新亜種を記載されています。
そして後にコレクションのほとんどを大英博物館(正確にはロンドン自然史博物館)に寄贈する
という快挙を達成されています。
それほど井上先生のコレクションは素晴らしかったのですが、日本の博物館等にはこうした
コレクションを寄贈するにふさわしい場所がないからとの理由であり、こうした面でも日本の
自然科学、博物学への理解、歴史の薄さが残念です。

さて清澄山での私のコレクションの中にはルーミスシジミという珍しい種がありました。
このルーミスシジミというシジミチョウは、明治の時代に横浜に宣教師として来日したヘンリー
・ルーミスというアメリカ人が、千葉県の鹿野山で最初に採取したのが始まりで、以後もあまり
採集記録がない珍しい蝶です。

西日本を中心に局地的に存在が確認されているものの、それらは点々としたもので、実際には
分布と呼べるほどの生息地はほとんどないのです。
古くから生息地の一つといわれてきた奈良県の春日山での分布は昭和40年代に絶滅が報告され
ています。
清澄山をはじめとする房総半島南部はルーミスシジミの分布の北東限にあたりますが、現在でも
その分布が確認されている貴重な生息地なのです。

さて、絶滅という話になると先程来書いている「採取」のせいだ、「乱獲のせいだ」と思われる
かもしれませんが、絶滅の大きな理由は「生息地、森林」といった全体の環境の問題なのです。
ルーミスシジミの生息地は、日本古来の自然豊かな照葉樹林といわれる森です。
幼虫はイチイガシなどカシの木の仲間を食草とします。
絶滅はこうした蝶の幼虫がくらしていける豊かな森が失われていった結果なのです。

次回に続きます。

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
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【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2
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(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com

第47回 さまよえるウラナミシジミ 霊長類学者としての私の原点   

===================================
第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」
第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2
第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」
第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい
第40回 <響き合ういのち> ヒルデガルト聖歌コンサート
第41回 2022年 年頭に考える 100年前の日本のこと、これからの日本のこと
第42回 熱帯雨林の現実 ~インドネシア、新首都建設へ~
第43回 熱帯雨林の現実 その2
第44回 春に考える
第45回 オランウータンの「考える」
第46回 霊長類研究を考える
===================================

第47回 さまよえるウラナミシジミ 霊長類学者としての私の原点

こんにちは。鈴木晃です。

先般、霊長類研究所が解体、消滅となりました。
かかる事態に、科学とは何か、学問とは何か、霊長類学が抱える問題とは、申し上げたいこと
は多々ありますが、久しぶりにこの紙面を借りてしばらく書きたいと思います。
(詳しくは ああ 京大 霊長類研究所
https://orangutansuzuki.blog.fc2.com/をご一読ください。)

旬のそら豆が出回るこの季節になると、私は私の霊長類学の歩みの原点ともなったウラナミ
シジミとの出会いを思い起こします。
ウラナミシジミが飛び交う一面のそら豆畑は霊長類学者の私にとっての原風景でもあります。

ウラナミシジミとは、マメ科植物を食草とする翅(はね)の裏側が茶色と白の細かい波上の紋
でおおわれている、後翅に小さな突起紋があるのが特徴の小型の蝶(シジミチョウ)です。
飛んでいると薄青色のごく小さな蝶です。
英語ではLong tailed blue(ロングテールドブルー)といいます。
英語でブルーというと、その語だけでシジミチョウの意を表すのですが、実に特徴をとらえた
名前です。

私がウラナミシジミを知ったのは高校2年生の最後の3月のことでした。
「さまよえるウラナミシジミ」の名文を磐瀬太郎先生が雑誌「新昆虫」の、その年の3月号に
書かれたのを購読したのが最初のきっかけでした。
この論文に大変感銘を受けた私は、すぐに先生に手紙を書き、野外での生態調査をスタート
したのです。

1906年生まれの故磐瀬太郎先生は、現在でも蝶の愛好家の間では大変有名な方です。
東大経済学部を銀時計(首席)で卒業後、銀行家となった先生ですが、同時に日本の蝶学の
指導者でもあり、私にとっては「科学」の心を育ててくださった恩師でもあります。

「さまよえるウラナミシジミ」 今でもこの論文を読んだ時の衝撃は忘れません。
病身の磐瀬先生は自由に動けないご自身に代わって、この論文で全国の読者に向けウラナミ
シジミの生態を皆で調べようと呼びかけたのです。

当時日本の蝶240種余りはこのウラナミシジミを除いては、全種類の越冬スタイルがわかって
おり、冬の姿がわかっていない蝶はウラナミシジミだけでした。
この蝶の冬の姿がわかったら大変なことだということが磐瀬先生の生き生きとした筆で書かれ
ていました。
この論文を読んですぐ、私は「これは私がやるべきこと」と思ったわけです。
そしてそれ以来、私はこの磐瀬先生の使った「さまよえる」という言葉が大好きになったの
です。

こうして高校3年生に入り私はすぐに研究をスタートしました。
私の暮らす房総半島は温暖な気候で、ウラナミシジミが唯一冬でも生き残ることのできる冬の
発生地だったのです。
ウラナミシジミが観察できたのは千葉県の南端、白浜町砂取というところでした。
この地で冬の間もウラナミシジミは越冬のソラマメの花を食べて暮らしていたのです。

通常ソラマメの花は春に咲きはじめますが、無霜地帯である暖かいこの地では露地栽培で早く
からソラマメの花が咲きます。
ウラナミシジミが舞っていたのは白浜町のとくに山間の暖かい場所でした。
このソラマメの促成栽培を行っている地域は濃厚に卵、幼虫、成虫が観察でき、私は一帯を
自転車で訪ね回わり観察を続けました。
すぐに磐瀬先生に報告の手紙を書くと同時に、先生のご指導のもと次々と調査の手を広げて
いきました。

季節の移り変わりとともにウラナミシジミの食草はソラマメからエンドウマメに移り、産卵
活動もそれにつれて拡大。
6月になるとエンドウからインゲンマメへと移っていきます。
私の活動範囲も白浜地区から館山地区へ、さらには千葉県内を一気に木更津を越して北上して
いきました。

その年に北海道の読者が北海道まで渡ったことを観察。
これは北海道での初記録となりました。
これらの情報はすべて手紙のやり取りで磐瀬先生のもとに寄せられ、生きた情報となって全国
の読者に共有されたのです。
ウラナミシジミの動きは活発で目まぐるしかったのですが、磐瀬先生からの手紙もそれ以上に
活発に私のもとに寄せられました。
青森の竜飛岬からの情報もありました。

この年私の始めた研究は、季節を追ってウラナミシジミの食性、分布を調べたものとして
まとめ、翌年の「新昆虫」誌に詳しく発表しました。
この記事はこの年の読者優秀特別賞なるものをもらい、同誌にも掲載されました。

日本における蝶の研究を進めようと、とくに私のような高校生を含めたアマチュアに広く呼び
かけ、指導した磐瀬先生。
その後も磐瀬先生との思い出は尽きませんが、これはまた後述するとして、私のノマディック
研究の始まりとなったのが、このウラナミシジミの研究でした。

ノマディック研究とは私が勝手に名づけたものですが、日本語では「遊動」とでもいうので
しょうか。
生き物が広く動き回る習性と自然界の仕組みを解き明かすことは私の生涯の研究テーマでも
あります。
ウラナミシジミからはじまり、ニホンザル、チンパンジー、オランウータンと私の研究対象は
移っていきましたが、このテーマは共通のものです。

そしてさまよいめぐるこの姿は私たちヒトの姿そのものでもあります。
アフリカで誕生したヒトの祖先はいまや地球上あらゆる場所に拡散しています。
このヒトの習性はどこからきて、どこへいくものなのか。
霊長類学の奥はまだまだ深いのですが、そのきっかけとなった出会いがウラナミシジミとの
出会いだったのです。

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


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第2回 野生オランウータンの研究
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第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」
第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2
第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」
第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい
第40回 <響き合ういのち> ヒルデガルト聖歌コンサート
第41回 2022年 年頭に考える 100年前の日本のこと、これからの日本のこと
第42回 熱帯雨林の現実 ~インドネシア、新首都建設へ~
第43回 熱帯雨林の現実 その2
第44回 春に考える
第45回 オランウータンの「考える」
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第46回 霊長類研究を考える

ヒトの特徴は何といっても大脳の発達と直立二足歩行といわれるものです。
このところこのブログのテーマとなっている「考える」という行動。
これは大脳の発達によってヒトが得た、ヒトを最も人として特徴づける行動のひとつといえる
のではないでしょうか。

ヒト以外の生き物たちも確かに驚くべき能力を持っています。
しかしこうした行動は「本能」によるものであり、ヒトの「脳」の働きに基底をなした「考え
る」という言葉で代表されるような知的作業を伴ったものとは本質的には異なるわけです。

それでも私たちは動物を評してよく「賢い」という言葉を使います。
特にオランウータンをはじめ、チンパンジー、ゴリラ、ボノボといった類人猿の仲間は「類人
猿」と命名されているように、進化の歴史の中でヒトに最も近い生き物であり、彼らは実に
「賢い」生き物です。

教えなくとも、まして教えれば様々な驚くべき能力を発揮します。
道具の使用はもちろん、カードゲームを操り、絵や文字でコミュニケーションをとり、
コンピューターだって使える、等々いろいろなメディアでも報じられているので、みなさんも
ご存知でしょう。
チンパンジーとオランウータン、どちらが賢いですか?とか、ヒトでいうと何歳ぐらいのレベル
ですか?とか、この手の質問、関心は枚挙に暇ない感じです。

確かに、こうした作られた、演出された「賢さ」から導き出された擬人的結論は一見センセー
ショナルで人目を惹くかもしれません。
しかし、私たちフィールド(現場)での観察者は、自然の中での自然の観察の積み重ねにこそ
意味があるわけです。
「賢い」彼らを、ヒトの目を通して、擬人化しすぎることなくいかに客観的に捉えるか。
また、霊長類という、もしかしたらヒト並みの長寿の生き物をいかに観察し続けるか。

なにしろ、現場においての決定的瞬間は、ヒトが見ていなければ、「なかった」のと同じです。
「アリを見つめるオランウータン」も、その時その場に、そのオランウータンを見つめる観察者
がいなければ、そんな事実は永遠にわからない、なかったのと同じです。
でも、あえて「賢い」と擬人化したくなるような「賢い」、その瞬間は自然の中に確かにある
のです。

この4月1日に、日本で唯一の霊長類の研究所であった京都大学霊長類例研究所が解体、消滅と
なりました。
本来、霊長類の研究という、現場でのこうした気の遠くなるような研究を支えていくはずだった
研究所ですが、結局は地味で地道な研究への理解は進まなかったと言わざるをえません。

この期に及んでの日本の霊長類学の無力さを象徴するようなお粗末な話です。
いったい研究とは何なのでしょうか。
この間の経緯に関しては鈴木先生が別途書いておりますので、ぜひそちらをご一読いただければ
と思います。
ああ 京大 霊長類研究所https://orangutansuzuki.blog.fc2.com/

近年遺伝子研究が進み、ヒトとチンパンジーの遺伝子は99パーセント同じなどと、何でも遺伝
差異で語られますが、それでもやっぱり本当はわからないことばかりなのです。
遺伝子配列が限りなく近いといっても同じではない、その違いが何を意味するのか。
チンパンジーはいくら賢くてもチンパンジーです。

この客観的事実を忘れたかのようにチンパンジーをひとり、ふたりと表したりすることで本筋を
胡麻化していては本末転倒です。
霊長類の研究が進むにつれて、本能と思われていたものが実は・・・とか、知性はヒトだけの
ものじゃないとか、いろいろ言われています。
確かにそうでもあるけれど、ではどうしてヒトはヒトとなったのか。
この壮大なる問いが、霊長類学の根底にはあったわけです。

類人猿が、こんなこともできる、あんなこともできるといって、ひとつのことをヒトが教え込ん
で、それがうまく出来たからといって、果たしてこれは「賢い」ということになるのでしょうか。
あまりに短絡的、一眼的視点でもあります。
それぞれがそれぞれに賢い。
でも、賢いから何だというのでしょうか。
その部分を追及するのが学問の使命でもあります。

自然の中での観察から、それぞれの種が持つ本来の「賢さ」を明かしていく。
野生の生き物たちはじゃんけんもしなければ、ゲームも、コンピューターもありません。
彼らが本来持っている「賢さ」とは何なのか。ヒトが作り出すのではなく、もっともっと、
現場で、ありのままの彼らの姿を見ていく必要があります。

ましてオランウータンなどは、容易に擬人化しやすいだけに、観察者自身が、自然を見ていく
中で観察者としての客観性を磨き育てていかなくてはならない、そういう生き物です。
表面的に「ヒト的」なことに目を惹かれているだけでは、いったい何を見ているのかわかりま
せん。

まだまだ研究者は知らないことばかりです。
でも、そうした未知の部分のほんのわずかのところにこそ、人との共通点、知の根幹が隠されて
いるように思えるのです。

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
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第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
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第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
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第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
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第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
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第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい
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第42回 熱帯雨林の現実 ~インドネシア、新首都建設へ~
第43回 熱帯雨林の現実 その2
第44回 春に考える
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第45回 オランウータンの「考える」

前回は「人間は考える葦(あし)である」ということで、ヒトの「考える」について書きました
ので、今回はオランウータンの「考える」についてご紹介したいと思います。

拙書に「オランウータンの森」(国土社 写真/鈴木晃・文/鈴木南水子)という写真絵本が
あります。
この中に、オランウータンの「考える」という行動を実に象徴的に示している1枚があります。

一頭の壮年のオスのオランウータンが、細い枝先を伝い歩くアリの隊列に見入っている様子を
とらえたものです。
こんな一瞬を写真に残せたのは、鈴木先生の長い観察のなかでもこの時だけ。
私たちはこの1枚の写真を「アリを見つめるオランウータン」と呼んでいます。
言葉で書いてしまうとなんだか陳腐ですが、非常に珍しい1枚です。

最初にこのオランウータンの姿を見たとき、おかしな格好をしているなあと思ったそうです。
通常オランウータンは高い木の上にいるのですが、この時は低い茂みの中で、地上からは1.5
メートルぐらいのところでしょうか。
一頭の大きなオスが両手両足で細い木にぶら下がった体勢のままで、いつになっても動かない
のです。

何だろうと思って超望遠レンズで覗いたところ、見えてきたのが一匹のアリの姿だったのです。
この望遠レンズは当時の最高級のニコンのレンズで、貧乏研究者の身では、後にも先にも
こんなに高性能のレンズを入手できたことはなかったのですが、この時はなんと運がよかった
ことでしょう。
重い重いレンズを森の中まで背負ってきたおかげで、小さなアリの姿をはっきりと捉えることが
できたのです。

巨体のオランウータンが、微動だにせず見入っているのが小さな、小さなアリだったということ
に気づき、驚愕しました。
野生のオランウータンは通常シロアリを食物にしますが、この写真のアリは食用でもない普通
の黒アリです。
食べ物としての興味の対象でもないのに、ただただ魅入っている姿は、まさにエントモロジスト
(昆虫学者)でした。

最初は夢中でカメラのシャッターを切っていましたが、ちょっと落ち着いてよく見直してみる
と、なんとこのオスのオランウータンは自分の顔の前に垂れかかる邪魔な小枝を折って、アリを
見やすくしているのです。
この小枝は気づいたときにはすでに折られていましたから、観察者である私たち人間が彼を見つ
ける以前からすでに彼はこのアリを、邪魔な小枝をそっと折りながら観察し続けていたのです。

その後も飽くことなく40~50分はそのままの格好でぶら下がっていたでしょうか。
一体彼は何を考えているのでしょうか。
そう思わずにはいられないオランウータンとの唯一無二の出会いだったそうです。

誰に教え込まれるわけでもなく森の中で、人知れずアリを見つめるオランウータン。
こんなオランウータンが実際に、現実に熱帯雨林の中に暮らしているのです。
自然の中での観察を積み重ねていくことは非常に難儀なことではありますが、こうした積み重ね
の中に野外研究の真髄が、そしてヒト化への道のヒントがあるのではないかと私は思います。

類人猿のような生き物を研究していく上で安易な擬人化は危険な行為であります。
彼らは何かを教え込めば非常に上手に真似します。
敢えて教え込まなくても驚くべき能力を持っています。
それらを「賢さ」と表現することは簡単ですが、自然の中での彼らのいわゆる「賢さ」を研究者
はどう捉え、私たちはそこから何を導き出していくのか。
類人猿の研究は非常に深いものだと思います。

野生のオランウータンが何の目的で、何のために熱帯雨林の中で「アリを見つめていた」のか。
私にはその答えはわかりませんが、「考える」彼の姿を見ると、敢えて擬人化して表現したい。
これこそ「好奇心」だし、「観察」だし、「知性」だと。
そして、こうした彼らのやらせでもなんでもない自然の姿をこれからも残していかなくてなら
ないと強く思うのでした。

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
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第43回 熱帯雨林の現実 その2
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第44回 春に考える

冬とはいえ今年は一段と寒い2月に感じましたが、3月に入ると一気に春めき、遅れていた梅も
あっという間に散り梅になってしまいました。
ここ数日の暖かさで、気づいたら花桃も木蓮も、花という花が急に満開。
いよいよ春本番ですね。
もうあと数日もすると桜の便り一色になるのでしょう。
コロナ禍で迎える三度目の春となってしまいましたが、自然は相変わらず確実に移ろい、その
生命力の素晴らしさを私たちに見せつけてくれています。

ウィルスに、戦争にと混沌(こんとん)としているヒトの世界に身を置くと、自分の身の回り
のことばかりに注意が限られてしまいがちです。
さらには多様で変化のある世界を自分の目で見つめて考えるよりは、いつの間にか手軽で、
自分では考えないで済む世界を好んで受け入れがちなものです。
季節は移ろえども、いまやヒトの世の中はワクチンやマスクで一色です。

昨年末のNHKの番組で放送されていたそうですが、いわゆる"コロナ予算"は、新型コロナ
の流行が本格化した令和2年度だけで、総額77兆円にのぼるそうです。
国民1人あたり、約60万円の計算だそうです。
ワクチン接種、国のマスク配布、Go To。
補助金、交付金、給付金等々、お金をもらえるならばよいということでしょうか、その使い道
はあまり問題にもなりませんが、これらはみんな国債、借金なのです。

東日本大震災の復興予算は、10年あまりの総額で約32兆円だそうですが、"コロナ予算"は、
なんと単年度で、復興予算の2倍以上をも使ってしまったということなのです。
知っていましたか?いったいこれで大丈夫なのでしょうか。
もうすこし私たち一人一人が真剣に多面的に考える時にきていると思います。
ちなみにこの間、熱帯雨林やオランウータンの保護の活動には持続化給付金どころか予算は
全くないのです。

ところで、私たちオランウータンと熱帯雨林の会では会の発足当初から「森人処もりびと
どころ」と名付けた有志の会合を持っています。
コロナ禍で人が集まりにくい時代になってしまいましたが、そんな時にも、そんな時にこそ、
森のこと、自然のこと、地球のこれからのこと考えてみませんかということで、細々ながら
現在でもこの集まりは続いています。

さて、2月の森人処であらためて「もりびとどころ」って何?何をするところ?という話題に。
弊会ホームページでもご紹介していますが、森人処というのは「森と森の人(オランウータ
ン)について考えようという人たちが、ともに集い、学び、語り合う場所
」です。
自分のことだけではなく、たまには熱帯雨林やオランウータンのことも考えてみませんか?


でもこの答え、いまひとつ受けが悪い。
「考える」集まりなんて「重い」、「めんどうくさい」イメージだと。
う~ん。たっ、たしかに・・・否定はしませんし、もっと良いアイディアがある方は、ぜひ
教えてほしいところですが、私は敢えて言いたいと思います。
私たちの集まりは「考えよう」、「考えたい」という人たちが「気づく」きっかけとなる
集まりでもあると。

考えるなんて・・・めんどうと言わずに、森人処では敢えて考えることの必要性を訴えてい
ます。
考えるよりも行動を!だとか、学ぶよりは実践が!という言葉はよく耳にします。
でも、自ら考えることなく、手軽に、与えられた「こと」に従い、実践するだけが行動では
ありません。

一人一人のヒトが何を考えるかは非常に重要なことです。
考えた挙句、戦争をしたり、原発を作ったり、IT社会を礼賛したり、愚かなことに走るのが
ヒトでもありますが・・・。
考えることによって、物ごとをより多面的に、多角的に捉えることもできるはずです。

かのパスカル(17世紀のフランスの思想家)は彼の著書「パンセ」に「人間は考える葦
(あし)である」という有名な言葉を残しています。
広大な宇宙、自然に比べれば、人間は無に等しく、か弱い「一茎の葦」のような存在でしか
ない。
でもそれゆえに「考える」ことによってのみ、「人間が人間として存在しうるのだ」と。
ちなみにパンセはフランス語で「考える」という意味。

オランウータンも、孤児にエサをあげようと頑張る前に、野生のオランウータンというものが
どのような生き物なのか、自然とはどういうものなのかを今一度考えてみるとまた違った世界
が見えるものです。
孤児にエサをあげることが、彼らの保護になるという考え方は、ヒトを中心とした考え方
ではないでしょうか。

自然や、森や、そこに暮らす生き物を通して「考えて」みる。
経済だとか、効率だとか、便利だとか。
価値観、選択肢はひとつではありません。
熱帯雨林やオランウータンの存在を考えることで、物事には裏も表もあり、多種多様であり、
その一つ一つに価値があるということに気づくきっかけとなるかもしれません。
私たちの森人処の集まりは毎月第2土曜日に開催しています。

先日の森人処で話題にもなったのが冒頭で紹介した77兆円のコロナ予算。
熱帯雨林やオランウータン以上に私たちひとりひとりに関係のあることのはずですが、共通点
は「無関心」とでも言えるような国民の無関心ぶりです。
知らなかったでは済まされない。そう思いませんか?

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com

第43回 熱帯雨林の現実 その2       

===================================
第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」
第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2
第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」
第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい
第40回 <響き合ういのち> ヒルデガルト聖歌コンサート
第41回 2022年 年頭に考える 100年前の日本のこと、これからの日本のこと
第42回 熱帯雨林の現実 ~インドネシア、新首都建設へ~
===================================

第43回 熱帯雨林の現実 その2


さて、インドネシア政府が首都移転を計画するカリマンタン島の新首都ヌサンタラ。
2年前の発表当時は「熱帯雨林の中で、まだ名前もない」場所とされていました。
いずれにしろ現在の首都ジャカルタからは海をはさんで直線1300キロの距離ですから、
ほとんどの人は行ったことも見たこともない。「熱帯雨林の中」と思っているのです。

一方で熱帯雨林の開発に関しては、このご時世ですから「環境に配慮する」ことは当然
標榜されています。
開発するのは原生林ではなく環境破壊にはつながらないとインドネシア政府は発言にも
配慮を欠きません。

さて、では一体この計画予定地はどのような場所なのでしょうか。
以前書いたかもしれませんが、この予定地を通って私たちはいつも研究地であるオラン
ウータンの森まで行くわけです。
国際空港のある石油の町バリックパパンから尾根沿いに州都サマリンダまで道路が通って
おり、これが長い間、唯一の幹線道路でした。

熱帯の森というと平らな地形に思うかもしれませんが、実際にはアップダウンが激しい、
ジェットコースターのような道です。
確かに道に沿って人々が住み着き、耕作地が広がっているところもあり、いわゆる原生林
は全く残っていないような土地ではありますが、多くは一見高木に囲まれた森の中です。
こうした森を二次林と呼びます。

そもそも熱帯雨林の中に道路を作っておいて保全も再生もないわけです。
道が作られることによって、まず沿線の森が切られ、さらには奥地へ奥地へと切り進んで
いく。
これが熱帯雨林の違法伐採のもっとも典型的なパターンです。

サマリンダへの幹線道路沿いも、かつて広がっていた原生林はこうした伐採や、これに
先立つ大規模な商業伐採を経て、その多くはすでに失われていました。
問題はこの後です。
この地に「熱帯雨林の再生」と銘打って、インドネシア政府はもとより、各国が地元の
大学や研究者と協働して、これまで数々の植林を試みてきたのです。
大規模な植林のために、さらに森が切られる。
今から40年以上も前の話です。

当時、日本は世界の熱帯木材の4割以上を輸入し消費していると言われていました。
そして大量伐採の埋め合わせとしての「植林」プロジェクトに、国際社会をはじめ多くの
資金が動いたのです。
天然林(原生林)の保全を棚上げにしてどんどん切ってしまい、いったい何にお金を使って
いるのか。
これが私の正直な感想ですが、そんなことはお構いなしです。

熱帯における天然林の再生を人工的に行う。
これは現在に至ってもヒトが思っている以上に困難なことなのですが、そのための研究や
プロジェクトと称しては、森が切られ、そこに植林してはまた切られる。
○○本植えた、○○ヘクタール植えたと言っても、結局は何も残っていない。
しかしこの事実はあまり検証されません。
この新首都予定地の森はそうしたヒトの愚行が重ねられてきた場所なのです。

熱帯雨林の再生に関しては、日本もプロジェクトにかかわってきた一員で、林野庁をはじめ
日本人の関係者も多く、愚行と書いてしまうと申し訳ありませんが、「自然」がいかにヒト
の考えるようにはならないものなのか、教訓は今に至るまで全く生かされていないように
思います。
熱帯の森が再生できるというのは、ある意味、開発のためのカモフラージュです。

さて植林プロジェクトの失敗はさておき、ではこの地がそのまま荒れ地となっていたかと
いうと、多雨な熱帯ですから、その後30年も経ち、移住者がいない場所には早生樹が育ち、
二次林が発生し、場所によってはそれなりの森になっていたわけです。
でもまあ天然林ではないから、価値のない森として開発されていく運命にあるわけです。

熱帯雨林の再生でもっとも重要なことは、木を植えることではなく、植えた木をどうしたら
切られないで、何十年も何百年も残し続けることができるか。
現場にその管理体制を、その「心」を育てていくことなのです。
せっかく植えても、植えたこと自体忘れてしまって、首都予定地になってしまう。
なんという無駄な努力でしょう。

実はこの新首都予定地にはオランウータンの孤児の収容施設、ワナリサットリハビリテー
ションもありました。
オランウータンのリハビリ事業も、結局は森林開発のカモフラージュです。
リハビリが可能だと世の人に思い込ませることは、本当の意味での野生のオランウータン
の保護、生息地保全の必要性を考えなくさせる。
そのための隠れ蓑の役割を果たしてきていると、私たちは訴え続けています。
リハビリ事業は野生のオランウータンにとって、実に罪深いものです。

今回の首都建設も、国家開発企画庁長官によれば、保護林では建設事業は行われず、放棄
された鉱山や違法なパームオイル生産プランテーションでは森林再生が計画され、中国の
成都にあるジャイアントパンダ保護センターのように、オランウータン保護センターを
建設することも提案しているそうで、まさに、「良いこと」のてんこ盛り。

しかし、みなさん、知らないから言いたい放題なのです。
過去に学んでほしい。
そして少しでも、自然を、環境を、地球を考えてきた人は、良いことを言うのではなく、
これまでのヒトの数々の愚かさを明らかにしてほしい。

これまでだって、保護林も国立公園もあり、幾多の森林再生の試みがなされ、オランウー
タンの保護も、いつも叫ばれていたのです。
「良いこと」のために集められた資金は結局、開発を後押しすることにしかなっていない
のです。

熱帯雨林の中に都市を、首都を建設して「自然への影響があまりない」ことなどありえ
ないのです。
「環境にも、人にも優しい未来都市の建設」。絵空事は絵空事です。
開発をするなら、良いことにだまされずに、自分たちが何を失い、何を犠牲にするかを
もっと真剣に考えなくてはいけない。

でもこれは自分のことではない、インドネシアのこと、遠い国のこと。
あなたはそう思っていませんか?

これが熱帯雨林の現実です。

私もインドネシアという国が発展していくこと、発展しようとすることを否定する気は
ありません。
でもオランウータンという生き物が象徴する熱帯雨林の価値と希少性を誰よりもよく
知っているひとりとして、その保護と保全のために少しでも協力したい。
そのためにやれることがあるのです。

より良き発展のためには、これまでの繰り返しではだめです。
ヒトは、過去に学び、未来を考えなくてはいけない。そう思いませんか?

(次回へつづく)

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プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


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第1回 森の人 オランウータン
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第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
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第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
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第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
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第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
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第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
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第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」
第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい
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第41回 2022年 年頭に考える 100年前の日本のこと、これからの日本のこと
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第42回 熱帯雨林の現実 ~インドネシア、新首都建設へ~


インドネシアの国会はコロナ禍の2022年1月、首都をジャワ島にあるジャカルタからカリマン
タン(ボルネオ島)に移す「首都移転法案」を賛成多数で可決。
新首都の名称はインドネシア語で群島を意味する「ヌサンタラ」に決定。
こんなニュースがつい先ごろ報道されました。

遡ることすでに2019年8月にインドネシア政府は首都移転計画を公表。
この時、新首都予定地は「熱帯雨林の中で、まだ名前もない」場所、カリマンタン島の東側
という意味のカルティムといった程度の報道でした。
実は発表当時、私はジャカルタに滞在していたのですが、ジャカルタ市民にとってはこの
ニュースはどこか遠くの話で、政権が代わるたびに出てくる世迷言。
「ああ、また歴代大統領の夢の話ね」といった冷めた反応。

でも私にとっては大変な「事件」でした。
と言うのも、「誰もどこにあるかよくわからない場所、行き方もわからない」このカルティム
こそが、実はこの数日後に私が行く予定の場所だったのです。

研究地である野生のオランウータンのくらす森は正確にはさらにここから北方に200キロほど
離れた場所で、距離的、時間的には一見遠いように思うかもしれませんが、いずれにしろやがて
は「新首都ヌサンタラ」のとなりの森となってしまう、そのような差し迫った話なのです。

熱帯雨林は広大で、カリマンタンのどこにでも森があるとみなさんは想像しているかもしれま
せんが、そんなことはありません。
今や熱帯雨林と呼べるような原生林は非常に限られた場所となり、一度道路が整えられれば
どこにでも容易にヒトが近づけます。
ヒトは持続可能な開発と言いつつ、終わりなき発展を求めていくわけです。
もはやオランウータンの森など残されていないのです。

発表によると移転先はカリマンタン島の森林や草原が広がる約25万ヘクタールの敷地で、
移転費用は現時点では350億ドル(約4兆円)。
今後、移転を主導する機関を設置して、大統領宮殿や国会など政府機能の建設に着手、2045年
までの移転完了を目指すとのこと。
まずは今年末から2024年までに公務員50万人を移動させる。
いずれは100万人、150万人と夢を語っています。

国家としての移転予算は全く足りず、計画を推し進めることで、開発マネーを集めようとの
胸算用でしょう。
ソフトバンクの孫正義氏も計画発表後真っ先に賛同と協力を表明していました。
東カリマンタンが新首都に選ばれたのは、なんといっても原動力はその豊富な地下資源と、
それに伴う資源マネーです。

熱帯雨林など「開発しなくてはいけないもの」なのです。
この熱帯雨林の現実を世界はどうとらえるのでしょうか。
脱炭素だ、SDGSだと、きれいごとを言っているだけでは、どうなっていくのでしょうか。
首都移転に関しては政治的な思惑も色濃く、実行性、実現性まだ何とも言えない状況です。
しかし、これだけは確実です。「一度転がりだしたら止まらない。」

たとえ首都が出来ようが出来まいが、予定地はもとより、カリマンタ全体の熱帯雨林は確実に
失われます。
そしてその影響はオランウータンの森のみならずとんでもない広がりを持っていると考える
べきでしょう。
とにかく「熱帯雨林は開発しなくてはいけないもの」。
そんな価値観を否定することができない世界だということを、世界の人は認識するべきです。

東カリマンタンの州都サマリンダは大河マハカム川の北側に広がる古都ですが、マハカムを
はさんだ南側一帯が今回の新首都予定地です。
今手元に1989年に開かれた森林フォーラムという国際シンポジウムをまとめた本があります。
このなかで、まさにこの地のことが触れられていますので一部を抜粋でご紹介します。

「(数年前、カリマンタンは緑一色だった。)ところが今回、東カリマンタン州をバリクパパン
から州都のサマリンダまで(小型機で)横切ったら、視界に入るのは山を縦横に走る林道と
ハゲ山、草原の中に真っ黒こげになったまま佇立する大木、赤土の山に野積みにされている
大小の丸太、あるいは畑らしいものばかりです。」

そうなのです。すでに1980年代にはこの一帯の森は伐採され、荒れ果てていたのです。
それなら開発しても仕方ないねと、みなさんは思いますか?

でもちょっと考えてください。
この地も50有余年前は一面の原生林だったのです。
ではなぜその原生林が今や「開発しても環境には影響がない」といわれるような場所になって
しまったのか。
ある意味今回の首都移転計画は熱帯雨林再生プロジェクトなどと銘打つ取り組みの苦い失敗
事例なのです。
その裏と表を誰もが知らないまま、熱帯雨林の現実に目を背けたまま、仕方ないと思っていて
は、熱帯雨林は消滅します。

首都移転はこれからスタートするように思うかもしれませんが、そのための熱帯雨林開発計画
はすでに50年前から始まっていたとも言えます。
熱帯雨林は決して無秩序に、無計画に、規制なく荒らされていっているのではないのです。

長くなるので詳しくは次回に。


(次回へつづく)

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1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

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(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

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第41回 2022年 年頭に考える
    100年前の日本のこと、これからの日本のこと      

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
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第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
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第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
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第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
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第41回 2022年 年頭に考える
    100年前の日本のこと、これからの日本のこと


本年もどうぞよろしくお願いします。

今年は2022年。

年頭にあたり、ちょっと考えてみた。100年前の日本って、どんな時代だったのだろうかと。

100年前は 1922年 大正11年 です。
昭和が遠くなったと言われる今、大正なんて知っている人がいなくなり大昔、と思うなかれ。
今後の日本人にとっても、学ぶことの多い、身近な時代に思えます。

実はこの時代は、日本は経済発展を遂げ、いろいろ社会に問題はあるものの、一見、繁栄
した物質文明を謳歌している「よい時代」。
これは今の日本のことではないのです。100年前の日本。
でも今の日本人の指向にも似ていませんか。
その先にある時代を考えるうえでも、1922年という年は大切な年だと思います。

1914年の第一次世界大戦を期に、日本の景気は一気に急上昇。
工業生産高は5倍に跳ね上がる。
企業利益も急増、未曽有の戦争景気の到来は、成金を続々と出現させた。
ちなみにこの「成金(なりきん)」という言葉は、このころの新語という。
日本の資本主義は、この時代に飛躍的に発展したわけです。

しかし表面的な繁栄の裏側で、労働者や農民をはじめとした民衆の生活難、貧富の格差は
広がり、物価の上昇は続くばかり。
こうした不満は米騒動(1918年)で急激に全国へ波及するのですが、この国民の不満を
収めるべく登場し、熱しやすく、冷めやすい日本人に大歓迎されたのが「平民宰相」原敬
でした。

1919年パリ平和会議でいわゆる5大国の仲間入りをし、国際連盟の常任理事国となった日本
を世論は「一等国」になったと誇ります。
先ごろのドラマで渋沢栄一をやっていましたが、明治維新以来「一等国、一等国」を連呼
していた、その一等国についに日本が仲間入りしたわけです。

「平民」という名の、実際は妥協、妥協の、日本で最初の政党内閣の誕生です。
四大政策は 教育の改善、交通通信機関の整備、国防の充実、物価の調整(産業の奨励)

大正時代はデモクラシー運動も大きな高まりをみせ、「世界の日本」として、デモクラシー
と平和に向かおうと、世界に遅れまいという革新の気質が、国民の間に広く広がっていく。
そういえば与謝野晶子をはじめ、「女性」が活躍したのもこの時代。
政府は「国防の充実」と言って、軍事費は過去最大規模なのに、国民は「平和、平和」と
言っている。そんな時代です。

こうして書くと、100年前も並ぶ文字は今と大して変わらないような気がしませんか。

ロシア革命への干渉戦争であるシベリア出兵(1918)では日本は7万2千人の日本軍を派兵。
他国が撤兵するなか日本だけが駐留を続け、欧米列国、特にアメリカとの関係を悪化させ、
ロシア人の敵意を買うばかり。
大きな損害を出しながら何の利益もなく、ようやく撤兵したのが1922年のこと。

各国の真意はどうあれ、一応世界は軍縮への動き。
1922年2月に批准されたワシントン軍縮条約を受けての渋々の日本政府の対応なわけですが、
日本は1922年にはなんと世界に先駆けて航空母艦「鳳翔」なるものまで建造しているのです。
航空母艦というのは海上で戦闘機が離着陸できる、そういう戦艦です。

さて、今年は関東大震災から99年目の年。来年2023年は関東大震災後100年です。
発展を遂げつつある一等国日本を突然襲ったのが1923年 大正12年9月1日の大震災でした。
昨年最後のブログにフランク・ロイド・ライトの設計による帝国ホテルの話を書きましたが、
この帝国ホテルが建設されていたのも1922年。
そして紆余曲折を経て、この帝国ホテルの竣工式が行われていたのが1923年9月1日だった
わけです。

この大地震も実は大都市の発展をますます後押ししたようなもので、震災復興の名のもと、
丸の内のオフィス街はさらに整備され、銀座、新宿、渋谷が急発展、デパート、ホテル等々
が新築、東京はますます大都市化して膨れていくのでした。
ここ数年、銀座、渋谷と再開発が進み、再開発ラッシュの現代日本ですが今から100年前、
1922年の日本もそんな建設ラッシュの時代だったようです。

日本による満州帝国の建国はこの10年後、1932年のことです。
すでに1922年には関東軍が指揮され、満州の地では「五族協和、王道楽土」というスローガン
のもと、「経済、経済」、「国力増進」と、官民一体となって満州鉄道の利権をもとに拡大
へと邁進していった日本の姿があるわけですが、どれだけの人がこの時に、「戦争」の足音
に気づいていたのでしょうか。

私たち日本人は1945年に終戦を迎え、戦争は二度と起こさない、起こしてはいけないと
みんなと思っている。
でも、大正の人だって、昭和の人だって、大衆はみんな戦争を起こそうなんて思って生活
していたわけではないと思います。
気づかないうちに戦争は始まる。始まっていたわけです。
あっという間に戦争になるように思うけれど、戦争はこうして見ると、実に実に長い時を
経て、平和や経済発展や良い時代といった、だれもが求める普通の時代、「よい時代」の
中に、私たちの日々の生活の中に隠されているように思われめす。
もっと、もっと、と発展を求め続ける、その先に在るものは。。。

今年は2022年。
2045年が無事、平和な時代として迎えられるように、熱しやすく、冷めやすいではなく、
私たちは改めて自分の生活を見直し、社会を真剣に見直していかなくてはいけないように
思います。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com

第40回 <響き合ういのち> ヒルデガルト聖歌コンサート      

===================================
第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」
第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2
第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」
第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい
===================================

第40回 <響き合ういのち> ヒルデガルト聖歌コンサート


先日12月14日はにんげんクラブ主催の 春原恵子(すのはらけいこ)さんのア・カペラ・
コンサート<響き合ういのち>に参加させていただきました。

25名限定というとても貴重なコンサート。素晴らしかったです。文字で表現するのが陳腐で
もったいないような春原さんの歌声。
歌?うた? 歌という言葉で思い描く世界とは違う、癒しのひと時にしばし時を忘れて引き
込まれてしまいました。
ヒルデガルド聖歌というのは12世紀ドイツの修道女ヒルでガルトによってつくられた聖歌の
数々だそうです。

ヨーロッパの片田舎の教会での聖歌コンサート、実は私は大好きでした。
いろいろなところを訪ね歩いた記憶と重ねながら、日本で今、こうして思わぬ機会に恵まれ
ましたこと、あの限られた場に自分がいるのがなんだか不思議な気持ちでした。
宗教と音楽というヒトが生み出した究極の世界は、悠久の時の流れとヒトの歩みのすばらしさ
を感じさせてくれるものです。

会場となった自由学園明日館は今年が設立100周年だそうです。
自由学園創立者の羽仁夫妻の依頼で、この建物を設計したのは、かの巨匠フランク・ロイド・
ライト。
100年の時空を感じさせない、今に残るライトの建築作品です。

ライトと言えば日本では旧帝国ホテルが有名ですが、この帝国ホテルの建物は1968年に築後
45年で取り壊されています。
愛知県犬山市の明治村にその玄関部分だけが移築されていますが、これを初めてみたときの
強烈な印象は今でも忘れられません。
子供心にも、もったいない の一言でした。移築といったら聞こえがいいけれど・・・
あまりに、もったいない。

一部といっても、壮大な本館のほんの玄関部だけ。後は瓦礫となって、ごみとなってしまった
のです。
それでも移築には莫大な費用が掛かったといわれています。
全くないよりは少しでも残っていた方がいい。
解体反対の声は移築の動きがあれば消されてしまったことでしょう。
なんだか、リハビリの孤児のオランウータンを残そうという懸命な努力と重なり、ヒトの愚か
さ、無力さの象徴のようで、こうした保存の在り方は個人的には疑問を持ちます。

さて、こうして「関東大震災を耐えたライトの建築をなぜ壊すのか」という反対運動を横目に、
1970年に新たに完成した現在の帝国ホテル本館ですが、なんとこちらも、すでに老朽化で今年
建て替えが発表されています。
世界に誇る木造建築、法隆寺とまでは申しませんが、50年でボロ、これではとても持続可能な
社会とは思えません。

ライトの帝国ホテルの残骸が移築された犬山の地で、その同じ年1968年に産声を上げた霊長類
研究所も今年解体が告げられました(実際に帝国ホテルが移築、完成したのはもっと後年です
が)。
スクラップ&ビルドで次々と壊される都市の建築物、そして個々人の家々。
さらにはちょっと意味が違いますが、研究所までもがなくなってしまう日本。
形あるもの、いずれは無くなると言いますが、なんだかヒトのやることは空しい話ばかりです。

やはり建物を生かすも殺すも、中身。そこに集う人々の心なのではないでしょうか。

今回の<響き合ういのち>のコンサート。会場の明日館の在り方とともに、本当に限りなく
つながり合う、つながり続ける<いのち>を感じたコンサートでした。
「1921年4月15日、未完成の教室に、26人の少女が集い、この学校は始まりました。 」と自由
学園のホームページにありましたが、いまでもその教室が生きている。
素晴らしいことですね。

保存には数々の困難があったことでしょう。
重要文化財となり、保存維持され、今も多くの人によって支えられ利用され続けている明日館。
12世紀から今に伝えられるヒルデガルト聖歌の悠久の響きを鑑賞するのには、なんとピッタリ
の場所だったことでしょう。

ライトは自由学園の理念に共鳴し、校舎の設計を引き受けたといいます。
その心が今でも形となって、建築として、創建の地に残っている。
建築家の仕事とは、建築とは何なのか。今でもこうして生きている建築と、壊されてしまった
華々しい商業ホテル。
目的はそれぞれで、それなりにそれなりですが、やはり、いのちの輝きは、立派さやお金だけ
ではないのだと、そんなことも改めて感じる夜でした。

夜の闇の中、暖かい光に浮かびあがる明日館の輝きは実に美しかったし、春原さんの歌声と
ともに、究極のいのちの響きを醸し出していました。
ありがとうございます。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
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第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい      

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
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第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
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第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
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第22回 自然のバランスとスピード
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第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
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第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」
第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2
第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」
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第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい


先日のお話し会はゲストにフィリピンで貧困と闘う「アクセス」の野田沙良さん、中央アフリカ
でエイズ支援を続ける「アフリカ友の会」の徳永瑞子さん、そして山田征さんを囲んでの話題
豊富な、とても豪華な集まりとなりました。
みなさん、ありがとうございました。

徳永さんがアフリカにはじめて渡ったのは今から遡ること50年!の1971年。
以来アフリカの地で医療支援、人道支援を続け、自ら診療所を運営している徳永さん。
その豊富で経験豊かな話題の数々と、大先輩に向かって失礼ですが何よりもチャーミングで
楽しいお話しぶり。
まだまだ伺いたいことばかりです。

日本人は「アフリカは貧しい」と思い込んでいませんか?
私たちが持っている価値観の物差しだけではなく、ちょっと違った物差しを持つと、彼らの
暮らしぶりはこんなにも豊かで余裕があるものなのだという、その実感溢れるお話しに深い
共感を覚えました。

今回は特に、ピグミー族とも呼ばれている現地の少数民族バトワ族の自然とともにある生活を
ご紹介いただきました。
印象的だったのは、彼らのお産の話。助産師の徳永さん、日本に戻り、日本の設備の整った、
でも、とんでもない費用の掛かる大層なお産がカルチャーショックだったそうです。
経験豊富な徳永さんでもバトワのお産に立ち会ったのは1例のみ。
彼らは声も出さず、ひっそりと一人でお産を済ませてしまうとか。
そもそも彼らは産院になんか来ないのです。一方のバンツー系は賑やかで大騒ぎで、歌い踊り
とこれまた想像すると楽しい。

日本では産院の都合でいろいろコントロールしてしまいますが、自然の摂理で考えるとお産は
だいたい朝方らしいですよ。
早朝に朝方一人で生んで、しばらく休んで、お母さんが赤ん坊を自分で抱いて家族のもとに
帰る。
これが生き物としてのヒトの自然の営みのようです。

出産こそは生命の誕生であり、自然なものなのだという話。
ビデオまで回しての立ち合い出産がいま今は流行りのようですが、なるほどこれはずいぶん
不自然なわけですね。
「どうしたらいいですか?」と妊婦さんに言われるけれど、「自由にやってください!」と
言うの、という徳永さん。
楽しいトーク、まだまだ聞きたいです。

野生のオランウータンの出産は熱帯雨林の高木の巣の中ですから、詳細な観察例はありません。
彼らも大騒ぎしたり、声を出したりすることはなく、ひっそりといつの間にかに赤ん坊を産み
ます。
抱いて出てくるので、観察者はそれを見て、出産したのだなと気づくわけです。
そもそも、もともとお腹のポッコリしているオランウータンは、妊娠していてもそれ自体よく
わかりません。
ですから観察者は、赤ん坊を見て初めて妊娠していたことを知るような場合も多いのです。

私はまだありませんが、鈴木先生は長い観察の中で、一度だけ出産直後のオランウータンを
観察したことがあるそうです。
デイネストと呼ばれる昼寝用の巣の中で休んでいて、いつになっても動かないオランウータン。
そのうちスタッフの中で耳の良い人が「あれはオランウータンの赤ん坊の泣き声だ!」と
気づいたというのです。
文字にして書けば、ピーピーという声らしいですが、もっともふつうの人にはかすかな音の
ようなもので全く聞こえません。

オランウータンはめったに声を出しませんが、生まれたての小さな赤ん坊は時々ピーピーという
声を出すことがあります。
「生まれたて」といっても普通観察するのは生後1、2ヶ月の個体が多いのですが、デイネスト
のこの時は文字通り生まれた直後。
樹上何十メートルの巣の中なので姿も見えません。
もちろん声も普通では気づかない、聞こえないようなものです。
ということで、自然の中でのお産は、周囲は全く気づかないうちに行われるということですね。

さて、面白すぎて徳永さんのお話し紹介に費やしすぎました。
本日タイトルの「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい。
これはフィリピンで活動する野田さんの言葉。
この言葉、まったくそうですね。
ぜひみなさんにもう一度紹介したかったので取り上げます。
幸せな暮らしというのは何か特別なものではなくて、家族みんながひとりひとり普通の、毎日
の暮らしを続けられること。
幸せな暮らしって、「あれがある。これがある。」というのではなく、幸せはシンプルなもの
だということ。

野田さんがフィリピンで感じたこの思いは、私もインドネシアで感じるものだし、おそらくは
みなさん一人一人も、突き詰めれば同じことを思うのではないでしょうか。
でも、そのシンプルな生活というのが、どんなに脆いもので、時として、本当にあっという間
に崩れていってしまう。
その現場を数多く見て、そして何とかしようと様々な活動に取り組む野田さん。
野田さんの姿に本当にいろいろ学びました。

私たちの現地のオランウータンの活動は、森の中でオランウータンを追っているのが楽しい
という、それこそ小学校を出たか出ないかという村人たちによって支えられ、続けることが
できています。
石炭会社など、村で働くよりは給料は安いけれど、でもこれで森の中で暮らしていければ、
それが一番幸せだと。
そうしたシンプルな生活を好んで長年続けながら、私たちを手伝ってくれる人々がいないこと
には観察は続きません。

現地の人々のシンプルで幸せな生活を壊さないために、できること。オランウータンの研究は
大切です。
でもそれだけではなく、こうした、森の中で暮らすことがもっとも楽しい、幸せだという現地
の人々の生活を守っていくこと。
こうした人々の暮らしを支えていくことが、実はオランウータンの森を守っていく上で最も
大切なことなのです。

今、先の見えないコロナの嵐の中で、どうしたら彼らのこのシンプルで幸せな生活を支えて
いけるのか。
2年もアフリカに、現地に行けないと大変という徳永さんの実感こもった感想に、私も全く同じ
思いです。
ネットだ、リモートだと世間は言いますが、そんなことでは動いていそうで、動かない場所も
世界にはまだまだあるということです。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


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第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」      

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」
第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2
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第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」


連載続きました京都大学霊長類研究所の解体をうけての鈴木晃先生のコラムは、まだまだ続き
そうなので、こちらはオランウータンと熱帯雨林の会の別枠で先生のコラムだけをまとめた
ものを新設しましたので、どうぞこれからも引き続きご愛読ください。

ああ 京都大学 霊長類研究所
https://orangutansuzuki.blog.fc2.com/

設立50周年を迎えていた研究所、何せ鈴木先生にとっては創設の年1967年から退職するまでの
職場だったわけで、いろいろあったわけです。
どこまで書くかわかりませんが、霊長類の野外研究とはどういうことか、フィールドを開拓し、
守ることに生涯をかけている先生にとって、今回の件は見逃すことのできないことです。

書いて伝えることには限りがある。
霊長類研究所は論文捏造でもニュースとなっていますが、一方でそうした方の本がベストセラー
でもあるのです。
黙して語らず、自らが熱帯雨林の中を歩くことを第一にしてきた鈴木先生でしたが、コロナを
天啓と受け止め、この機に少し書き残すことにするそうです。
どうぞよろしくお願いします。

さて、今日は12月4日に にんげんクラブで予定されている私のお話し会「オランウータンに
いつまでも熱帯の森を」について紹介させてください。

今回のゲストはフィリピンで貧困と闘う「アクセス」の野田沙良さん、中央アフリカでエイズ
支援を続ける「アフリカ友の会」の徳永瑞子さんのお二人です。
徳永さんとは前回に続き2回目、野田さんとは実ははじめての機会となり、私自身お目にかか
れるのをとても楽しみにしています。

当日のテーマは?とご質問を受けたので、にんげんクラブでもたびたび登場され、大変な人気
のKan.さん が以前お話しされていて、私自身とても共感を覚えた「見守る」ということを
あげてみました。
人はすぐに何か行動しようとするけれど、何もしないで見守るということもとても大事という
こと。

この言葉、とても感動して、以前もこのブログで紹介したのですが、今回はまたゲストの
みなさんとともに考えていきたいなと思います。

経験豊富で行動的なみなさまをゲストにお迎えし、ひっそりと森の中でくらしている野生の
オランウータンを交えていったいどんな話にまとまるの?と思いつつ、もうひとつこんなこと
も考えています。

たぶんセミナーのチラシをご覧になった方は、フィリピンやアフリカの人道支援とインドネシア
のオランウータンとどんな関係があるの?と思ったのではないでしょうか。
共通点は??? 話し手がみんな女性ということ? なんて感想も耳にしたのでもう少し書か
せてください。

私たちは「オランウータンと熱帯雨林の会」といいますが、熱帯雨林が広がる場所は、アフリカ
、東南アジア、南米と世界でもごくごく限られた地域です。
生物の多様性という言葉が有名ですが、この限られた地域に全世界の生物種の半数以上が生息
しているともいわれています。

今回の話し手3人が活動する国々、フィリピン、中央アフリカ、インドネシア、この3か国は
まさに「熱帯雨林」が広がる、本来ならば「地球の豊かさ」を象徴する現場なのです。
でも、これらの熱帯雨林は、ヒトの活動によってどんどん「お金」に変えられていく。

そして、オランウータンばかりでなく、ヒトもまた豊かな自然を追われているのです。
人々は好むと好まざるとに関係なく、住みかを求め、仕事を求め、都市に出てくるわけです。
その結果として、都市の貧困や病気の問題は後を絶ちません。
貧困や病気の問題は都市化の問題でもあり、ヒトの社会の問題、「自然」を失っていく地球に
暮らす人々の根本的な問題でもあると私は思います。

失われていく熱帯雨林の現場からの声としても、ゲストのみなさんからのお話を伺いたいと
思います。
今回もまた特別ゲストとして山田征さんが加わってくださいます。
思えば征さんとは征さんが主宰する隠された真実を知るための勉強会 「菜の花の会」の
第200回目にオランウータンのお話をさせていただいて以来、こうしていつも応援をいただいて
います。
ありがとうございます。

森の人といわれるオランウータンは言葉を発しませんが、オランウータンは「豊かな自然の中で
依存しあいながら生きる生き物たち」のシンボルでもあります。
声なき声を伝え、ヒトとしての生き方を考えていく、そんな人たちが集まる会合にできたらなと
思います。

今回はようやく緊急宣言も解除されました。
ぜひみなさんとご一緒できましたら嬉しいです。

(鈴木南水子)


(次回へつづく)


オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com

第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2      

===================================
第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」
===================================

第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2


こんにちは、鈴木晃です。今日も引き続き京大霊長類研究所(霊長研)の件を書きます。

京都大学は霊長類研究所の解体をやめてください!

前回は上記の署名サイトを紹介しましたが、私自身は研究所の実態を知るフィールドの研究者
として、美辞麗句の宣伝ではない部分の問題点と常に闘いながら自らのフィールド調査を続けて
きた現実があり、実態を知っているだけに複雑な思いです。
研究所は器であり、問題は実際のその中身です。
ただ、何をおいても、現状の流れでは、問題が問題として正されず、表面的な金の流れの中で
「悪」がうやむやにされている。

不正に檻を作った松沢哲郎は特別教授を懲戒解雇(2020.11)となり、現在京大を訴えている
といいます。
私的流用はないなどといっているようですが、そんなことは論外。
研究者というもの、その人間性、信頼性にかかわる重大な事象で、実際研究所自体の存亡に
かかわる話となっているわけです。
流用しなければいいという話ではないのです。
そのへんもわかっていない者が文化功労者だという日本の現実を憂慮します。

松沢は霊長研の心理部門を大いに飛躍させ(たとされる)、私が所属した社会部門などフィー
ルド系の分野は縮小されてきました。
その一方で、研究所の人員を異動し、新たに京都に野生動物研究センターなるものをつくった
本人でもあります。
野生動物の保護を詠い、野生動物研究全般へ手を広げるのは自由ですが、口先だけでは世界の
野生をとりまく現状は厳しく、こうした安易な発想自体が世界の霊長類の研究の現場を窮地に
追い込んでいるのです。
今回、霊長研の一部はこのセンターに再編されるとのこと、神をも恐れぬ無知、というか無茶
苦茶ぶりです。

著名な研究者という権威の中で物が言いづらかったというのは現場の弁ですが、まさにこの
「物の言えない」体制づくりに加担した面々の罪は重い。
著名人、選ばれし者同士の持ちつ持たれつの仕組みづくり。
この点を改めなくては何も改善されないどころか、ますます悪い状態が、巧妙に継続していく
ことになるのです。

京都大学高等研究院特別教授というのは京大に4人しかいない、「特別な」教授職らしいです
が、2016年に総長肝いりでこの組織自体を作り、松沢を特別教授に任命したのは、ほかでも
ない山極寿一総長であり、彼は先述の野生動物研究センターの立案者の一人らしいです。
繰り返しますが、事の発端であるサルの檻の製作業者が京大と松沢らを訴えたのは2015年7月。
山極が京大総長に就任したのは、それ以前の2014年10月です。
提訴されていたにもかかわらず、大学として調査も行わないどころか放置し、逆にその間、
特別教授に任じた挙句の今日の事態です。

研究成果の還元だ、コンプライアンスだ、などと外野が騒ぐ中、研究所自体の本来の価値も
歴史的重みも忘れ去られ、今「霊長類研究所」という呼称だけが消されようとしています。
霊長類研究所は確かにそれほどたいした研究所ではなかったかもしれない。
しかし「よい研究所にしたい」という思いで一研究者として私もずいぶん悪戦苦闘してきま
した。
高名な先輩後輩諸氏のような華々しい成果はないかもしれない。
でもそれも一人の研究者としてのあり様であり、一野外研究者の姿であるのです。

今、世界の野生動物の棲みかである自然は非常に重い様々な問題を抱えています。
各国には各国の立場があり、法律があり、その中で私たちはひとつずつ積み重ねるしかないの
です。
金で動くものも多いかもしれないし、実際それが経済の現実ではありますが、金で動かない
ものも沢山ある。
自然の営みはそれを私たちに示しています。

研究のために法令尊守意識が・・・などということはあってはならないし、多くの研究者に
とってそんな説明は失礼でもあります。
今回の霊長研の解体は、名称をいじって、金を何とかしてという事務処理の話で終始し、すべて
をもみ消そうとしています。
研究はそんなものではないのです。騙されてはいけない。

自然を相手にする研究者までもが自然の中に金を持ち込み、金があれば何でもできると考える。
嘆かわしいことです。
そうした思考で安易に古きを廃してその後にいったい何が残るのか。
自然は、そして野生動物の研究は金だけでは動かない。
「われわれのファイトだ」と言ったのは今西先生でしたが、その思いが伝えることの意味を
伝え続けなくてはいけないと改めて思うのです。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
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第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」      

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
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第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」


こんにちは、鈴木晃です。本日以下敬称略です。

京都大学霊長類研究所は1967年に設立されて以来、私が2003年に退職するまで奉職していた
元職場です。
京都大学が本日2021年10月26日付でその霊長研の組織の解体、再編を正式に発表したらしい
とのことです。
私はこの霊長研(霊長類研究所)の社会部門に所属し、一研究者としてアフリカでのチンパン
ジーの野外研究、インドネシアでのオランウータンの野外研究を続けてきました。

この間、霊長類研究所が野外研究の遂行にとって理解あるいい研究所だったとは決して言えず、
その中で苦労してきた私としては申し上げたいことは多々あり長くなりますが、何はさておき
この事態、関係者、当事者はいったい何を考えているのかをまずは問いたい。

ゴリラタレントとして高名な前京大総長、山極寿一を筆頭に、物申せる立場の人間は多いはず
です。
とくに山極は自らもフィールドワーカーを名乗っているようですが、京都大学内部の責任ある
立場の者として、当事者として、在職中、そして事態の発覚後今日に至るまで、彼はいったい
何をしていたのだろうか。

本質を隠し、責任をうやむやにして、新センターに改編するなどというごまかしを、当事者と、
その取り巻きが行う。
霊長研の自浄も難しかったが、それどころの話ではない事態です。
そもそも共同利用研究所という位置づけの、それなりに歴史ある霊長研が京大の一存で、不正の
後始末の名目で、汚名をかぶったままかくも簡単に壊されてしまうことがおかしい。
霊長研は松沢個人のものでも、京都大学だけのものでもないはずです。

世界に先駆けフィールドワーク(野外研究)から霊長類の世界に「社会」の存在を実証し、
新たな視点での霊長類学を打ち立て、紆余曲折の末、ようやく霊長研にたったひとつですが
「社会部門」をつくることができたと喜ばれていたのは私の師であり研究所の創始者の今西
錦司先生でした。
社会構造の解明どころか、今50年経ち、金の価値しかわからぬ者に研究所自体がバラバラに
される。
不正の汚名を課されて消される霊長類研究所という呼称が哀れで空しく、悲しい思いです。

松沢研究所元所長の研究費不正支出(京大発表分5億円、会計監査院追加分6億円の総計11億円)
とその返済策として今回の措置とのこと。
まったくどうしようもない面々であり、本末転倒、責任逃れの数々に怒りに堪えない思いです。
創設時の思いや苦労を知らず、金があれば何でもできると思ってやってきた面々が今、金の
ためにすべてを壊す。
本当に「壊すのはあっという間...」です。

京都大学は霊長類研究所の解体をやめてください!
署名サイト

なぜ金の返済のために霊長類研究所そのものを壊す必要があったのか。
罰せられるべきは不正を見逃し、後押ししてきた体制であり、「長」と名の付く歴代の責任者
たちではないか。
もっとも今回の件は、責任ある者たちが率先して巧妙に不正構造を築いてきたわけで、その悪の
元凶に関しては何ら改善どころか真実が明らかにされる気配もない。
単に金の返済のためと称して霊長研という「器」を壊すという話。

日本の霊長類学などとマスコミは持て囃してきたが、こんな心ないことをやっている、そして
それを許しているような日本では学問の未来も暗い。
学問は常に未来を見据え、刷新していかなくてはいけないものですが、同時に過去を振り返り、
未来に向けて積み重ねていく努力も忘れてはならないことです。
「ダメだったら壊して終わり」という話では断じてないのです。

「若干の旅費を別にして、双眼鏡とノートと鉛筆さえあれば十分なのだ(今西)」とフィールド
に乗り出した日本の霊長類学者たち。
私も当時、その一人であったわけですが、今西先生が「動物の社会」の研究において最も大切
にしてきたことが「記録の集積」です。
フィールドを重視し、動物の研究を「その社会の歴史性の研究」とまで述べた今西霊長類学は、
おそらく当時先生が想定していた以上に時間のかかる、でもだからこそ、自然が失われていく今
もっとも必要な学問であり、本来、日本の霊長類学者がリードしていかなくてはならない分野
なのです。

このブログでも前回まで「野生のオランウータンの観察」ということで連載、今回のことで
中断、記事差し替えとなっていますが、野生の霊長類の観察記録の集積というのは本当に気の
長い、骨の折れる作業です。
研究者一人だけではなく、相手の国、地元の人々、多くの人の理解と協力がなくては続けられ
ないものなのです。
そうした地道な野外研究を支えるべく作ったはずの霊長類研究所が一瞬のうちに○○億円の檻に
取って代わられようとしているのです。

解体してほしいのは檻であり、そんな檻を作らせることを可能にした面々が作り上げた仕組み
です。
責任逃れをしているひとりひとりです。
事の発端である檻制作の業者が京大と松沢らを訴えたのは2015年7月。
山極寿一が京大総長に就任したのは、それ以前の2014年10月です。
提訴されていたにもかかわらず、大学として調査も行わないどころか長らく放置し、逆にその
間、松沢を特別教授に任じ、自らは2020年9月末に何ごともなかったかのように総長の任期満了
を迎えたわけです。
松沢は京都大学から2020年11月に懲戒解雇されています。

2020年6月の京都大学の内部調査公表の際、「一緒に勤務したこともあるが、それ以上でもそれ
以下でもない」と山極は一貫して責任逃れをしていますが、今西先生を語り、霊長類学を語り、
フィールドワーカーを語る立場ある人間として、その真意を問いたい。
責任はあまりにも重いのです。
山極寿一京都大学前総長は現在、総合地球環境学研究所という大層な名前の研究所の所長らしい
ですが、地球環境などを語る前にやるべきことがあるはずです。


(次回へつづく)

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プロフィール

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京都大学霊長類研究所を経て、
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(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


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TEL 03-5363-0170
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第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡      

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
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第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡


野生のオランウータンの研究は、地上からの地道な観察の積み重ねによって成り立っています。
最近ではカメラだの、ドローンだの、GPSだの、いろいろな機材が発達し、あらゆる場面でこう
したものに頼ろうとすることが当たり前となっていますが、野外観察の基本は道具ではなく、
森を知り、相手を知ること、森を歩くことです。

樹上何十メートルの熱帯の高木の上に暮らすオランウータンですが、彼らの暮らしを知るため
には、まず私たちは地上から彼らを追跡し、実際に彼らの暮らしを見ていくことが大切なので
す。
オランウータンの追跡は毎朝オランウータンが巣から起きるところから始まり、夕方巣を作って
眠るところまで続けられます。
オランウータンは一度巣をつくって眠ってしまうと、夜のうちに移動するということはほとんど
ないので、巣の場所を確認するということが次の日の追跡のためには欠かせないのです。

追跡は現地のスタッフたちが二人一組になり、1日三交代で行われます。
雨が多く、蒸し暑い森の中での追跡を一人の人が長時間行うのは無理があります。
私たちは時には一ヶ月、二ヶ月という単位で一頭のオランウータンを追っていくわけですが、
追跡を長期間継続するためには何交代かで、なるべく無理のない体制を整えることが必要です。

たいていは1日三交代なので1個体を追うためには少なくとも6人が必要です。
1度見失ったら最後、再び見つけ出すことは困難な広い森の中で、こうして長期の場合は連続で
1年以上追跡を続けることもあります。
相手は高い木の上で生活していますから、追跡しているとはいえ地上から見える部分は限られて
います。
しかしオランウータンのくらしを邪魔しないこの距離感を保ちつづけながら観察を続けることが
非常に重要なことなのです。

オランウータンの目覚めは普通朝6時ごろです。でも早い日はまだ暗い5時半ごろから動き出し
ます。逆に、いつになっても動き出さないこともあります。
このためスタッフはオランウータンの不確かな目覚めに合わせて夜明け前から巣の下で待機しな
くてはなりません。
キャンプから遠いところに巣を作った場合などは、朝の4時ごろにはキャンプを出発します。

一方雨の日など、いつになっても起き出さずスタッフは雨の中で何時間も待たされることもあり
ます。
オスでは最高6日間も巣から出てこないものもありました。
そんなときでも、いつ移動し始めるかわからないので辛抱強く樹の下で待っていなくてはいけ
ないのです。

長期の追跡

こうして追跡スタッフは、はるか頭上20~30mのオランウータンの行動の一つ一つを観察、
記録していきます。
どこを動き、何を食べ、どれくらい休息するか等、その時間と距離を細かく記録していきます。

2人一組で追跡する大きな理由は何よりも「オランウータンを見失わないこと」にあります。
突如移動をはじめるオランウータンの行動はなかなか予測がつきません。
樹の上でのんびりと採食していると思っていると、急に移動し始めます。
相手は慣れたもの、樹上をひょいひょいとあっという間に消えてしまいます。
一方追跡する側は、ジャングルの中。もちろん道はないし、山あり谷あり、川まである。
そうした中を倒木や下草を刈りながら、必死に後を追わなくてはなりません。一人がとにかく
後を追い、残ったもう一人が荷物をまとめて後から追いかけていきます。
森をよく知っている現地の人でさえ方向感覚を失い、森に迷ってしまうこともあるくらいです。

夕方巣作りを終えたことを確認して1日の観察は終わります。
キャンプに戻り、1日の観察を報告し、追跡地図を書き、翌日の観察への引継ぎをします。
巣の場所を確認した2人のうちの1人が翌朝の追跡メンバーの1人になります。
追跡はこのように実に見事なチームプレーで続けられているのです。
私たちのこのシステムは長い間の森の中での観察経験から編み出されたものです。

なんとまあ気の長い、効率の悪い話なのだろうと思う読者の方、そう、研究とはまったく気の
長い話なのです。


(次回へつづく)

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FAX 03-3353-8521

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第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生     

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
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第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
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第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生


私たちがもっともよく観察してきた野生オランウータンのメス、タンジュンには多くの子供
たちがいます。
中でもバユールと名づけたメスの子どもは、生後すぐから追跡が続けられており、メンバー
も特に愛着を持って見守っている個体です。
オランウータンにとって生まれたあとの6~7年の授乳・保育期間は子どもの発達には極めて
重要な時期であり、子どもは常に母親と一緒です。
この間に森で生きていくための様々な技術を母親から見習っていくのです。

私たちはこうした様々な観察をこのバユールの成長を通して見てきました。
バユールは1995年生まれですが、この個体が、私たちが長年観察してきた個体の中で、はじ
めて生年がわかるメスのオランウータンなのです。

1983年にクタイの森に研究のためにはじめて入って以来10年、周辺は1985年にカリマンタン
島で初めての国立公園に認定されたものの、同時に川をはさんだ対岸では大規模な石炭の
露天掘りが開業され、森林の環境は一変しました。
このままではオランウータンの森を守れない。この想いから、それまで10年間、断続的に
オランウータンの追跡調査に協力してきた地元の村人たちが中心となり、今後に向けた長期
の研究のための基地をつくろうということで「キャンプ・カカップ」の建築が始まりました。

大工道具、材木代など、お金のない中、現地の協力者は当時としても安い給料で集まって
くれました。
研究費がない鈴木先生の呼びかけに賛同し、「もう10年も一緒にやってきたのだから」と
いう住民たちの協力のもと、彼らと共同で1年がかりでようやく建てられた建物がキャンプ・
カカップです。
十分な資金はないわけですから、資金を集めながらの建設には時間がかかり、1年ほどの
建設期間を経て1994年の秋ごろにはようやく外郭が整い、一応の完成を迎えたわけです。

まず、建物は基礎が重要ということで、一見、掘っ立て柱のようでわかりませんが、
キャンプの建物の基礎は、100本ほどの基礎杭が地中1.5mまで打ち込まれ、その杭に支えられ
て上の建物が建てられています。
この建物なら100年でも大丈夫という、当時の村人たちのオランウータンの追跡への熱意と
意気込みを今でも感じます

この建物がつくられたおかげでオランウータンの追跡調査は劇的な変貌を遂げました。
これまでは森の中にブルーシートを張っての調査だったので、雨が多く、高温多湿の環境下で
の調査の長期継続には苦難と限界がありました。
こうして1995年の夏から本格的な長期継続調査が可能となったのです。
とはいえ、建設のために資金も人手も使い果たし、建物は完成したものの本格的な調査の再開
までは1年近くの準備期間を必要としたわけです。

この激動の時に生まれたのがバユールでした。
鈴木先生がはじめてバユールにあったのは1995年の8月のことでした。
バユールは鈴木先生が日本に戻った不在の間に生まれました。
数の限られたメンバーたちは当時キャンプの建設に従事していたので、正確な生まれ月までは
わかりません。
しかし、この年の5月には母親のタンジュンが赤ん坊を連れていたという観察があり、出会っ
た8月にはすでにある程度成長していたので、生まれたのは1995年の初め頃ではないかと推察
したわけです。

生まれてから数か月の詳細な成長記録の数を重ねることも、重要であるわけです。
その後、数々の子供の観察を重ねていますが、バユールはそうした観察を可能にしたまず初め
の個体であり、長期観察を続ける私たちにとってはここからが大きなスタートでもあったわけ
です。

それまでの10年の観察では、生まれた子どもがオスばかり!
いえ、もちろんメスの子どもも生まれていますが、きちんと個体識別可能なメスの子どもに
該当する子どもがなかなか現れなかったのです。
「偶然出会った母親がメスの赤ん坊を抱いていた」というのではまずダメなのです。
その個体を追跡し続ける力がこちらにあればいいのですが、なかなかそうはいきません。

次に出会ったときには「あなた誰?」となっていてはダメなのです。書くのは簡単で、当たり
前ですが、オランウータンの若い子どもはどんどん外見が変わりますし、オトナのメスだって
個体差とその識別が実に微妙な生き物なのです。
きちんと個体識別できるようになるまでは観察の積み重ねが必要なのです。
そうした意味でこのタンジュン・バユール母子の観察は私たち野外観察者にとっては、すべて
が「はじめて」の観察であり、多くのことをもたらしてくれた象徴的な存在なのです。

バユールはまだ26歳です。
母親のタンジュンに鈴木先生が初めて出会ったころの年齢なのではないかと推測されます。
オランウータンの森が残っていく限り、彼女たちは今でも、そしてこれからも変わらず、
この森で子育てを続けていくはずです。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com

第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性     

===================================
第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
===================================

第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性


さて、現在では野生動物の観察において、その対象個体に名前をつけて観察するということ
はよく行われることです。
しかし野生動物を一頭一頭、個体識別して調査するというこの方法は、実は1950年代の日本
のサル学から始まったもので、当時は世界的に珍しいものだったのです。
そもそもヒトは特別という欧米の思想の中にあっては、ヒトではない動物に個や、個性を
認めるという発想がなかったのです。

オスやメス、オトナやコドモといった分類区分で、時には数字やアルファベットで、彼らが
どういうときにどんな行動をするか、それらをまとめるのが科学であり、学問である。
動物に個性を認めるなどということは擬人化とも批評され、方法論として全く評価されない
伝統的、学問的、そして文化的背景があったわけです。

以前鈴木先生も書かれていますが(第11回日本の霊長類学)、欧米由来の動物学というのは
基本的には動物が何をするかを知ろうという動物行動学が中心であり、ちょっとマクロに
なると生態学ぐらいはあるものの、ひとつひとつの個に着目し、その全体としての社会を
解明しようなどという「動物社会学」的発想は全くなかったわけです。
そうした当時の学問の流れの中にあって、個に着目した日本の霊長類学の新たな視点は、
それゆえに世界に先駆けた先見性があったのです。

というわけで、今やだれもが観察対象に名前をつけることに違和感を覚えない時代となって
いるように思いますが、一方でこの「個体識別」に欠かせないのが、「長期観察」です。
長い観察の中で一頭一頭に名前をつけ、個体識別をしていくからこそ意味があるわけです。
野生のオランウータンの観察においては、前回少し紹介しましたが、特にこの「長期観察」
が重要であり、その観察に基づいた一頭一頭の「名前」には、みなさんには理解できない
ほどの価値と重みがあるのです。

こうして個のデータを積み上げ、それらを比較対比することで見えなかった世界が見えて
くるわけです。
名前をつけるだけなら簡単なことです。残念なことにこの辺をよく理解しないで、ペットの
感覚で野生動物に名前をつけるということがあまりに普通のこととなり、世界に秘境がなく
なりつつある今、あちらこちらで「個」や「観察」を無視した、一時的な命名が横行して
いるのも現実です。

オランウータンの森でも、名前があって当然という感じの一般の観光客が勝手に命名してみ
たり、観光客ならまだしも、研究者までもが勝手に新たな名前をつけたり、ちょっとやって
きたどこかの国の大使がメスの子供にオスの名前をつけてみたり、おかしな話ばかりです。

もっとも生まれたばかりのオランウータンの赤ん坊が、オスかメスかを観察するのは結構
時間がかかることなのですよ。
なにせ高い樹上ですから、よっぽどそのことに注目して観察しないとわからない。
いまでこそビデオが良くなり、ズームアップもできるようになりましたが、それでも様々な
葉やつるに遮られた樹上で、母親にぴったりしがみついている新生児の性別を見分けること
は、観察初心者にはまず不可能です。

キャンプではものすごく視力がいい人がいて、彼がいつも真っ先に観察してきてくれます。
「おしっこが放物線を描いていたからあれはオスだ。」と。
そんなわけで私たちは生まれてしばらくの間は名前をつけません。
観察を重ねていく中で確実にその個体を命名し、追跡者たちがその個体をきちんと認識は
とても大事なことなのです。

実は先ほど紹介したメスにオスの名前の時も、しばらくぶりに現地に行ったら新しい名前が
ついている。
みんなチャーリー、チャーリーと呼んでいるのです。
「ああ、オスだったのだな」と思って、よく見ているとなんだかおかしい。
「あれはメスよ。」と。
一度先入観で見てしまうとなかなか誤りがわからないものなのです。
注意して自分の目で見なくなる、見ようとしなくなるのです。

国立公園のスタッフがチャーリーと言っているからチャーリーで、オスなのだろうと。
そもそもチャーリーという名前の別のオスがすでにクタイの森に存在するのですが、国立
公園のスタッフは特別なお客を案内するだけなのでそんなことは知らないわけです。
手っ取り早く、名前や性別、年齢といった「情報」がわかればいいわけで、それがたとえ
誤っていようが、たいしたことではないのです。
ここがそもそも研究者とは目的が違うわけで、本当の意味での自然観察への理解が進まない、
難しいところなのです。

日本の霊長類学が広めた「個体識別」という手法ですが、研究を支えるために必要な「長期
観察」と、何よりも重要な、フィールドと呼ばれる「研究の現場」の保全に関しては、霊長
類学への注目に反してまったくと言っていいほど理解が深まっていないように思います。
研究は、単に情報や知識を集め、広めることが目的なのではありません。

ヒトの興味は尽きるところを知りません。
オランウータンも研究が進み、今まで一般には知られていなかった様々な情報や知識が溢れ
ています。
「会いたい」「見に行きたい」という欲求が高まることは当然避けられないことでしょう。
でも、こんないまだからこそ、その危険性の意味をもっともっと考えてほしいと思います。

「オランウータンやゴリラ、チンパンジーなどの見学を中心とする観光業は、国立公園や
野生生物保護団体、地元の人々の収入源になっている。
観光が止まれば、こうした全てが危うくなる」という話をコロナ禍のいま、よく耳にします。
今や霊長類の研究地は世界中一大観光地です。
観光に依存した自然保護の在り方は大変危険です。
一部では大変な成功例と称賛されているものもありますが、経済という価値観を通してヒト
が自然を見たとき、そこにはもはや自然は残らないと気づくべきなのです。

野生の生き物には野生の生き物の暮らしがあります。ヒトがむやみに近づくのではなく本当
は、会いたくない、見に行きたくない、そっとしておこうと思える人が増えるのが一番いい
のではないでしょうか。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


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鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
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1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
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【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
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第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-     

===================================
第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
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第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-


オリンピックも終わり、ニュースはコロナ一色となり、なんだかオリンピックの次のイベント
のようになっています。
お祭り終わってなんとやらですが、こうした事態は当然予想できたことであり、そうした意味
では事態の終息の目途どころか、私自身はまだ始まりのような気がしています。
ということで、悲観的なことはひとまず置いておいて、この様子では当分再開できそうにない
私たちの現地インドネシアでの野生のオランウータンの観察を紹介しつつ、現地に思いを馳せ
ながら暑気払い、憂さ晴らしとしたいと思います。

一頭一頭、オランウータンに名前をつけて木の下から地道に観察を続ける。
この積み重ねなくしてオランウータンの研究は成り立ちません。
私たちのキャンプ周辺の森にはたくさんのメスのオランウータンが子育てをしています。
こうしたメスの一頭一頭に名前をつけて、さらにその子どもたちにも名前をつけて、メスの
もとに現れるオスにも名前をつけて、個体識別しながらの観察を積み重ねます。

これらのメスの中でもタンジュンと名づけた個体は、キャンプのメンバーがもっとも優先的に、
そして継続的に追跡調査を行ってきた個体です。
鈴木先生がタンジュンに初めて出会ったのは1988年のことでした。
33年前のことになります。
「まだ若い母親だった」とはいうものの、いったい幾つぐらいなのか、野生の個体の年齢を
知るということは非常に難しいことなのです。

野生の個体では生まれた年はわかりようもなく、外見の変化の少ないオランウータンの場合は
年齢の把握が非常に難しいのです。
まず初めて会ってわかることはメスか、オスかの違いぐらい。
もっとも大人のオスは体も大きく、メスとの違いははっきりしていますが、若いオスと母親に
なる前のひとり者の若いメスだと、彼らは20m、30m上の高木の樹上にいるわけですから、
その違いを見極めるのが非常に難しいわけです。
動きが荒々しくてっきり若いオスだと思っていた個体が、次の年には赤ん坊を連れて出てきて
びっくりということもありました。

タンジュンの観察を続けることでメスは7年に1度しか出産しないという出産サイクルをはじめ
、様々なことがわかってきました。
ちなみに「タンジュン」という名前は、日本語ではどうも響きがよくありませんが、インドネ
シア語では「岬」という意味です。
「メスの出産は7年に1度」と書いてしまえば簡単ですが、それを観察するためには少なくとも
7年間はその個体を追跡し続けなければいけないわけです。

外見からの個体識別が難しいオランウータンですので、途中で観察個体が入れ替わってしまった
というようなことがあっては困ります。
長年追跡し続けるということは、追跡する側、キャンプのメンバーにも相当の熟練が必要なわけ
です。
また、当然のことながら観察例が1例だけでは確かではありませんので、出産サイクルの算定
には多くの観察例の積み重ねが必要なわけです。
想像するだけでも時間がかかる、というか年月がかかる仕事なのです。

しかし出産サイクルが判明したことは研究上、大変大きな意味があるのです。
どうしてだかわかりますか? 出産サイクルがわかり、母親の持つ子供の数が把握できれば、
その個体(メス)の大体の年齢が推定できることになるからです。
あとは初産年齢が判明すればより正確な年齢把握が可能となります。
例えば初産年齢が仮に16歳として、3頭の子供がいるメスなら30歳過ぎぐらいかなという感じ
です。

ということで、子供の数と初産年齢が次の課題ですが、これがまた実に困難なことなのです。
オランウータンの子どもは次の赤ん坊が生まれると独り立ちして母親から離れていってしまい
ます。
母親が自分の子どもたち全部をいっしょに連れ歩いているわけではないので、すべての子供の
数というのはわかりようがないのです。
一頭一頭まさに観察の積み重ねで、観察する側が確認していくしかないのです。

そして、初産年齢、これはもう最難関です。
みなさんだったらちょっと調べれば、wikiに12年って書いてありますが(笑)、これを実際に
自分で観察するとなるともう大変です。
どうするかって??? まずメスの子どもの生まれた年を確認。
生まれたその赤ん坊が、成長して幾つになったら子供を産むか・・・を追いながら待ち続ける。
生年の明らかな若いメスを、赤ん坊が生まれるまで観察し続けるということ。
なんだかすごいストーカーですね。
結論から言うと12年では全然足りませんでした。
この辺はまたゆっくりあらためてご紹介したいと思います。

(次回へつづく)

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第31回 オリンピックの陰で


2021年7月23日、いろいろありましたが、とにかく盛大にオリンピックが開幕しました。
お金もかけ、時間もかけ、多くの方々が期待を込めて準備してきた舞台で、選び抜かれた
選手たちが力を出しあう。
そしてそれを連日華やかに宣伝するわけですから、開催まで賛否あったオリンピックです
が、結果的には大いに盛り上がることでしょう。

でも一歩その世界から離れ、現実に目を向けてみると、なかなか大変ですね。
何度目かの緊急事態宣言で、もはや人々の心にはその「緊急性」が全く伝わりませんが、
本当に怖いものは「緊急」なんていわずに、なんの前触れもなく突然やってくるものです。

オリンピックで盛り上がっている日本はさておき、インドネシアは7月になってのデルタ株
の急速拡大で大変なことになっています。
死者は累計8万人を超え、新規患者も1日当たり5万人。
死者も連日千人以上を記録。
当然医療体制は末期的状況で、病床は100%越えで病院にも入れずに亡くなる事態が相次い
でいます。

ふ~ん、インドネシア・・・と遠い国のことのように思われるかもしれませんが、実は
インドネシアにはビジネス関係の在留邦人がいっぱい。
連日のように邦人の死者数も増え、患者も拡大しており、大問題となっています。
23日時点で在留日本人の死者は17人。さらに邦人の入院待機者が数百人単位ということで、
14日の帰国特別便第1便を皮切りに連日の帰国ラッシュが続いています。

私たち研究者は昨年来すでにインドネシアへの滞在はもとより、入国さえできない状態
なのに、ビジネス関係には特別措置がなされているわけです。
コロナ禍とはいえ、生産ラインが止まってしまっては大変ですからね。
それにしても家族まで帰国せずに現地に今まで留まっている。
こうした事態は事前に十分に想定できたはずなのに、緊急にならないと手を打たない。
経済最優先とはいえ、いろいろな意味で日本の、世界のコロナ対策は穴だらけ。
先が恐ろしいです。

こうした中でオリンピックだけは開催されているわけです。
「多様性と調和」が今回のオリンピックのテーマの一つだそうですが、紆余曲折あって
建て替えられた国立競技場でさえ、「自然と調和した」と称しながら違法のインドネシア
産の合板がたくさん使われています。
様々な資源エネルギーもそうですが、使ってしまったからには最低限、その貴重さをひとり
ひとりがしっかりと自覚し、大切に、ありがたく思って使いつづけてほしい。

でも、実際には、違法木材の話など忘れ去られ、ほとんどの方が「自然と調和した」という
宣伝ばかりを目にするのでしょう。
いやいや、そんなことさえ気づかず、電力を使って真夜中にライトアップして開会式を行い、
それを「美しい」と思ってしまう。
多くのヒトがそんな不自然な状態を何とも思わなくなっているように思います。

かつて東京オリンピックの開会式といえば「観客席いっぱいの人、人、人とすがすがしい
青空に映える聖火台」のイメージでした。
今思えば真夜中に騒ぐより、よっぽど自然で健康的でした。
でもあの国立競技場はもうありません。
そして、新設された国立競技場は、森前会長テコ入れのラグビーワールドカップにも間に
合わず、本番のオリンピックも無観客。
国民が実際に会場に足を運べず、観客不在のテレビ中継の舞台セットとなってしまいました。
なんたることでしょう。

その新国立競技場ですが、宣伝だけなら

植栽について

・高中木本数:約1,000本(約70種)
・低木本数:約46,000本(約60種)
・地被類:約70種

国産木材の使用
軒庇(のきびさし)には47都道府県から森林認証を取得した木材を調達し、
スタジアムの方位に応じて配置しています。

とのことです。

私たちの会は「森を残そう」、そして、森を残していくためには森を残そうという心を
育てていくことがもっとも大事なのだということをいつも言っています。

即席で沢山植栽して、木を植えても、残念ながらそれは森を残していくことにはつながり
ません。
国産材の使用をうたいながら、一方で日本の森、日本の林業は担い手不足で補助金頼み。
結局は費用がかかりすぎるからと、輸入材を使うことになっているのです。
本来、森を残そうという取り組みは、地味で気長な、根底的な取り組みなのです。
形だけでは形だけで終わってしまいます。
日本の林業は、「祖父や父が植えた木を伐り、子や孫のために木を植える」という50年、
100年のサイクルで考え、代々人々が担ってきたものなのです。


そうした価値観、人の心を大切にしたい。
そういう心が育っていかなくてはオランウータンの森をはじめ、熱帯の森、日本の森、
地球の未来は本当にないと思います。
50年後、オリンピックの行われているこの新国立競技場はどのような姿となり、私たちに
何を残しているのでしょうか。
形あるものはなくなります。
まさにオリンピックのテーマ「未来への継承」という言葉を、レガシーなんて形だけの
カタカナではなく、もっともっと深く考えなくてはいけないときに来ていると思います。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


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の研究を続ける。

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
===================================

第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~


熱海伊豆山で起きた土石流災害。
あまりの惨状に言葉もありません。
いろいろな意味で無力感に襲われていますが、同時に、でも、だからこそ伝えていかなく
てはいけないという思いを新たにしています。
今日はちょっと長く書きます。

一見、オランウータンの森とは何の関係もないことに思われる方もいるかもしれませんが、
私からすれば、これは根っ子が同じこと、人々の無関心、想像力の欠如が生み出した結果にも
思えるのです。
私たちは「森を残そう」ということを訴えています。
そして、森を残そうというのは、単に木を植えるということではなく、森を残そうと思える人
を増やしていく、人の心を育てていくことなのだということを訴えています。
たとえ自分から遠く離れていることでも、感じる心、想像する心、気づく心。
一人一人があなたの身の回りの環境に本当の意味で関心を持つことがまずは第一歩なのです。

さて、今回の災害、発生当初から原因は盛り土だ、ソーラー発電だ、所有者は誰だと犯人探し
が盛んです。
一気に過熱して、炎上して忘れる。後には傷ついたものだけが残る。
でもこれはネット社会の非常に危険なところだと思います。
自然を相手に犯人探しをするのではなく、そこから学び、私たちヒトが変わらなくては何も
変わりません。
一時的に騒いで、しばらくすると忘れてしまっては何も変わらないように思います。

自然は部分で見ると同時に全体で見ることが大切です。
全体自然という視点で見れば、犯人探しをするまでもなく今回の災害の直接的原因は盛り土
であり、ソーラーを含めた山頂部の開発と考えるのが当然だと思います。
ここでは盛り土と表記していますが、これはマスコミでも取り上げられ、もうご存知と思い
ますが「残土」のことです。
残土の問題、残土の恐ろしさについてはここでは書ききれないので場を改めたいと思います。
今回の土砂災害は実は究極のごみ問題の一端でもあったわけです。

自然はヒトが考えるよりも、もっともっとスケールが大きい。
土木工学だ、防災学だ、工事の安全性だ、といくら頭で考えても、災害は忘れたころに、人の
想像を超えてやってくるわけです。
頭ではなく、もっともっと自然に対して、謙虚に、敏感にならなくてはいけないと思います。

そういう意味で、実はこの熱海の災害は決して他人事ではないということを書きたいと思い
ます。
うわべにごまかされて自然の悲鳴に気づかない、わたしたちひとりひとりへの警告と受け止め
るべきことなのです。


ネット社会は情報に溢れています。
地図サイトで「伊豆山」と検索するだけで簡単にこの空撮写真にたどり着くことができます。

手前の茶色い部分が尾根筋の、今はソーラーパネルが並んでいるところ。
上の真ん中部分、ここが尾根と尾根の間の谷間部で、その源頭部には今回ほとんど泥水化して
流れ下った盛り土といわれた残土捨て場の在りし日の様子がわかります。
注目していただきたいのは、そのちょっと横のお社マーク。
「本宮社」と書いてあります。
実はここ、「伊豆山神社」の本宮だそうです。
伊豆山神社はずっと下方、今回の土石流の流れ下った被害地の東の高台にあります。
その位置関係もちょっと調べればすぐわかります。この図の右下に位置します。

伊豆山神社は、どこかの小さな社ではなく、大変由緒正しき神社。
関八州総鎮護 伊豆山神社 https://izusanjinjya.jp/

「本殿は、相模灘を一望に望む、海抜170メートルほどの地点。境内は歌枕に名高い伊豆の
 御山、こごいの森の一部で、約40000坪の広さがあります。また、海抜380メートルほど
 の山中に本宮があります。
伊豆の御山は、日金山や岩戸山に連なり、伊豆・相模・駿河の
 三国にまたがる広大な神域の要です。」

源頼朝が源氏の再興を祈願し、北条政子との愛をはぐくんだ所として観光客の人気も高いそう
です。
そして「本宮社」への道中は、かつて修験道の行場であった山道。いまはハイキングコースに
なっていて、険しい場所もあるけれど山中徒歩1時間ほどで本宮社にたどり着けるそうです。
はやりのパワースポットということで、実際ここを訪れた人もたくさんいらっしゃるようです。
道中含め自然が美しい、素晴らしいところという写真や、紹介がインターネット上にはたくさん
ありました。

さて、まさかこの海抜380メートルほどの山中にある本宮社のすぐとなりが、問題の災害の発生
個所と同じ場所とはちょっと想像もつかないのではないでしょうか。
でも、まさにその場所が崩壊現場なのです。素晴らしいハイキングコースで、自然を満喫し、
パワーをいただいていたはずが、実はそのすぐとなりが残土捨て場や産廃捨て場だった。
大変険しい山道の先のはずが、実は反対側はすぐ近くまで道路があり、人家や別荘がある。
そしてそのとなりの本来神聖なるはずの谷間には残土が積まれ、隣の尾根筋は森が切られて
ソーラーパネルに置き換わっていた。でも誰もそのことに気づかない。

本当に気づかないのでしょうか。
日本の山中は実はこうした場所が数多いはずです。
日本の神社には鎮守の森というものがあります。
最近環境ブームもあり、何かと自然や環境教育が叫ばれ、鎮守の森を守ろう!ということもよく
言われ、いろいろな取り組みもなされています。
大切なことだと思います。
でも、正直、本当の意味で鎮守の森の深い意味を私たちは理解し、先人の思いを体感できている
のでしょうか。

皮肉なことに「静岡県 鎮守の森ガイドブック」という立派な環境教育用の資料があります。
ホームページもあります。
静岡県内50か所もの鎮守の森を紹介しているうちのまず1番目に伊豆山神社が出ています。
私は何とも苦々しい無念の思いでこれを見ています。
鎮守の森の大切さ、素晴らしさを形だけ説いても、それは溢れ流れる情報の一つにしかなって
いない。

本宮社があるのは下流の人里につながる深く細長い谷の源頭部です。
昔の人々は自然に敬意を払い、鎮守の森として社を建て、周辺一帯を広く神域、聖域として
守ってきたわけです。
ある意味ヒトにとって危険な場所を、守るべき神の場所として経験的によく分かっていたわけ
です。
本宮社を人里離れた山の中に残した意味を私たひとりひとりがもっと深く考えなくてはいけな
かったわけです。
山の中といいながら一方で本宮社は今や人家がある開けた場所となっています。
山の中のはずの地にダンプが走り、残土が持ち込まれ、発電所がつくられてもなお、気づか
ない。
現代に生きる私たちひとりひとりの鈍い心への警鐘です。

ところで、伊豆山神社のホームページにこんな一文が掲載されていました。


「大変残念な事ですがネット上で土石流の原因が当神社に関係しているかの間違った情報が
 流れています。これは全くの嘘偽りで、土石流発生の土地は神社の土地ではなく、又土地
 所有者も神社とは全く関係のない会社です。皆様には間違った情報を広げる事の無いよう
 にお願い申し上げます。    伊豆山神社宮司」


詳しくはわかりませんが、これも犯人探しのひとつでしょう。
犯人は誰と単純に考えるのではなく、自然を全体としてどうとらえるか。
今や社寺林は非常に限られたものです。
鎮守の森は神社だけの問題ではなく、日本人ひとりひとりの心の問題なのです。
「森を残そう」と思わなくては残らない、たとえ思ってもなかなか残らない。
実際の森は、鎮守の森でさえその多くが面積を狭められ、形だけのものになり、マンションが
建ったり、なくなったりしているわけです。

「関八州総鎮護」として岩戸山につながる御山と考え、お社を建て一帯を神域ととらえた先人
たち。
一方で私たちはお社のすぐ下の谷をゴミ捨て場にしても気づいてもいないわけです。
天罰がくだらないわけがない。
環境教育も結構ですが、国や県、行政はガイドブックを作ったら、まずは自分たちから教育する
必要があります。
盛り土やパネル設置の安全性などと、自然の一部の、そのまた一部しか見えない、全体自然を
見ようとしないヒト。
先人が持っていた壮大な自然観、思い描いた全体像に対し、鎮守の森を取り巻く今の状況は、
文字は同じでもそれを守ろうとするヒトの心が違いすぎるように思います。

森を残そう、残したい。やはりこの思いをひとりひとりが再認し、自分の身の回りをもう一度
見直す必要があると思うのです。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com

第29回 オランウータンの長い子育て            

===================================
第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
===================================

第29回 オランウータンの長い子育て


こんにちは。
ありがたいことに、お話し会「オランウータンに、いつまでも熱帯の森を。」の第2弾を
企画していただきました。
7月17日ですが、なんと素敵なゲストがお二方もご登場くださいます。感謝、感謝です。

NGOアフリカ友の会の徳永瑞子さん。
看護師であり、助産師でもある徳永さんは1993年から中央アフリカに単身で渡り、以来
ずっとこの地で医療支援活動を行っている、すごい方です。
前回のお話し会ではオランウータンの子育てについて少しご紹介したのですが、その時に
「オランウータンは7-8年に一度しか子供を産まない」と申し上げましたところ、「それは
大変ですね。そんなに子供を産まないのならば、絶滅してしまう。」と、とても驚かれて
ご質問くださったのが徳永さんでした。
たくさんのヒトの子供の誕生にかかわってきた方ならではの着眼点で、私もびっくり。

そんなこと私は今まで考えてみたこともありませんでした。
確かにヒトは2、3歳離れた兄弟が普通で、年子も多々あります。
とくにアフリカなど多産な地域では、次々子供が生まれるわけで、「ひとりの子供を育て
上げるまでは次の子供を産まない」というオランウータンの母親は、なんとも非生産的に
みえます。
でも、実はこの堅実、着実な子育てこそが、オランウータンという種を支え、維持してきた、
もっとも生産的な営みなのです。

進化の歴史の中で、オランウータンという種がヒトと共通の祖先から分岐したのは700万年
から千数百万年前と考えられています。
ヒトが直立二足歩行し、ヒトの道を歩みだしたのが500万年前とすると、オランウータン
という種は、その倍近い長さのオランウータンの種としての歴史を持っているわけです。
一見すると、生産性が低く絶滅しそうにも思えるオランウータンですが、実はヒトを
はるかに超える長き歴史を、種として絶滅することなく今に繋いでいる大変興味深い種でも
あるわけです。

オランウータンの母親は7-8年のサイクルでしか子供を産みません。
では一生にどれくらいの数の子供を産むのでしょうか。
野生のオランウータンの寿命はわかりませんが、だいたいヒトと同じくらいですので、この
問いに答えることは、研究者にとっては非常に難しいことです。
でもこうした何気ない質問の数々が野外研究にとってはとても重要な課題なわけです。
長い観察の積み重ねしか、この問いに答えることはできません。
今後多くの母親の観察例が積み重なっていけばもっと明らかに、確かになっていくことも多い
と思います。

実は、オランウータンの母親は決して多産ではないけれど、一頭が着実に5~6頭の子供を
育てあげることがわかってきました。
私たちの研究地の森では、高齢になっても子育てをする逞しいオランウータンの母親がいます。
森林火災や、長年続く森の荒廃で、決して良い環境とは言えない中ですが、子供が死んだ例は
長い観察期間を通じてほとんどありません。
森林火災で焼けた後の森で子育てをする母親。
生まれ育った森で新たにお母さんとなった若い母親。
どの母親も着実に子育てを続けています。
日本人の出生率は1.4人を切っているわけですが、それにくらべて驚くべき生産性です。
私にとってはオランウータンという生き物と、その生命力は「絶滅」というものを微塵も感じ
させない、「強さ」と「たくましさ」を感じさせ続けてくれる存在なのです。

一方で、こうした長い歴史を持つオランウータンという種が今、絶滅の危機にあると言われて
います。
彼らを絶滅に追いやっていることの恐ろしさと罪深さを感じずにはいられません。
オランウータンはすみかの森があれば、だれの手を借りなくても生きていくことができるの
です。




☆.。.:*・°☆☆.。.:*・°☆☆.。☆.。.:*・°☆☆.。.:*・°☆☆.。☆.。.:*・°☆☆.。.:*

鈴木南水子さんお話し会 『オランウータンに、いつまでも熱帯の森を。』Part 2

オランウータンお話会2-2.jpg

<PDFファイルはこちらから>


2021年7月17日(土)

13:30~14:00受付
14:00~14:40講話 鈴木南水子さん
14:40~16:00講話 徳永瑞子さん     
休憩
16:20~17:00 鼎談 
      特別ゲスト 山田征さんとともに。


参加費  4,000円

会 場  船井本社 大会議室 
東京都港区芝 4-5-10 EDGE芝四丁目ビル8階 
◆JR田町駅 三田口より徒歩6分
◆都営三田線 三田駅A9出口より徒歩3分
◆都営浅草線 三田駅A7出口より徒歩4分
本社ビル地図-2.jpg
 ※クリックすると拡大図になります。


お申込みは、こちらに

https://www.ningenclub.jp/blog01/archives/2021/05/_part_2717.html


☆.。.:*・°☆☆.。.:*・°☆☆.。☆.。.:*・°☆☆.。.:*・°☆☆.。☆.。.:*・°☆☆.。.:*

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
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(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com

第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~      

===================================
第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
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第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~

前回に引き続き再びKan. さんに訊く。からです。
前回の記事を書いたところ、早速にんげんクラブの編集部の方がKan.さんのインタビュー本を
届けてくださいました。
いろいろと感慨深く拝見しているのですが、その中で特に今日みなさんにもご紹介したいと
思ったのは、「見守る」ということの大切さという一節。

「行動する」のではなく「見守る」ということが大切なのだ。

うわ~、そうです、そうです。
私は今までうまく言葉にできていなかったけれど、実は私たちのオランウータンの活動って
まさにこれです。「見守ること」。

行動は目に見えるのでわかりやすいし、深く考えないでも動けてしまうので理解しやすい。
でも静かに見守ることって、実はすごく難しい。
すぐ口を出しちゃうし、何かやりたくなっちゃう。

みなさんオランウータンの窮境をお伝えするとすぐ、「では何をしたらいいでしょうか」と
聞かれます。
具体的にどういう行動をしたらいいのか。
「保護のために何をやっているのですか?」とも問われます。
でも行動することも大事ですがもっとも効果があるのは、見守っていること、見守っていく
ことなのです。

ただ、なんか言葉にするとパッとしないですよね。
非常に地味な作業で、全然アピールしません。
研究って何をするのですか?といわれて、木の下で見ているだけなんてね。
その本当の意味を理解しようとしないで、もっと効率の良い研究方法があるのではないか、
GPSをつけて追跡をしたり、ドローンで上から見たり、今は情報がたくさんあるのでいろいろ
なアイディアを言われます。
遺伝子がどうだ、こうだとかいうとすごく難しい研究っぽいですし。

保護というと、孤児に餌をあげたり、木を植えたり、という行動はわかりやすいですけれど、
オランウータンを守るためには、何もしないで静かに見守っていける場所(森)を残すこと。
何よりも見守れる人を増やしていくこと。見守るって、一時のことではなく続けなくては
意味がない。
続けることは大変です。
まして見えにくいことを続けることは骨が折れます。

対岸の森が石炭の開発のために切り開かれていく中で、鈴木先生は1993年に現地に研究基地
となる建物を建て、そこをキャンプ・カカップと名付け、村人たちが常駐しながらオラン
ウータンとオランウータンの森を見守っていく体制を作りました。
1、現地拠点主義 2、村人参加 3、長期継続 が鈴木先生の野外研究の三本柱ですが、
これを一研究者で作り出し、維持運営しながら研究を続けることは本当に困難なことでした。

対岸からは入植者が押し寄せ、国立公園内も違法入植者が後を絶ちません。
それでいて国立公園は公園内に村人がスタッフとして常駐することに良い顔をしないことも
多々ありました。
しかしキャンプに人がいる限り、周辺の森は度重なる木材伐採や森林火災の被害を免れ、
今でもオランウータンの森として、多くのオランウータンのお母さんが子育てをしています。

もちろん私たちは大火災の際は消火活動を行い、密猟者や伐採者を取り締まり、森の中の
観察路を維持し、その時に応じてあらゆる行動をします。
でも最も大切なこと、基本は見守ることです。
GPS装置を野生のオランウータンに取り付けることはオランウータンにとっては負荷を負わ
せることで、こうした手法を野生の観察として取り入れることを私たちはしません。
そもそも野生動物をヒトが「見る」という行為自体、すでに野生のバランスを欠くことに
つながるわけです。

ヒトが頭で考えて何かをやろうとすることに対して、私たちヒトはもっと謙虚でなくては
いけないと思います。
「見守る」という言葉は、相手に対する思いやりや、責任が伴う、とても重い、心のある
言葉です。
前回もふれましたが、百聞は一見に如かず という言葉。「見る」だけでは、見ているよう
で何も見えていない。
わずかに残っている森に、観光客がオランウータンを見にやってくるわけですが、こうなっ
ては「見る」だけで、「見守る」とは全く違うこと。

自然のために、オランウータンのために、何かをするのではなく、ただ身守っていくことが
できたらいいのですが、現実はなかなか難しいようです。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
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1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
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第27回 「自然」について考える      

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
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第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
===================================

第27回 「自然」について考える

先日にんげんクラブの会報誌の最新号、6月号を拝見しました。
実に興味深い記事がたくさんで、こういう会報誌の読者の方が、私のこのブログ記事も
読んでくださっているのかなと思いつつ、感想がてら今日は少し書きたいと思います。

取り上げるのは 連載49 Kan. さんに訊く。
まずは「人間が生み出した都会の人工物もすべて自然」というタイトルに???でしたが、
お話を読んでみると、まさにこれ、私も言いたいこと。
ぜひこの場でもあらためてご紹介したいので、会報読者の方には重複しますが、紹介させて
いください。

今、自然で空気の美味しい田舎に住む、田舎で子育てをするということが流行ってきて
いますが?という質問で始まったインタビューですが、これに対し、頭でみなさんが描く
「自然」というのは何ですかという、非常に根本的なところにもどってお話をされています。
以下「」内は抜き書きですが、前後転倒ありの抜粋要約ご容赦ください。


「壮大な自然の中に行ってきました」というので話を聞くと、実はそこはすごい産業廃棄物
置き場だった。現実を知らないで田舎に行って、すごい自然だなあと感動して帰ってくる。
東京に一極集中し、田舎がゴミ捨て場になっているのに、それを人は自然という、これは
悪循環。手付かずの自然なんて、本当にちょっとしかない。自然で空気がおいしいと思って
いるのは頭だけ。木が生えていれば自然だと信じているのは、大きな間違い。田舎にも問題が
いろいろあるわけです。自然がいい、自然がいいとみんなは言うけれど、田舎に行くほど
痛々しい自然がいっぱいあります。

「木々の悲鳴、海の悲鳴、そういうのをキャッチすることが、自然ということです。健やか
とはそういうことです。」

「便利になっていく陰で、廃棄物はいっぱい出てくるわけです。それをどうにかしなければ
いけないという問題は、すごく大事なことではないでしょうか。関心を持てば、いろいろな
ことを知ることができる時代です。(中略)個人にできることは微々たることだけど、
やっぱり、いい、悪い、ということを超えて、自分にできることをやっていくことが大事
でしょう。自分でただ情報だけ、コマーシャルのいいところだけを聞いて、そこに乗っかっ
ていくということだけをやって行くと、何も知らない所で、見当違いなことをやっている
ということになります。」

「受け継いだものが最悪だからここより良いところに行けばいい、ということだけやって
いたら、日本列島の自然は滅んでしまいますよ。」

だから、一人一人が目を覚まし、安易に他を求めるのではなく、受け継いだものをちゃんと
とらえ、ちゃんとしたところに気づいて活動してほしい。

みなさん。どう思われますか?
「」内は原文そのままですが、私は本当に同感です。
田舎にいるから自然の中にいると思っているのは思い込みです。
たとえどこにいようと「自然を感じる、自然を感じられる」心、私は「感性」といいますが、
この心がなくてはいったい何を「自然」と思っていることやら。
ただただコマーシャルの「自然」のイメージに操られ、本当の自然は無くなっていく一方です。

それだけ「自然」のことを考えないで生活している人が増えているということでしょう。
そういう意味でも、与えられたあなた自身の、受け継いだ身の回りの自然をどうとらえるのか
が、まずは大切だと思います。
田舎に行かなくても、秘境に行かなくても、都会の人工物でも、まずは自分の身の回りのこと
から、自然を考え感じることです。いいことばかりではない、そこが大切なのです。

目を覚ませと表現されていますが、眼をあいていても、実際に見ても、気づかない人が
多すぎる。
百聞は一見に如かず という言葉がありますが、現代はあまりに簡単にあらゆる情報があり、
実際にその場に行くことも簡単なので、ただただ田舎に行って、ただただ世界中の秘境を
観光して、「自然」を見てもどうなのでしょうか。
実際に目で見ても、その場にいても、その裏まで感じ取れないヒトがあまりに増えている
ように思えます。

自然にやさしい国立競技場(ブログ第3回)、自然エネルギー(第9回)等々、私にとっては
「自然」という言葉は、大いなるまやかしの言葉。
「自然」という言葉をつければ、自称「自然が好き」という人々の絶大なる共感を呼び、深く
考えることなく、なんとなくいいかな、と思ってしまう。

木があって、緑があったら「自然」ではないのです。今、都会の再開発地域は、ある意味
「緑でいっぱい」です。
ビルの谷間に、ビルの屋上に、壁面に、人によって管理された緑がいっぱいです。
でもヒトの都合で管理され、剪定される木々は、根を十分に張ることもできず、大風が吹けば
倒れ、消毒しなくては害虫が発生する。
こうした不自然な自然を「自然」と勘違いし、自然が好い悪い、好き嫌いという人が増え
ても、これは大変おかしな、おそろしい世界です。

再開発の裏側で、田舎の山々は削られ、跡地に建設残土が運び込まれ、太陽光パネルが並べ
られる。
こうしたパネルもごみとなっていく。
熱帯の森は建設用合板生産のために切り開かれ、マイクロプラスチックごみが人知れず運び
込まれてくる。
目を覚まさなくてはいけないと私も思います。

現実の地球の自然は大変危機的状況にあるわけです。
熱帯雨林に暮らすオランウータンの森も危機的状況ですが、足元の日本の国土も実は大量消費
社会という同じ土台の上にあるわけです。
表面だけを見ていたら豊かな自然に見えるかもしれない。
でも豊かな自然ほど隠された闇は深いわけです。
オランウータンは鳴き声もだしませんが、その存在は常に私に「自然」の裏側を考えさせて
くれるわけです。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com

第26回 緊急事態宣言 再び      

===================================
第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
===================================

第26回 緊急事態宣言 再び

ちょうど一昨年前の4月7日、初の緊急事態宣言が出されたのですが、今回4月25日から再び
4都府県で3度目の緊急事態宣言が発令されました。
1年たっても事態は相変わらず、というより、ますます混迷の度を深めている感じです。

とはいえ、緊急事態と言いながら、巷には緊張感はほとんどなく効果のほどが全く疑問です。
交通渋滞が相次ぎ、「県境をまたいで遊びに来ないでください」と互いに言い合うなど、
なんだかゴールデンウィークが4月25日から5月11日に拡大されたかのような人の動きです。

こうした呑気な日常生活の一方で、実は解決できない問題が次々と山積みになっている現状。
ちょうど一年前、このブログに書いたのですが、社会的な弱者、少数者は耐久力がないわけ
ですから、長期戦となると大変です。
私たちのように寄付をいただきながら活動を続ける者たちも、社会に余裕がなくなったとき
には真っ先に影響を受けます。
収入は見込めないし、給付も補償もまったくない。

この4月から私たちもとうとう活動資金がなくなりました。
助成資金の多くは、恒常的な活動に対して支援するというのではなく、何かのプロジェクト
を行うことに対して出されます。
ですから、今のように現地に行けない、活動が制限されている中では、プロジェクトを行う
こと自体が困難であり、資金の獲得が大変難しいわけです。
私たちには持続化給付金はないわけです。

というわけで大変苦しい状況にあるわけですが、一方で「コロナでそれどころではないよね。」
というご意見、これも実に最もであり、当然なわけです。
「それどころではない」と言われれば、なかなか反論できませんが、でも、本当にそうなので
しょうか。
社会に余裕がなくなったとき、弱者は切り捨てられるということ。
長期戦になればなるほど、この現実に気づき社会として何とかしていかなくてはいけないと
思います。

withコロナの時代、残念ながらまだまだ長期化すると思います。
だからこそwithコロナをどう生きるか、大切なことではないでしょうか。
私たちの活動はほんの一例であって、世の中には実にたくさんの弱者があります。
こうした時代、何かと利己的に考えがちですが、なんとか少しずつでも、みんなが広い視野で
ものごとを考える心の余裕を持っていきたいものです。

たくさんの弱者といいましたが、弱者というのは社会のあらゆる場所に存在していながら、
大多数の中のごく少数ということで実はなかなか人の目に留まらないものです。
ですから、考えない人にはその存在すら気づかないということになりかねない話なのです。
でも一方で、ちょっと考えてみると、あなたの身近にも弱者はたくさんいるはずです。

オランウータンなんて鈴木さんに話を聞かなければ、知らなかった!というのは当然ですが、
もっともっと身近な話でもたくさんの見捨ててしまっている弱者がいるのです。
コロナを理由に「それどころではない」と切り捨てる風潮が当たり前となってしまう世の中に
なると、寂しいものですし、寂しいどころではない大変な時代になってしまうと思うのです。

たとえば、今、緊急事態宣言下で盛んに医療体制の崩壊ということが言われています。
現場で働く看護師さんの窮境を耳にすると、これも一種の弱者切り捨ての、現場任せそのもの
の構図だと思います。
重症病棟に割り当てられた少数の看護師に過剰な義務と責任が課され、だれに相談する余裕も
なく、感染予防のために家に帰ることもままならず働き続ける。

今最も重要な現場のはずの医療現場が、そうしたごく一部の個人の努力で支えられ続けている
ということ。
交代要員もなく、辞めるにやめられない中、ただひたすら頑張るのみ。
一部の少数者、弱者に、すべての負担がかかる仕組みで成り立っているのです。
それでいて給料も、ボーナスも経営難で減額。
こうした現場がすべてとは思いませんが、ひどすぎると思いませんか。

一般の我々は医療崩壊などといわれると、「それは大変」とは思うものの、多少の不安が
煽られるだけで、あとはゴールデンウィーク何しよう?などと呑気なものですが、これで
いいのでしょうか。
世の中には本当におかしなことが多いものです。コロナで「それどころではない」と言い
つつ、実際には、お金にも、時間にも余裕のある人達が結構いるのが日本です。
こうした方々が、今より少しでも「周りのこと」に目を向けて自分で考えていくと、少し
新しい世界が見えてくるように思います。

なぜ医療体制が崩壊するのか。
もう1年もたつのです。
病院任せ、医師任せ、看護師任せ、人手不足と一部の少数派の使命感に頼っているのでは
なく、仕組み自体を何とかしてほしいものです。
緊急事態に対して、あまりに呑気すぎます。
緊急事態宣言は、私たち一般にではなく、こうした仕組みを作っている人たちに対して、
もっと強力に、早急に発してほしいものです。


(次回へつづく)

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プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
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第25回 インドネシアの大雨と大洪水      

===================================
第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
===================================

第25回 インドネシアの大雨と大洪水

お久しぶりです。
助成活動の年度末でバタバタしてしまいましてお休みをいただいていました。
また再開したいと思います。よろしくお願いします。

さてこの間、インドネシアも日本と期を同じくして年明けからコロナウィルスの再拡大
となり大変だったのですが、これに加え、今度は度重なる洪水がジャカルタを襲い、
二重苦三重苦の状態となっています。
現地は2月から3月にかけて雨季のピークとなります。
もともとジャカルタは海に面した海抜の低いところに位置する都市で、大雨の度に河川や
下水、排水が溢れだし洪水となっていますが、ここ数年は特に被害が大きくなっています。

地下水の過剰くみ上げ、下水道などのインフラの不備、いろいろ原因はありますが、これに
加えて最近特に目立つのが異常気象。一度降り出した雨が止まないのです。
実は昨年も同様に年明け早々、1月1日から大洪水だったのですが、これも大みそかから
降り始めた雨が止まずに、降り続け、一気に増水した川からの水が急激に住宅街に流入。
一度浸水すると、堤防が決壊する日本の河川の氾濫と違い、低地であるため何日間も水が
引かない状態となってしまいます。

30度を超える暑い国ですから衛生上の問題も加わり、被害はさらに大きくなっていきます。
こうして未曽有の災害で明けた2020年は、さらに新型コロナウィルスも加わり、本当に
大変な一年となりました。
そして2021年、今年もまた、1月、2月と何度も洪水の被害がジャカルタを襲っています。
特に2月下旬の豪雨では、幹線道路が水没し、首都の大半が機能不全になる事態となって
います。
この時の被害は市内の広範囲に及び、私たちの協力者も被災。
その片付けが今でも続いています。

日本はこうしたインドネシアの状況には関係なく年度末となり、例外なく私たちもいろいろ
報告作業に追われるわけで、こちらの事情でこの間、無理を押して協力してくれているインド
ネシアの方々に本当に申し訳なく思っています。
日本では、コロナ、コロナのニュース一色で、他国のこうした状況はほとんど報道されない
ので、みなさんほとんど知らないのですが、実はこの大雨、他人事ではない話です。

こうした大雨、豪雨をもたらしているのは熱帯低気圧、サイクロンの影響です。
この熱帯低気圧が発達して日本にやってくるのが台風ですが、南に行くとサイクロンに
なります。
インドネシアでは4月に入ってまた、今度は東ティモールで大被害となっています。
オーストラリアでも3月に、「50年に1度の大雨」が続き、雨が降りやまない状態で、なんと
一部の地域では降雨量が1000ミリ越えだとか。
ジャカルタの異常な大雨も、こうした熱帯低気圧の影響だと考えられています。

とにかく日本の台風も昨年こそ被害がなかったものの、近年その威力を増しています。
熱帯低気圧の発生と、発達。このメカニズムが狂ってきているのでしょう。
赤道に端を発した「異常」といわれる事態が、あちらこちらで今起こっているのです。
熱帯の雨の特徴はバケツをひっくり返したような大雨ですが、これは短時間のものです。
雨は止むものなのです。
よく日本の梅雨を体験したインドネシアの方に、「日本の雨は長い」と驚かれましたが、
インドネシアの雨は一時降ると止むのが普通なのです。
それが止まない。
ヒトはどんなに科学技術を発展させても雨を止ませることはできないのです。

熱帯雨林は文字通り、熱帯の雨を生み出す「雨の森」です。
この熱帯の雨の森の異常が、雨の異常を生み出し、大気の異常を生み出し、大きな気候の
異常を生み出している。
熱帯雨林の今の状況を見ていると、私はこのことを実感し、確信します。
熱帯の森の少しずつの狂い、バランスの狂いが、雨の異常をもたらしている。
私たちは気象学者でもないので、説明しろ、科学的に証拠を出せと言われても、そんな
ことはできません。
しかし、気象学者に任せて、こうした地球の異常を科学的に解明しようなどといっていては、
遅すぎます。

インドネシアの、オーストラリアの大洪水は私たちへの警告だと思います。
コロナ、コロナでこうした他国のニュースに目を向けることもなく、台風が来たときだけ
大変だと言っているのではなく、やはりもう少しこの地球の気候、気象の警告に対して
関心を持たなくてはいけないと思います。
日本の天気予報は、洗濯日和だとか、コートを着ろだとか、ジャケットがどうだとか、
その場限りの注意喚起が中心ですが、地球の気象という大きな枠組みで考えると、のんきに
ファッションショーをしている場合ではない状況です。

気象というのは、その場だけの話ではなく、「つながり」なのです。
台風をはじめ、日本の出来事も、日本だけの話ではなく、大気の動きであり、その要(かなめ)
である熱帯の出来事と大きな関係があると私は思います。


(次回へつづく)

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鈴木晃(すずきあきら)
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第24回 オランウータンは何頭いますか? その2      

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
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第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
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第24回 オランウータンは何頭いますか? その2

野生の生き物の数を知ろうとすることは非常に難しいことなのだという話の続きです。
まずは少し昔の話になりますがオランウータンの生息数に関する面白い話を紹介しましょう。
面白いといってもこの話は非常に示唆的な話で、一般に流布される『数』や『データ』という
ものをどのように捉えたらいいのか参考になる話だと思います。

2003年1月に、国際自然保護連合(IUCN)の呼びかけでオランウータン保護の会議がインド
ネシアのジャカルタで開かれました。
この時の会議は、オランウータンが絶滅に瀕していて、全生息数が1万~1万5千頭に減って
しまっているという前触れで開かれたものでした。
しかし、意外にも結論は『オランウータンは65,000頭生息している』ということにまとまり、
この数字が公式なものとして発表されてしまったのです。

現在でもこの数字が『オランウータンの生息数』としてマスコミなどでも報道されているもと
になっている数字の一つに思いますが、とにかくオランウータンの数に関しては、その数を
知ろうという純然たる目的よりも先に「絶滅の危機」「○○パーセント減った」ということを
アピールしたいという意図なのか、とにかく根拠不明の数字がよく出回ります。

ましてこの時の会議は国際自然保護連合の呼びかけという、それなりの影響力を持つ会議
だったわけですが、こうした数字は権威づけられればつけられるほど、現実とはかけ離れた
ものになるようです。
会議の冒頭、奇妙な約束事が交わされました。
それは、「この会議で出されたデータは、お互い博士(研究者)が出したものであるから、
批判しあわずに、データを尊重する事から始めよう」というものでした。

結果としてこの時出された6,5000頭という数は、いわば、研究者による各研究地での数の
寄せ集めで出来上がった数字とも言えるのでした。
オランウータンは、森の中でかなりの距離を移動します。
巣の数も、オランウータンの個体数とパラレルではなく、生息の指標となるだけです。
1日にいくつも巣を作るときもあれば、夕方古い巣に入って、そのまま寝てしまうことも
あります。

しかし数字を見る限り、こうした野生オランウータンの生態の実情がどこまで把握されて
いるのか、はなはだ疑問です。
数字が出される中で何ら議論を経ることなく、ただお互いの研究内容を尊重しようという
きれいごとで片づけられてしまったのです。
こうしたことは実はよくあることで、オランウータンの生態を知れば知るほど、『生息数』
というものを割り出す難しさと問題点を痛感しています。

オランウータンの生息数が多ければ、それだけその地域が大切に考えられ、予算がとりやすい、
という現実がこの不正確な数を生み出しているとも言えるのです。
重要なことは、野生オランウータンの数の問題、とくに数の増減に関する問題を議論するため
には、そうした議論ができるだけの観察が実際に各地で行われているかということなのですが、
残念ながらこうした点においてオランウータン研究はまだまだ経験の積み重ねが少ないのです。

今世紀初めには20万頭いたとも、30万頭いたともいわれていますが、こうした数字はあくまで
推定値です。
1990年をピークに激減などとも解説されますが、1990年時点でどのような研究が行われていた
か、実際を知っている人が書いているわけでもありません。
この時出回っていた数字自体がすでにかなり水増しされた数値であり、そもそも問題なのです。
いつの時代もただただ数字だけが独り歩きしているのです。

正確な生息数を出すための研究が行われていないという話をしましたが、これはお金と時間の
かかる極めて大変なことなのです。
一研究者でできるようなことではありません。
オランウータンの保護を考えるのなら、本当は国家規模でそうしたプロジェクトの必要性を
訴えるのが理想ですが、国はとてもそんな状況にはありません。
国際自然保護連合やWWFのような保護を訴える機関に期待しますが、保護の問題を言っている
割に、研究者のこうした声にはあまり関心を払っていません。

「数」などという、一見確かそうでいて、実はあやふやなものを探るためには、それをきちんと
認識したうえで、あらゆる角度から客観的に自然をとらえる必要があるのです。
まずは研究者自身が一定の森を見る目、オランウータンを見る目を持ち、スタッフはもとより、
そうした目を持つ人の層を増やす、一歩一歩の積み重ね、まさに「経験」が必要なのです。

自然全体を見る。
そうした下地がなくては全体を論じても何を議論しているかはなはだ疑問です。
でも、そんな面倒くさいことを言う人は少数派です。私たちのオランウータンの研究はこう
した、国際的無理解とも言える状態の中でこの30年以上独力で続けられてきました。
この間、東カリマンタン全域のオランウータンの生息数の算定を何度かしています。
が、この話はまた改めてしたいと思います。

6万頭だ、1万頭だと言って、だれも自然を見ないで騒いでいるうちに、実は本当の意味で
野生のオランウータンというのはもうほとんどいなくなっているのかもしれない。
これがごくごく最近の鈴木先生の切実な懸念であり、大いなる危機感なのです。


(次回へつづく)

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第23回 オランウータンは何頭いますか?          

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第2回 野生オランウータンの研究
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第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
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第22回 自然のバランスとスピード
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第23回 オランウータンは何頭いますか?

梅花の季節も盛りを過ぎ、次は桃、そして桜と季節は着実に春に向かっているようです。
野や山の草木は、どうしてこの季節の移り変わりがわかるのでしょうか。
野山といわず、実はヒトの身体もこの季節の変わり目を非常に繊細に感じ変化するもので、
冬から春にかけていろいろと不調が出てくる季節でもあります。
ヒトも自然の一部であり、自然の摂理の複雑さと不思議さをより一層感じるこの頃でも
あります。
みなさまお変わりありませんか。

さて、以前科学の力(第21回ブログ記事)でも書きましたが、私たちはいろいろなことの
判断基準として「数字」や「データ」といったものをとても重視する傾向にあるようです。
こうした一見客観的で科学的なものは、それだけでなんとなく信頼してしまうものですが、
一方で、経験や感覚といったもの、これもまた非常に大切なものです。
そして「経験」というものは、積み重ねるのに大変時間がかかる。
ましてその積み重ねられた経験が、よいものにつながっていくためには「良いものをよい」
「悪いものをわるい」と感じる感覚、感性が必要なわけです。

オランウータンの研究を続けていると、この「数字」と「経験」の双方の意味とそれが
もたらすことについて常に考えさせられます。
ということで、今日は「数字」ということで、しばしば尋ねられる「オランウータンの数」
という話を紹介したいと思います。

オランウータンは何頭いますか?
この質問は最もよく耳にする質問であり、最も基本的なことなので、みなさん何気なく発せ
られるのですが、野生オランウータンの本当の姿を知っていればいるほど、この質問は
答えることが難しいものなのです。

多くの場合、研究者は生息数の算定として、巣の数を調べてそれを生息密度の指標として
全体数を割り出す方法をとりますが、ムラが多く、数はまったく正確とは言えません。
そもそも野生の数を推定するということは非常に難しいものなのです。
研究者はオランウータンが多くいるような森に入って調査するので、どうしても、生息密度
の高いところを選ぶことになります。
それに面積をかけるから、数が大変多くなってしまうものです。
そもそも生息面積をどのようにとらえるかでも数は全く違ってしまいます。

最近ではこうした弊害を考慮した計算ソフトの開発自体が研究になったり、ドローンだ、
GPSだと新しい手法が紹介されたり、様々な試みがなされているようです。
しかし出された数字のいったい何がどう科学的なのか。
その数字が本当に野生のオランウータンの生態を反映しているものなのか。
非常に疑問を感じています。
自然科学というものは、その研究者が自然をどのように見つめ、どうとらえるかが大切な
学問です。
その肝心な部分が育っていかずに、科学の手法や技術に頼っていくようになっては自然を
扱う学問としては本末転倒です。

オランウータンは森の中に、いつも均一に居るのではなく、食物の採食季節にあわせてなど
の理由で、濃縮になったり、希薄になったりしています。
このため私たちの研究地ではオランウータンの数が1平方キロあたり1頭のときがあったり、
8頭のときがあったり、長い目で観察していくとオランウータンの姿がまったく消えてしまう
時期もあるわけです。
こうした集団移動とでもいうべき状態は5年、10年の期間でオランウータンの行動をみていく
としばしばあることで、数年間姿を見せないようなこともよくあります。

そんな時彼らは何処に行っているのか。
森林火災で、果実が実らないので、どこか他の森に行ってしまったのか。
それともこうした行動形式自体がオランウータンの生態そのものなのか。
私たちにとってはオランウータンの生態はまだまだ謎だらけです。
しかし、生息数に関して研究者の間でもこうした議論自体が成り立たないのが実情なのです。
私たちは長期間、とくにオランウータンの社会構造の解明という観点での生態観察を続け、
その生息地である森林の実態調査を続けているのですが、こうしたテーマ設定自体他に類が
なく、研究者間でも議論自体がかみ合わないことも多々あります。

短期間の観察では単にそこに「オランウータンがいる」「オランウータンがいない」という
程度の、表面的なことしかわからないのは当然といえば当然です。
こうした多様な数を寄せ集め、比較をして何かを論じようとしても、それはかなり危険な、
何をやっているかわからないものとなってしまうわけです。
数の増減の理由を「調査精度の向上」だの、「森林の減少」などといって簡単に説明する
ような研究がいくら増えても、オランウータンの数は減っていくばかりでしょう。

オランウータンは絶滅の危機とよく言われます。
紹介されるのは「10年前に○○頭いたのが今は〇頭で激減」といったたぐいの数字ですが、
これは研究者によって出された数字の寄せ集めが単に減少したということにすぎないとも
理解できるわけです。
以前、生息数が1万~1万5千頭に減ってしまっているという前触れで開かれた会議があった
のですが、意外にも結論は『オランウータンは6万5千頭生息している』というものでした。
そしておそらく今言われているオランウータンの生息数というのは、この時の数字がもとに
なっているものと思われるのですが、この時のきわめておかしな議論、非科学的な算出論拠
を思い出すと、「数の寄せ集め」でしかない数字の恐ろしさを思うわけです。

長くなってしまいましたので、続きは次回に。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com

第22回 自然のバランスとスピード          

===================================
第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
===================================

第22回 自然のバランスとスピード

今日は前回書きそびれた、絶滅ってどういうこと?から始めます。

絶滅というのは単にその種がいなくなるということだけではないのです。
自然という大きな枠の中で見たとき、その中でそれぞれの生物は絶妙のバランスを保ち
ながら生きている、それが自然界です。
生き物だけではなく、その環境に存在するあらゆるものがそれぞれ影響しあいながら
バランスをとって成り立っているということです。
ですから、ある種が絶滅するということは、その生態系、全体としての自然のバランスが
失われたことを意味するわけです。

オランウータンが絶滅するといって、その一種だけを残そうとする。
自然のバランスというものをヒトの力でどうにかしようとすることの難しさをヒトは
本当にわかっているのでしょうか。
ウイズコロナなんていっていますが、共存とか、共生とか言葉でいうのは簡単ですが、
自然のバランスということがどういうことなのかを考え、もっと自然界そのものに対
して敏感になり、大切にしてほしいということを切実に願うわけです。

さて、新型コロナウイルスといいますが、このウイルス、ヒトが知らなかっただけで実は
ずっと以前から地球上に存在していたともいわれています。
ではなぜそれが突然ヒトに対してこんなに猛威をふるう存在になったのか。
まだわからないことだらけです。
人類の歴史はウイルスとの共存の歴史でもあります。
共存とはどういうことか。
科学で説明できること、解決できることはわずかなのです。
そのわずかの積み重ねがヒトをここまで大きなものにしてきたことも確かですが、同時に
ヒトは己の無力さを常に振り返るべきだと思います。

あらゆる意味で、「バランスをとる」というのは意識するととても難しいことだという
ことはみなさんも日々感じられているのではないでしょうか。
精神のバランスなんて、これまた医学ではわからないことばかりの代表のようなもので、
一度崩れると本当に大変で、薬でコントロールしようとしても、上手くいかないこと
ばかり。
そして、一度崩れてしまったものの、何がその原因かをさぐること、これもまた非常に
困難なことです。

ヒトをはじめ、生命体というのは、このバランスの崩れというものに結構もろいのでは
ないでしょうか。
ある程度までのバランスの崩れというものに対してはかなりの補正が働くので、その崩れ
自体に気づかないのですが、ある一点に到達してしまうと、何をしようと結構なスピード
でボロボロと崩れ落ちてしまう。
これは私の勝手なイメージですが、そんな風に思うのです。
人類の長い歴史から見れば、結構なスピードといってもそれなりに長い期間あるのかも
しれませんが、そう考えると、やはり「ある一点」を超えないようにしなくてはいけない
と思うのです。(実はもう超えてしまっているのかもしれませんが。)

バランスの崩れなんて言っても、それが具体的に何なのか。考え出せばいろいろなことが
あってすごく話が抽象的なことになってしまいました。
ただひとつ、バランスの崩れということでいえば、それが何であれ「スピード、速さ」
というものが非常に大きなファクターを持っていると私は思います。

スピードアップは効率主義の現代においては美点とされますが、速いことが良いことばかり
ではないということです。
そもそも自然や生命体というのは恐ろしいほど「ゆっくり」と今のかたちになってきた
わけで、「速さ」というものとは対極的な位置にあります。

速さと効率を追い求め、20世紀の機械文明は驚くべき変化を私たちにもたらしました。
熱帯の森の消滅なんて、その代表のようなものです。
つい半世紀前までは、手引きの鋸で切り倒していたものが、チェーンソーやブルドーザー、
トレーラーなどの重機の登場で状況は一変しました。

機械は人間の感覚を麻痺させ、価値観を変えてしまう。
自然への畏怖なんてものはなくなり、考えなくなるのではないでしょうか。
速いことは人類にとって怖いことだと思いますが、多くの人はそう思わないようです。
急速に変わることはよいことばかりではないはずです。
でもそうしたことに私たちは無頓着なばかりか、急速な変化を「便利」という言葉に置き
換えて大いに喜んでいるのです。

ヒトは速さに関しては、「もっと、もっと」と際限を知らない感じです。
ほんとにそんなに速い必要があるの?ほんとにそんなに変わる必要があるの?もっと速く、
といえばリニア中央新幹線ですが、リニア新幹線はもちろん、いろいろなところで私は
いつもそう思います。
その代償が何なのか、考えてみたことありますか?


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
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現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
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第21回 科学の力          

===================================
第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
===================================

第21回 科学の力

前回の続きで生物の絶滅について考えようと思っていたのですが、連日コロナコロナと
大騒ぎなので、今日はちょっとそちらの方向から書いていきたいと思います。
新型コロナで感染者急増というけれど、大変だと騒ぐ一方で、マスク着用ぐらいで人は
出歩き、ソーシャルディスタンスだの、新しい日常だの、わけのわからない言葉が躍る
ばかり。

たいして有効な手がとられているとも思えないのに、テレビのアナウンサーには
「国民の皆様ご協力ありがとうございます」みたいなことを言われるし。
どうして?なんだかおかしいなとは思うものの、私自身に余裕がなく、この騒ぎ自体を
あまり深く考えたり、調べたりすることがなかったのですが、この機に改めて考えて
みました。

これまでもしばしば目にしたのが「コロナは風邪とおなじ。たいしたことない。怖がる
ことはない。」という言説。
これに関しては正直どうしてこんなことを言う人がいるのだろうと思っていました。
「インフルエンザでも何万人と亡くなるのだからコロナの死者はたいしたことはない。」
ということもよく耳にします。

こうした声に対しノーベル賞の山中伸弥先生は昨年の早い段階から二つの点を指摘され
コロナへの危機感を訴えられていました。
新型コロナウイルスの怖さはまず、あっという間に重症化して、 それまで元気だった人
が急激に悪くなり、しかも発症から亡くなるまでが凄く早いという点。
もうひとつは長期の対策が必要だという点。

その中でも、とくに私は、あっという間に致命的になるという病気の進行の速さと、
その反面、対応にはじわじわと気長に取り組まなくてはならないという対極的な二つの
スピードの問題に恐ろしさを感じていました。
そしてさらに明らかになってきたことは、その重篤化する患者がごく一部の少数者である
ということ。
自粛自粛ということでいま盛んに個人の取り組みが強調されていますが、本来は社会と
して、枠組みとして、もっと大きなところでの長期の展望に立った切り替えが必要な問題
だと感じているのです。

前回も書きましたが、人類は移動することによって発展してきた生き物です。
コロナはその根本的なところにじわじわと食い込んできているわけです。
しかも、「経済」という魔法の言葉の前には人は何ごともGOGOです。
人類の「動く」という欲求とウイルスの拡散。
ウイルスに勝ってオリンピックを、なんて言っていますがそんなに簡単に短期間に勝てる
相手なのでしょうか。
何かとても短絡的です。

ということで、世の人は今の現状をどうとらえているのでしょうか。
今はちょっとネット検索するだけでいろいろな情報が出てきます。
政府や、マスコミ報道はもちろん、陰謀論だとか、楽観論だとか、説明、解説、感想、
本当に情報に溢れています。

ネット意見を見ていく上で、ひとつ大変興味深かったのは「科学的エヴィデンス」という
言葉の持つ重さ。
この言葉が何だか金科玉条といって持論を展開する人が多い。
時には全くの素人ですとか、門外漢ですという人が、「これは権威ある論文が元」などと
言及して、科学的根拠に基づいてと、いろいろ解説しています。
それに対して賛否またいろいろな意見が拡散していくと、もはや問題の核心がすり替わり、
全くおかしな話になってしまう。
そのおかしな話にたくさんの人がいいね!といったりするわけです。

さて、私が当初から疑問だった「コロナは風邪と同じ」という話。
実はこれは徳島大学名誉教授の大橋先生という方の話が拡散された結果らしいということ
がわかりました。
なぜコロナは風邪と同じなのか。
科学と学者と数字、そして世論というものの構図は非常に示唆に富んでおり考えさせられ
ました。

私たちがいかに「科学論文」という名前に弱いか、DNAや遺伝子データという言葉に
弱いか、科学のごまかしということを細かく実例をとって解説されているように思います。
(たくさんの動画を発信されているなかで、ほんの一部を拝聴して書くのでおかしな点が
あったらお許しください。)
そうした話の中で確かにコロナは風邪と同じというような話もされています。
こうした言質をとって、反論される方や一方で賛同される方、それが一部で大いにうけ、
さらには陰謀論のように解説されているのを知りました。

しかし、問題はそこではありません。
言葉の表層ではなく、その人がもっとも伝えたいことは何なのかということをよく考える
ことが大切ではないでしょうか。
先生は「科学」というものの怖さを言っているのです。
もしかしたら「存在しないものを存在しているかのように論文の上で言う」こともある
わけです。
そういえば理化学研究所のスタップ細胞、スタップ騒動というのもありましたね。

なんでも「科学的」と大きな声でいわれると、それをおかしいとも思わないで信じて
しまう私たちがいる。
たいした科学的根拠も本当はないのに、それをもとにおかしな騒動が起こってしまう。
それはおかしい。
むやみに恐れずに、そのおかしさに気づかなくてはいけない。
こうした現実の一面、世論の問題点と科学的なことの怖さを学者の眼で種明かしして
くれているのではないでしょうか。

それにしてもみなさん、科学者でもないのになぜこんなに科学的なことが好きなので
しょうか。
別に科学論文を否定するつもりはありませんが、おかしなことをおかしいと思うこと、
怖いことを怖いと思うこと、なにも科学論文に裏付けられなくても感じるべきことだと
思いませんか。

とはいえ、ウイルス自体をたいしたことがないとは私は思いません。
確かに多くの人にとってコロナは風邪と同じなのかもしれません。
でもなかに、一部だけ重篤化する人がいる。しかもそのスピードはものすごく速い。
もしそうした症状の原因となるウイルスがあるとしたらそれは怖いと私自身は思います。
しかも感染力が強く、世界中に短期間に広まるとしたら、それは本当にソーシャル
ディスタンスなんて呑気なことを言って出歩いていて何とかなる話なのでしょうか。

実はそんな危険なウイルス自体が今回の騒動の産物だという考え方もあるようですが、
いずれにしろ現在を含めた、近い未来の人類にこうした脅威のウイルスが襲い掛かる
ことは十分に考えられるわけで、人類は単に怖がったり、無視したりするのではなく
もっと深く考えるべきだと思います。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
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第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~   

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
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第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
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第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
===================================

第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~

新年早々の緊急事態宣言で幕を開けた2021年です。
GOTO、GOTOと、一体どこに向かおうとしていたのか、これが一国の政策ですから
まったくおかしな話ですが、こんなときだからこそ、ひとりひとりが感性を磨き、
きちんと物事を考えられるようにならなくてはいけないと思います。
本年もどうぞよろしくお願いします。

さて、日本も大変な事態となっていますが、実はインドネシアも同様で、1月8日の
新型コロナウイルスの新規感染者数は1万617人。
ここ数日で急速に感染者数が増え、政府はまたもや外国人の入国禁止措置に踏み切って
います。
9日も感染者は1万人越えということで、2日連続で1万人を超える事態です。
累計感染者数も82万人超えとなり、東南アジア一となっています。

日本では、冬場だから空気が乾燥し肺炎が多くなるとの考え方もできますが、
常夏のインドネシアですから気温は関係なさそうです。
当初からわかっていたことですが、とにかく人の移動が感染者数増加の最大の誘因です。
人類は移動することによって発展してきた生き物ですから、コロナはその根本的な
ところにじわじわと食い込んできているのです。
人類の移動への欲求とウィルスの拡散という問題、これにどう対処していくのか。
学校も休校、入学式も我慢と言っていた昨春から、ちょっと感染者数が減れば、GOTOだ!
などと言っているようでは全く本末転倒ではないでしょうか。
でも、今がピークで、冬が過ぎればGOTO、GOTOオリンピックだ!なんて考えている
ような、直近さえ見ることのできない人類の有様を見ると憂いてしまいます。

少なくとも、これから受験シーズンを迎える中、受験生はもちろん、家族や関係者のこと
を思うと、なんだか無策で、行き当たりばったりで、GOTOなんてよく言っていられたなあ
と思います。
ニュースはいつもコロナのことばかりなのに、そのコロナのニュースも日本のことばかり。
グローバルと口では言いますが、ドメスティックで、あまりに一面的です。

そもそも報道というものが「客観的に事実を伝える」などといいながら、結果として
必ずしもそうでないということは、いろいろな面で明らかとなっています。
それでも人は報道に左右され、支配されるものです。
報道が伝えるものは事実の一面であって、全体でもなければ、時として真実を隠して
しまうものでもある。
オランウータンとかかわっているといつも考えます。

オランウータンという生き物はいろいろと「報道に利用されてしまう」生き物です。
これまでも記事の中で触れてきていますが、オランウータンの孤児を保護しようという
取り組みなどは日本でもしばしばマスコミに取り上げられています。
でも、その多くは、「可哀そう」という人の愛護心に訴えるばかりで、問題の解決への
本質的追及へはほとんど無関心なものばかりです。

訳も分からず「可哀そう」、「オランウータンを守ろう」といっていること自体が、
実はオランウータンから彼らの生息地を奪ってしまう動きへ加担することになっている。
大変皮肉で、遺憾なことですが、現在の野生のオランウータンの置かれている状況を
見るとそう思わずにはいられません。

ヒトにエサをもらい、ヒトに依存して成長したオランウータンの孤児たちがいまインド
ネシアではどんどん増えています。
マスコミはこうした保護の取り組みを美談として宣伝し続け、NGOは運営資金の重要性を
訴えます。
でも、このコロナ禍でこうした行き場のない個体の先行きを思うと、オランウータンの
保護っていったい何なのだ?と思います。

結局はこのような取り組みを「よいこと」として宣伝する活動を維持するために多くの
資金が投入されることになるのです。
確かに「可哀そうな目の前の、そのオランウータン」は救えるかもしれない。
でもそれってどうなのでしょう?そのオランウータンを救う一方で、森の中の多くの
オランウータンたちは忘れ去られ、棲みかを狭められることになっても仕方ないとされて
いるのです。

「オランウータンは絶滅の危機」とよく言われます。
新年早々「絶滅」をテーマにするのもなんですが、では絶滅ってどういうことなのか。
その種が生き残っていけばよいことなのか。
人類自身、多くの近縁種の絶滅の中から生き残ってきた種とされていますが、次回以降、
「絶滅」ということについてもう少し考えていきたいと思います。


(次回へつづく)

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第19回 森林火災のあとの熱帯雨林   

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
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第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
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第19回 森林火災のあとの熱帯雨林

この写真は森林火災の後の熱帯雨林の写真です。
2006年の11月に撮影したものです。
東カリマンタンの森は1983年に史上初の森林火災で広大な面積が燃えてしまいました。
その後再び1997年に2度目の大火災がこの地を襲いました。
この2度目の火災から10年近く経ったときに撮影したのがこの写真です。

AfterForestFire1.jpg

写真の中で白く見える木が、火が入ったために枯死した木です。
かなりの数の樹が枯れてしまっていることがわかります。
この写真はクタイ国立公園内の広域調査の際にヘリコプターから撮影したものですが、
どこまで飛んでも、こうした白化した森が広がっているわけです。

熱帯雨林の火災は火が林床の落ち葉を伝わって燻りながら何日もかけて燃え広がります。
この火が勢いを増すと、単に林床を焼き尽くすだけではなく、太い幹の大きな木の中心
にまで火が入ってしまい、こうなると火力もさらに強くなっていくわけです。

一部の木は火が入っても、火災後やがて再び若葉をつけ、再生するものもありますが、
多くの木々は次第に葉を落とし枯れていき、幹だけがこのように白化して残ります。
再生した木もあるので写真のように一見緑が多く、それほど燃えていないように思う
かもしれませんが、実際は森林全域に火が入っているわけです。

こうしてダメージを受けた熱帯雨林の高木は、すぐに燃え尽きてしまったり、倒れて
しまったりするわけではありません。
この写真のように森林火災後10年近く経っても立ち枯れのままの姿で森の中に残って
いるのです。
やがてこうした枯死した木が、火災後10年以上経ち朽ちてくると、雨が降った後になる
と水分を含みその重さに耐えきれなくなって突然倒れます。

写真でこのように見ますと細い木に見えるかもしれませんが、実際は1本が50メートル
もの高さがあるような巨樹です。
これが倒れるのですからものすごい音がします。
どちらの向きに倒れていくのかもわかりません。
こうした倒木に巻き込まれては逃げようがありません。
私たち観察者にとっては焼け跡の雨後の森でのこうした倒木がもっとも危険なわけです。

結局ひとたび森林火災が起こると、1本の樹が枯れて倒れるだけでも10年近くかかる
わけです。
まして林内の環境が再生していくには大変な時間がかかるわけです。
オランウータンのくらすクタイの森は、1983年と1997年に大火災に見舞われました。
とくに1997年の火災は、1983の最初の火災からようやく少し森が復帰してきたかな
という矢先に再び火が入ったわけで、熱帯雨林の復活、再生にとっては大変な打撃と
なったわけです。

私たちはこうした焼け跡の森でくらす野生のオランウータンの姿を見てきたわけです。
研究開始当初はオランウータンの研究者たちでさえ、森林火災にあったクタイのような
場所ではオランウータンは生きていけないのではないかと単純に考えていました。

ところが、実際には火災によって死んだ個体はいないうえに、彼らは火災後の劣悪な
環境にもかかわらず、こうした環境の変化にもうまく対応し、森林の復活を待ちながら
ともに暮らしてきたわけです。

前回にも書きましたが、熱帯雨林の火災の発生自体が人類史上はじめてのことであり、
その後の森林がどのような状況にあり、そしてどのように復活していくのか。
こうしたことは全く知られていないし、研究する人もいませんでした。

ヒトの社会は災害からの復活は人為的に働きかけ、短時間で文字通り「復興」して
いきます。
でも自然の世界ではそのような短期間での「復興」はありません。
枯れた木が倒れるだけでも10年かかり、そこに暮らす生き物たちは、中には絶滅する
ものもあるわけです。
火災の場合は小さな生き物ほどその影響は強いですので、元の環境に戻るには大変な
時がかかります。

熱帯雨林を代表する生き物に「ヒル」がいます。
ヒトの血を吸うヒルですから、私たちのように森の中を歩くものには歓迎せざる生き物
ですが、本来熱帯の森の中にはヒルがいっぱいです。
このヒルなどは火災の影響でほぼ死に絶えたように見えましたが、つい最近になって
また少しずつ森の中に戻ってきたようです。

AfterForestFire2.jpg

つづく


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com

第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~   

===================================
第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
===================================

第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~

野生オランウータンのくらしということで少し紹介してきましたが、今日はオランウータンが
暮らしている森について書こうと思います。
そもそも野生のオランウータンのくらしというのは、熱帯の森とともにあり、熱帯の森なく
して彼らの生活は成り立ちません。
まさにオランウータンの存在そのものが熱帯雨林の象徴であると私は思います。

私たち、オランウータンと熱帯雨林の会は「オランウータンに熱帯の森を」ということで
活動していますが、これはオランウータンという生き物を守ればいいという単なる動物保護
の話ではないのです。
オランウータンという生き物が象徴する豊かな熱帯の森、そして様々な生き物がくらす地球、
自然環境というものの価値をもっと多面的に、そして永続的にヒトは考えなくてはいけない、
そういう思いから活動しているわけです。

さてこの熱帯雨林ですが、インドネシア、カリマンタン島の熱帯雨林は近年数度にわたる
大規模な森林火災で大きな被害を受けました。
こう書いてしまうと、最近は森林火災のニュースもよくあるし、「ああ、そうなんだ。」
と読み流されるかもしれませんが、これは実は大事件なのです。
本来、熱帯の森は、湿度が高く、火事で焼けることはないといわれてきました。
ところがこの熱帯雨林が人類史上初めて火が入り燃えてしまったのです。
これが1982-83年に起こったカリマンタン島の大火災でした。
九州ほどの面積がこの時の火災で失われました。

熱帯雨林は熱帯降雨林、熱帯多雨林ともいいますが、本来は文字どおり「熱帯の雨の林」
なのです。
赤道直下の強い太陽光は水蒸気の発生を促し、上昇気流を生み出します。
森の木々から蒸散された多量の水蒸気は、この上昇気流によって空へおくられ、雲となり
大量の雨を降らすのです。
そしてその雨が豊かな熱帯の森を育んできたわけです。
この自然の循環とバランスが崩れてしまった結果が熱帯雨林の火災につながるわけです。
熱帯の自然の循環が狂うということ、これは、当然地球規模に影響を与えるはずのことで
あり、本当は大事件なのです。

本来は湿潤なはずの熱帯雨林の「乾燥化」。これが熱帯雨林火災の元凶です。
鈴木先生はかなり以前から「砂漠化の問題は砂漠だけの話ではない」と言っておられます。
先生がオランウータンの研究を開始された当時でも、すでに熱帯雨林の問題は盛んに
言われていたのですが、結局ヒトは過去を顧みることなく、森の乾燥化どころか、今は
森自体がなくなっています。

社会だの、科学だのの発展にも関わらず、その後何十年たっても相変わらず熱帯雨林の問題
はスローガンばかりで本質は昔のまま放置されているように思われます。
バランスというものは本当に難しいもので、ヒトの得意な頭で考えてできるものとは違う
らしい、というか全く逆さまに位置するように思われます。
ヒトが考えれば考えるほどバランスが悪くなっていることが多々あります。

熱帯雨林の火災というと最近ではアマゾンが知られ、焼き畑がその原因、人が火をつけた
などと言われていますが、本来の湿潤な森林環境下であれば、たとえ火をつけたとしても
そうそう燃え広がるものではないのです。
その点は中緯度、高緯度地域の、たとえばアメリカなどの油分の多い針葉樹林帯に燃え広がる
森林火災とは状況が全く異なるはずなのです。
熱帯雨林は雨が多いので落葉はすぐに分解されてしまいます。
分解がはやく表土が薄いのも熱帯雨林の特徴です。
ところが森の中の乾燥が進むと落ち葉が積もってしまい、そこに火が入り林床をどんどん
広がっていきます。
オランウータンのくらすクタイの森もこうして1983年に火が入ってしまったのです。

今や熱帯雨林は毎年のように燃えています。
これは本当に地球のバランスが崩れてしまった現れ、私たちヒトへの自然からの警告なのです。
ブラジルの大統領が悪い、焼き畑民が悪いといったことはある意味表面的な原因に過ぎないと
思います。
政治は確かに大きな力を持っています。
でもその政治を動かしているのは、経済であり、商業であり、私たち一人一人なのです。
自然軽視、地球軽視で「知らなかった、忘れっちゃった、そうだったの?」と言っていて
いいのでしょうか。

1983年の人類史上初の熱帯雨林の火災は木材輸出のための森林の過剰伐採の影響で、森の
中の乾燥化が進んだことが大きな原因のひとつだと私たちは考えています。
一度崩れてしまった自然のバランスを取り戻すことがどんなに不可能なことかは、その後
も相次ぐ森林火災が実証しています。

言うまでもありませんが、実は日本は1960年代、70年代を通してこの大量の熱帯木材を輸入
していた当事者です。
でも、そんなことは今や半世紀前のこと。
そうだったの?といった程度の認識ではないでしょうか。
建築業界は、そして私たち一般の人も、新築建売大好き、「家」の使い捨て文化を築いて
います。
当時日本に大量に輸入された熱帯の木材は、30年寿命といわれるような今の日本の住宅事情の
中で、すでに「ゴミ」となってしまっているのでしょうか。

「知らなかった」で済ませるには、あまりに重すぎます。太古の昔から育まれてきた熱帯雨林。
自然のバランスの中で生み出されてきた貴重な自然の恵みをいただいているという最低限の
認識すら私たちユーザーにはないのです。
いま盛んに脱石炭が叫ばれています。よいことだとは思います。
でも「石炭」を使ってきた過去にフタを閉め、忘れてしまって前を向くだけではだめだ
ということを強く訴えたいのです。

つづく


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
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鈴木南水子(すずきなみこ)
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アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
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第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~   

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
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第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~

先日のお話し会にご参加くださったみなさま、ありがとうございました。
会場のプロジェクターはとても画質が良く、普段は小さなPC画面で見ているだけなので、
こんなに拡大された鮮明な画像は自分でもあまり見ていないので新鮮でした。

オランウータン(0).jpg

いつもお見せするこの画像も、これは移動中の母親の写真なのですが、拡大して見ると
なんと口に葉っぱの切れ端を咥えているのです。
むしゃむしゃ食べながら移動している、ちょっとお行儀が悪い?一コマでした。
といってもこのように、今まで採食していたのに急に動き出すということはよくあること
なのです。

そうした母親の行動を子供は実によく見ているのです。
そして、この写真のようにしっかりと母親にしがみついて森の中を移動しながら、母親に
依存しきって成長していくのです。
お話し会でもオランウータンの母親がいかに時間をかけて愛情深く子供を育てていくのかに
感銘を受けたという感想を多くいただきました。
オランウータンの子育てを見ていると、本当に考えることが多いです。

前回は母親が枝わたりの際に子供に手を貸してあげる話を紹介しましたが、面白いことに
実はその逆の行動もあります。
途中で枝が折れてしまって枝を渡ってこられないお母さんをみて、先にわたってしまった
子供の方が、いつもお母さんがやってくれるのと同じように、今度は隣の枝を自分の手で
抑え、お母さんが隣から渡ってくるのを待っている。
この間、もちろん音声でのコミュニケーションはまったくありません。
この以心伝心のやりとりに私たちは感心してしまいます。
私たちはこうした母子の橋渡しを「ブリッジ行動」と言っています。

こうしたブリッジ行動は母子間で本当に何気なく行われ、あまりに短い間にさっと手を
貸すので見落としてしまったりすることも多々あるぐらいです。
以心伝心、他への思いやり、こういう言葉は、私たちヒトは知識として知っていますが、
オランウータンの世界では、それが言葉や知識でなく、行動の根底にあるのです。
人間の世界では自らの立場や利益のために、言葉ばかりが上滑りしていることがよくあります。

相手が何をしたいか見守ること、相手が出来るまで待ってあげること、このような心は、
何にも増して大切だと言うことを、野生のオランウータンは教えてくれています。
行動するには心が必要なわけです。
言葉でいくら伝え合おうとしても限界があります。
ヒトも言葉ではなく、相手の心と同じ気持ちに一度立ち戻って見る。
このことの意味は大きいと思います。
オランウータンの行動は人間社会からは切り捨てられがちなもの、「自然」の中から育まれる
心というものを見せつけるものでもあります。

親による子供の虐待の話が最近日本ではよく聞かれます。
実際に近年この数はどんどん増えていて、3歳児未満の虐待を受けた子供の数はなんと3万人を
こえるそうです。
虐待された子供のケアにかかわる方から先日ちょうどこの話を聞きました。
非常に深刻な現状だと思います。
2歳になるまでの間に虐待を受けた子供の心を元に戻すということは「不可能」と断言されて
いたのが、とても重く響きました。
胎児のときから2歳までの期間が子供のその後の成長にとって決定的な役割を果たすという
ことです。

日本には「三つ子の魂百まで」ということわざがあります。昔の人はよくわかっていた
のでしょう。
情操教育なんて言葉もありますが、感性を育てる、心を育てるどころか、いま、その心が
崩れていってしまっている。
これはもう頭でも、言葉でもなく、ヒトというものの荒びであり、そういう心が増えている
ということは社会全体のゆがみのあらわれだと思います。

「三つ子の魂百まで」というのは、3歳までの子育てが大切で、ちゃんとその間にしつけを
しなくてはいけないというような単純なことではないのです。
言葉ではなく、「魂」と表現されているものの大切さ。
ひとりの赤ん坊が言葉を主な手段としていく前までに、どれくらい情動的、感覚的に人や
モノとのかかわりが持てたか。
それがその後の生涯にわたって影響をもたらすということ。
少なくとも「しつけ」という言葉で片づけられるような、頭で考え教え込むこととは全く
違うものが大切なわけです。

オランウータンのお母さんは子供を抱きしめたり、特に関心を払ったりということは
ほとんどしませんが、子供は母親に全幅の信頼を置き、赤ん坊期を過ごします。
どの母親も子供にとっては絶対的な庇護者であり続けます。
愛情深いという言葉で置き換えるのは簡単ですが、それは自然のなかで育まれる母子の
関係性の何気ない繰り返しでしかありません。
この思惟のない、つくりごとのない姿こそが母子の原点なのではないでしょうか。

母親の存在の大切さ、大きさを知っているはずのヒトですが、オランウータンから母親を
奪い、森を奪い、孤児を生み出す環境をつくり続けています。
一方でその孤児たちに森での生き方を「教えてあげよう」とする私たちヒト。
こうしたつくりごとで固められた不自然な世界に疑問も持たず、美談だと感動してしまう
感性に、私たちヒトは「自然」から離れすぎているのかなあと感じます。

オランウータンの孤児を救うどころか、まずは3万人もの(この数は乳幼児の数だけで、
全体数はもっと多い)虐待された子供をうみださないように、ヒトの社会を、心を少し
でも変えていくことが重要かと思います。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
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1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
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第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~   

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
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第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
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第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~

オランウータンは一日のほとんどを森の中を移動しながら食べ物を求めて過ごします。
オランウータンは樹上生活者であるということをすでにご紹介しましたが、移動時も
地面に降りることは少なく、多くは枝から枝へと樹上を移動します。

見ていると、実に巧みにスイスイ移動していくのですが、本当のところ体重が軽い生き物
ではありませんから、枝から枝へ移動するといっても簡単なことではありません。
子供は母親から生きていく術を学ぶということを前回お話ししましたが、この「移動する」
ということも子供が母親から学ぶ重要なことの一つです。
リハビリのオランウータンの孤児に「木の登り方を(人が)教える」なんてことが言われて
いますが、野生のオランウータンの巧みな技術というか、移動の様子を見ていると、人が
教えるといっても「いったい何を?」と思わざるをえません。

枝から枝へ移動することを私たちは「枝わたり」といいますが、この枝わたりのスタイル、
技術にも実に様々なものがあります。
折れにくい木だとか、折れやすい木だとか、しなやかな木だとか、樹木にはそれぞれ特徴が
あります。
熱帯の森の樹種は多様ですが、そうした特徴をオランウータンは熟知し、またどの木が
どこにあり、自分はどのようなルートを行くか。
そうしたことがわかっているからこそ森の中を自由自在に動き回っているのだなあと思う
ことがよくあります。

細い枝を大きくゆすって、弾みを利用して隣に移動していく。よく折れないものだと感心
してみていたことがありましたが、後で樹に詳しいスタッフに聞くと、その木(枝)は
特別にたわみに強い、めったなことでは折れない木で、当然オランウータンはそのことを
知っていたのでしょう。
オランウータンの枝わたりを見ていると、大変大胆であるかのようでいて、実はとても
慎重で注意深いということがよくわかります。

子供を連れた母親は子供が小さいうちは自分の身体に子供を下げた状態で移動していきます
が、少し大きくなって子供が自分で動くようになってくると、子供の動きには全く無頓着で
あるかのように、突然子供を置いて移動を始めたりもします。
それまでゆっくりと一ヵ所に腰を下ろして採食していたのが何の前触れも、当然声も出す
ことなく突然動き出すのです。
子供は母親から少し離れて遊んでいたりするのですが、遅れて母親の後を追います。

こうしたとき、結構母親はマイペースであまり子供の様子を気にしているようには思えません。
でも母親は肝心なところではかならずさりげなく手を貸すのです。
たとえば枝と枝とが大きく離れているとき。
こうしたときオランウータンは自分の体重で枝をしならせ渡っていきますが、体重の少ない
子供には枝を大きくしならせることができません。
子供には無理そうだなというとき、母親はいつのまにかやってきて子供が無事渡り終える
まで自分の体重で木をしならせてあげるのです。

子供はまた、母親の移動のタイミングというものを熟知していて、時には母親が移動を
始めるとさっと近くに戻ってきて母親にしがみつく。
こうしてかなり体の大きくなった子供でも母親に「運んでもらっている」こともあります。
この母子間の阿吽の呼吸というか、無意識の意識の巧みさをみていると本当に感心します。
どうしてわかるのでしょうか。
私たち地上にいる観察者は、突然オランウータンが動き出すといつも大慌てです。

子育てをしている母親は注意深く子供の面倒を見ているのかといえば、そんなことはなく、
どちらかというと「自分が食べる」ことに集中しているように見えます。
オランウータンの授乳期間はとても長いのですが、とくに授乳中の母親にとって、自分が
十分に栄養を取ってお乳をよく出すということはもっとも重要なことなのです。
先ほど紹介した、突然子供を置いて移動を開始ということでもわかるように、母親の行動を
見ていると一見、子供には無頓着であるかのような行動が多々見受けられます。
それでいて、実は「よく見ている」というのがオランウータンです。

次回は枝わたりの続きでブリッジ行動について書きたいと思います。

(鈴木南水子)


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


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第15回 野生のオランウータンのくらし その1   

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第15回 野生のオランウータンのくらし その1

このところ鈴木先生が連続で書いてきましたが、今日は私がバトンを引き継いで書こう
と思います。
よろしくお願いします。

さて、「野生のオランウータンとはどのような生き物なのか」ということを私たちヒト
はまだまだ何も知らないということを前回オランウータンの孤児のリハビリの話で
ふれられていますので、今日はその辺から思いつくままですが、野生のオランウータン
ってこんな生き物なんだよという話をすこしづつしていきたいと思います。

実はにんげんクラブ主催で10月17日にお話し会を開催してくださることになっています。
こんなブログの読者の方がいらっしゃるのかわかりませんが、お目にかかれましたら
感激です。
声なきオランウータンの声を届けていきたいなと思っています。
こちらが当日のお知らせチラシですが、まずはここにも使った写真の説明から始めたい
と思います。

オランウータン(0).jpg

この写真は熱帯雨林の中に暮らすオランウータンの姿そのものを表現していて、まさに
森の人のイメージそのままだなあと私が昔から気に入っている一枚です。
最近はデジタル機器がいろいろと発達していますが、この写真はまだフィルムカメラの
時代に撮ったものです。

熱帯の森のなかは薄暗く、高温多湿、その上突然大雨が降ってくることも年中です。
オランウータンは普段は何十メートルもあるような高木の上で暮らしていますから
写真を撮るのも容易ではありません。
私たちは基本的には一日中、朝から夕方陽が落ちるまで、オランウータンを地上から
追跡することで観察を続けます。
オランウータンは自由に木から木へと移動していきますが、私たちヒトは、つるや藪を
かき分けながら地上を移動するわけですから、望遠レンズだ、三脚だと重い機材を
抱えていては、なかなか長時間の追跡は難しいものです。

この写真はその、木から木へ移動する途中の母子のオランウータンの一瞬を撮った
ものです。子供が母親の腹にしがみついているのがわかりますか。
森の中のオランウータンのメスのほとんどはこのように子供をつれています。
子供を連れていない独り者はオスか、若い子供だけです。
オランウータンの出産サイクルは野生下では6―7年ということが観察からわかって
きました。
母親は次の子供が生まれるまで一頭の子供だけを育て、次の子供が生まれると、
上の子供は母親から独り立ちしていきます。

オランウータンの子育てに関して、だいたいはこんな説明がされますが、観察を続けて
いくと実はもっと複雑で、かつ母親の個性、性格によっても子育ての様相がかなり違う
ということもわかってきました。
次の赤ん坊が生まれても、長い間母親と行動を共にし続ける子供がいたり、独り立ち
したかのように見えても、実は母親のそばで着かず離れずの生活をしていたり、
そうかと思えば、赤ん坊が生まれるころまでには完全に親離れする、させられる
子供もいます。

共通して言えることは、オランウータンの母親の子育ては大変丁寧で、時間をかけて
いるということ。
でも見ていて子供に敢えて「何かを教える」というようなことはほとんどありません。
彼らはコミュニケーション手段に音声をほとんど使っていません。
「無言」です。
冒頭「声なき声」といいましたが、オランウータンは文字通り、なき声というものを
ほとんど出さないのです。
長い時間をかけて、ともに生活していく中で子供は母親の行動を見て学ぶ。
生活の中から自然に学んでいきます。

どの母親も、自分の生活圏の「森」というものをよく知っています。
森といいましたが、森の中には一本一本の樹があり、草があり、単に動植物だけでは
なく、そこに暮らす他のオランウータンたちとの関係などすべてが含まれています。
私たち観察者から見ると他のオランウータンというのはほとんど姿が見えないほど、
オランウータン一頭一頭は距離感をもって生活しているのですが、「ときたま出会う」、
そのお互いのオランウータン関係こそが実は彼らの生活の上では非常に需要なわけです。
そうしたすべてを体得してこそ、彼らは独り立ちしていけるわけです。

このようなオランウータンという生き物にとって、リハビリで育てられた孤児、そして
見ず知らずの森に戻されるということが、いかに過酷なことかは想像に難くありません。
そして一頭一頭の孤児には実はみんな母親がいたわけです。
孤児の数を言うとき、それはそのまま野生から間引かれたオランウータンの母親の数、
間引かれたということはヒトに殺された野生のオランウータンの数を表しているのです。

(鈴木南水子)


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

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鈴木南水子(すずきなみこ)
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第14回 オランウータンいのちの学校   

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鈴木南水子さんお話し会『オランウータンに、いつまでも熱帯の森を。』
を開催します。

10月17日(土) 15時〜16時30分
お申し込みは、こちらから↓
https://www.ningenclub.jp/blog01/archives/2020/09/1017.html

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こんにちは、鈴木晃です。

先日(2020年9月13日)のNHKスペシャルで オランウータンいのちの学校 
という番組が放送されました。
孤児となったオランウータンを森に返そうという取り組みを紹介した番組です。
このような孤児を養育する活動をリハビリといいます。

オランウータンの保護というとリハビリがよく紹介されるので今日はこのことに
ついて書こうと思います。
オランウータンの生息地の多くの部分を占めるインドネシアでは保護の問題は、
親を失った孤児をいかにしてヒトが育てるかというリハビリ事業にその資金と
労力の多くが費やされてきました。

ではまず先日の番組のあらすじを番組HPから紹介します。
「森林破壊や密猟などで親を奪われた孤児たちを保護し、野生復帰に向けて育てる
学校がある。
人間が親代わりとなって、食べ物を手に入れる方法、危険から身を守る方法など、
野生で生きる術をひとつひとつ教えていく。
人間が奪ってしまった未来を人間の手で取り戻そうと、悪戦苦闘する人とオランウータン。
その成長を、森へかえる日まで見つめ続けた貴重な記録です。」

放送内では2年間取材を続けたとナレーションがありましたが、この夏にもかなりの
連続シリーズで、確か ジャングルスクール とかいう番組名でBSでも放送されて
いました。
昨晩の放送はおそらくこのダイジェスト版のようなものと思います。

こうして繰り返し放送されるのですから、視聴者の評判の良い番組だったのでは
ないでしょうか。
しかし、実はこのリハビリこそが野生のオランウータンの生存、保護という面からは
多くの問題を抱えている ということを今日は書きたいと思います。
とはいえ、この問題は私が野生オランウータンの研究と保護に取り組んできた当初
からの大きな問題でありながら、本質的にはいつになっても問題が問題として表面化
しない奥の深いことなので今日はそのさわりを書きます。

「何も知らないオランウータンの子供に、野生で生きる術を教えていこう」という
関係者の懸命な取り組み。
こうした姿を愛らしいオランウータンの孤児の映像と高度なカメラワークやプロの
ナレーション、最高の技術で伝えられると多くの方は、「感動した」という思いに
駆られるようです。
でも実は、この ヒトの感情に訴える という点において多くの支持を得続ける
ところにリハビリ事業の大きな問題点があるのです。

結論から言うと、リハビリでオランウータンが救える というのは、ある意味非常に
危険なヒトの思い込みです。
そういう個体もいるかもしれない。
でもオランウータンはそんなに単純な生き物ではないし、彼らの野生の生息地である
森自体も、そんなに安穏な状況にはないのです。

オランウータンにとって本当の意味で「野生が何か」「自然が何か」ということを
ヒトは知りません。
当然のことではないでしょうか。
そのヒトがオランウータンに生きていく術を教える。
そもそもこんなことを考えるという大前提がおかしいのですが、ヒトのひたむきな
姿にそんなおかしさに気づく人があまりでてこない、なんとなく教えれば学ぶように
思ってしまうのです。

私は野生のオランウータンの母子の姿をずっと見てきた研究者です。
その専門家から見ると ヒトがオランウータンの子供に教える という取り組みの
あまりの突飛さと滑稽さになんとコメントしていいのかわからなくなります。
まして「保護」と言って大きな資金が投入されているわけです。
私たちヒトは野生のオランウータンの何を知っているのでしょうか。

確かにエサをあげれば生き延びることはできます。
そして、今回のNスぺの美談のように見方によっては「野生に復帰できるように教えて
森に返す」こともできます。
でも実際はそんな表向きの美談だけでは済まされない、書ききれない諸々があるのです。
そうした問題点を、こうした番組の映像は覆い隠し、美談がもたらすインパクト、
感動だけが多くの人々の心に残るわけです。

もちろん当事者たちは私が指摘したような問題点を無視しているわけではなく、
いろいろ悪戦苦闘しています。
でも、正直こうした取り組みの数々は、問題の本質を解決することにつながらない
どころか、逆にリハビリの美談、賢明さのインパクトばかりが広がってしまう結果
となり、結果として孤児ばかりが増えていくことにつながっているのです。

ヒトは野生の、自然の何を知っているのか、こういうことを言うといろいろな
反論もあると思います。
しかし、私の研究の根底を流れる「自然を大きな自然全体として捉える」という
考え方、ものの見方からオランウータンという生き物を見たとき、
現在の「オランウータン保護」の取り組みは、あまりにもおかしなものだと思い
ますし、それを大々的に報道するマスコミの在り方にも大きな疑問を持つのです。

オランウータンの保護の過去と、現在と、未来を考えるとき、私はヒトとは何か
ということを常に自問自答するのです。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
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第13回 世界に知られたスノーモンキー   

みなさまいかがお過ごしですか。鈴木晃です。

暑さ慣れしているはずの私にも暑い夏なので、勝手にブログも夏休みにしてしまいました。

さて、今日のタイトルはSNOW MONKEY スノーモンキー。
前回に引き続き温泉ザルの話です。
このSNOW MONKEYという英語の呼び方、夏に聴くと何やら涼しげですが一般にニホンザル
全般を指す呼称です。
ニホンザルは世界最北限のサルといわれていますが、雪の中でも暮らしています。
こうした雪国に暮らすサルは世界でも珍しい存在で、SNOW MONKEYというと日本にいる
サルのことを指す言葉になっているわけです。

前回ご紹介した地獄谷の温泉に入るニホンザル、私が最初に見つけたといいますか、
私が見ていた1962年当時はサルが温泉に入るというこの行動は、偶然コザルが温泉に
落ちたことから始まった新しい習慣で、まだ広く群れに知られる前のことでした。
ですから温泉に入るサルもわずかでした。その後この習慣が群れ全体に広がり、
今では温泉ザルのイメージが SNOW MONKEY、スノーモンキーとして、とても有名に
なっているようです

とくにスノーモンキーは日本以上に世界的に有名で、多くの外国人観光客が地獄谷温泉を
訪れるといいます。
ここが正式に地獄谷野猿公苑となった1964年以降、私はアフリカ、インドネシアと海外
での調査が多忙になり、そんなに有名になってからの地獄谷温泉、そして後楽館にも
行ったことがなく、なんだか不思議な気がします。
後楽館の竹節春枝さんには当時本当にお世話になったものです。

さて、なぜこの温泉ザルが有名になったかというと実はアメリカの著名な写真誌LIFEの
表紙に、この温泉ザルの写真が取り上げられたのがきっかけだそうです。
このことも私はあまり知らなかったので、びっくりすると同時に当時のことがいろいろと
思い出されました。
実はこのLIFEの写真取材の際に、LIFEのカメラマンのコーレントミースター 
Co Rentmeesterを地獄谷温泉に案内したのも私でした。
温泉ザルの発見者ということもあり、私に連絡してきたのです。
この時のLIFEは1970年3月に発行されたのでもう50年も前の話です。

当時は私も若かったのですが、レントミースターも若く、彼はボート選手でオリンピックの
オランダ代表でしたが、その後転身して写真家になり名声を得、間もなくベトナム戦争を
撮ってと、そんな話をしながら後楽館に泊まった時のことを思い出します。
今でこそ、この時の写真がきっかけといいますが、当時は取材に協力してくれる人は誰も
いなくて、彼は何台ものカメラを自分一人で担ぎあげ、私も彼の大きなケースに入った
機材を持って、降りしきる雪の中を後楽館まで歩いたものです。

彼を案内した1970年にはすでにサルたちの中では温泉に入るという習慣が定着していました。
私が見た当初はコザルだけの楽しみだったのが、この時には雪の中で行列を作って山から
下りてくると、長老のメスザルが真っ先に露天風呂を目指して入っていきました。
寒い日は一日中でも暖かい露天風呂につかることを彼女たちはすでに覚えこんでいました。

LIFEの表紙を飾ったのは温泉ザルでしたが、取材自体は世界でも珍しい雪の中に暮らす
日本のサルを撮影したいというものでした。
ですから地獄谷の取材の前には下北半島も案内しました。
特集写真の中には吹雪の中、身を寄せ合うニホンザルの親子たちの何とも素晴らしい写真も
あるのですが、これは下北で撮影したものです。
先にも話しましたが、先進諸国でもサルが生息するのは日本だけで、欧米人にとっては
ニホンザルというのは珍しい存在です。
とくにサルは暖かい場所の生き物と思われていたので、雪の中に暮らす日本のサルは
SNOW MONKEYとして、非常に珍しい存在として知られるようになっていったわけです。

レントミースターはLIFEの専属カメラマンとはいえ、まだ動物写真の経験は少なく何を
撮影するかは案内の私に任されていました。
私もよい写真を撮ってもらいたいと、いろいろとよさそうな場面を彼に話すわけです。
すると、「ではその場面を撮りたい、案内してください。」といわれるので、私は彼が
これ、といった場面が撮れそうな場所の心当たりに連れていくのです。

レントミースターはその後も数多くの有名な写真を撮ったカメラマンですが、とにかく
撮影しだすと、その集中力と熱心さが際立っていました。
雪が降ろうが風が吹こうが、零下の凍りつくような中で一心不乱にシャッターを押していた
姿が忘れられません。赤ん坊を背負ったまま氷の川の上をジャンプする母ザル。
この躍動感あふれる姿を撮りたいと、これまた時間を忘れてシャッターを切っていました。

たくさんのサルが温泉に浸かっているところを撮りたいとか、とにかく雪の中のサル=
SNOW MONKEY スノーモンキーのイメージはこのときの彼の思いが生み出したものでも
あります。
温泉に長く浸かっているとサルの頭にだんだんと雪が積もるのですが、あまり積もりすぎても
いない、でも雪のかけらが適度に寒さを感じさせる、そんな威厳あるオスザルの温泉写真が
結局、表紙写真に選ばれたようです。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

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第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~   

こんにちは、鈴木晃です。

前回私の初めてのアフリカ行にふれましたが、私のサル学との出会いはこれに先立つこと2年、
1962年に始まります。
この年の4月に京都大学理学部に自然人類学講座が新設され、今西錦司先生が教授に
就任されます。
大学院に進学した私は、この出来たばかりの講座の第一期生となったわけです。
出来たばかりですから講座といっても学生もいなく、院生が私と西邨くんの2人だけ。
今西先生が正式に着任されたのも10月でした。

私は子供のころから、ウラナミシジミ(蝶)やコウモリなど生き物が広く動き回る習性と
自然界との仕組みに深い関心を持っていました。
ですから自然界全体のことを考えようという今西先生の自然への視点と、その理論に大変
感銘を受けたのです。

大学院に進みニホンザルを始めると、研究の進んだ幸島や高崎山などのいわゆる餌づけ群
だけではなく、他の地域の自然に生息する野生群の在り様を見たい、比較したいという
ことで、日本中を回りました。
下北半島に生息するニホンザル群は、世界でも最北限に生息する霊長類で「最北のサル」
といわれますが、この下北のニホンザルをはじめ福島、箱根、房総、志賀高原と野生の
ニホンザルの食性と遊動の関係をまとめたのが私のマスター論文でした。

「群れ」とは何かということが社会を考えるうえでの今西先生の大きなテーマでありましたが、
餌づけにたよらない、自然の中での遊動生活を観察することによって、そこに彼らの集団全体
としての何らかの論理を掴んでいこうというアプローチの方法は、その後の私の研究者としての
研究姿勢を決定づける大きなものでした。

さて、こうしてニホンザルの研究を始めて私は全国に広がるニホンザルの生息個所を回った
わけですが、その中でも思い出深いのが地獄谷温泉(志賀高原、長野)です。
温泉に入るサルとして今では世界的にも有名ですが、これを最初に見つけたのは実は私です。
見つけたというと語弊があるので、今日はそのことを書きます。
今ではサルたちは群れて温泉に入っていますが、当時サルは温泉など見向きもせず、山から
下りてきては秋になると地獄谷温泉よりもっと下流に広がるリンゴ畑に出てきて、そこの
リンゴを食べていたわけです。

当時私は、山を上った志賀高原一帯の野生のニホンザル群を調べていたわけですが、
お百姓さんの苦情にリンゴ畑の監視役をつとめることになったのです。
そもそもは畑に出てこないように餌づけできないかという相談だったのですが、リンゴが実る
秋のうちは食料が豊富で人がやるエサなどにサルは見向きもしません。
必然的に見張ることぐらいしかできないのですが、私が昼食などでちょっと目を離すと、
隠れていた一群が林の中から出てきて畑を荒らすわけです。

餌づけ自体は私が来る以前から長野電鉄の職員だった原さんが考案し、色々試みられて
いましたが、なかなか上手くいきませんでした。
そこで私も原さんと一緒にエサをやったわけです。
この年、冬になって食料がなくなり少しづつ餌づくようになると、これで畑荒らしも
なくなるとほっとしました。
エサは主に大豆やリンゴだったのですが、餌づくとともに群れ全体を上流の地獄谷温泉の
ほうに導こうと、だんだん群れを上流に誘導していくわけです。
当時は20数頭だったと思うのですが一群を温泉の湧き出る地獄谷までエサでつりながら
追っていきました。

地獄谷温泉というのは横湯川にそって下流から歩くこと2キロほど、後楽館という温泉宿が
一軒だけある秘湯です。
川べりに噴煙を上げるのが地獄谷の大噴湯ですが、この露天風呂に落ちたエサの大豆を
拾おうとして3歳のコザルが誤って縁から落ちたのが温泉ザルのはじまりです。
これを私が見ていたわけです。
とはいえ、その年は2、3歳の3頭のコドモが温泉に入っただけでした。
その後次第に温泉の中で泳いだり、遊び場として利用するようになり、翌年の冬には
5、6歳のコドモやその母親も入るようになったのです。
当時オスザルたちは雪降る中でも、この新手の風俗には見向きもせず寒風に身をさらし
続けていたのがおかしかったです。

温泉に入るというような新しく習得された行動が、群れ全体にその後どのように広まって
いくか。この場合はコドモからより年上のコドモへ、そしてメスへ。
最終的にはオスまで広まっていくのですが、こうした習得の過程を動物の「文化的行動」
といいます。
「サルにも文化、カルチャーがある」ということを世界に先駆けて発表したのは日本の
研究者たちでした。
1950年代の幸島のイモ洗い行動の観察などはその代表的なものですが、この温泉に入る
サルの話も「文化的行動」をあらわす象徴的なものだったわけです。


私は1964年からアフリカに渡ってしまったので、その後温泉に入るというこの新しい文化が
どのように群れの中全体に伝承されていったのかもう一つ詳しく記録しきれませんでした。
しかし、最初は地獄谷の温泉のわきの後楽館の小さな露天風呂にコドモが入っていただけ
だったのが、次に見たときには、とても大きな露天風呂が整備されていて、そこに大勢で
入るようになっていたのはとても興味深かったものです。

つづく


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
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第11回 社会を考える -日本の霊長類学―   

こんにちは。はじめまして、鈴木晃です。

私がはじめてアフリカの地を踏んだのは、
先の東京オリンピックが開催された1964年の
4月のことでした。
当時は高速道路の設置をはじめ建設、建設と
日本中がオリンピック景気に沸いていましたが、
オリンピックの開会式が行われた1964年10月10日は、
私は広大なタンザニアのサバンナ・ウッドランドで
チンパンジーを追って過ごしていました。

その後、アフリカのチンパンジーから
東南アジアのオランウータンへと研究の場を
移しながら私の研究は続けられています。
あれからすでに半世紀以上が経ち、
次の東京オリンピックの開催ということで、
またもや日本人はオリンピックに期待を
抱いているように見えますが、老朽化という
名のもとに壊された国立競技場の問題一つを
とっても、ヒトの社会の自然との在り方、
自然の中でのヒトの存在とは何かを考えさせ
られています。

私の師である今西錦司先生は日本の霊長類学の
創始者といわれますが、人間と人間社会の
起源の問題を類人猿研究から探ろうと
アフリカの地でのチンパンジーの研究を
構想しました。
それまでの欧米の動物学というのは動物の行動を
探ろうという動物行動学や動物生態学が主でした。
人間は特別なものであり、その特別な存在に
対しての動物であり、動物に対する知的好奇心の
探求、そうしたものが動物学の根底でありました
から、「個体」や「個」を考える視点自体が
研究者にはなかったわけです。

動物は、一匹一匹違う。
自然観察の中で個体に着目し、個体識別を
することでその個性までもを研究視野に
入れる。
物事の全体をとらえるにはどうしたらいいか。
先生のこうしたものの考え方は霊長類学だけに
とどまらないのですが、まずは動物の世界に
「社会」というものをとりいれて理解しようと
した、その点だけをとっても大変画期的なもの
だったわけです。
そういった意味で今西先生の構想した日本の
霊長類学というのはスタートの時点では大変
ユニークなものであり、欧米中心主義の学問の
指向の中に在っては考えられないものだった
のです。

こうした流れのなかで1967年に設立されたのが
京都大学霊長類研究所でした。
霊長研のなかには「社会研究部門」という部門が
設置されましたが、今西先生はこの部門が
一部門として設置されたことをとても喜んで
おられました。
私は以来、この社会部門に所属してチンパンジーや
オランウータンの研究をしてきたわけですが、
残念なことに当の研究者たち自身がこの日本の
お家芸でもあったはずの「社会構造」の研究への
本当の意味での理解が進まなかったと言わざるを
えません。

世界をリードする日本の霊長類研究などと
マスメディアでは取り上げられますが、
実際の現場では「社会」などの研究は言葉だけが
踊っているだけで、多くの研究者は相変わらず
「行動」のデータを積み重ねるばかりです。
「個性」や「文化」などの言葉もよく耳にしますが、
議論は表層的なことで、本当の意味での文化論も
沸かず、文化論を議論するデータに足るデータを
フィールドで積み重ねているような研究は一向に
進みません。
そもそも研究者自体がまったく育っていかないのです。

霊長類研究所も先ごろ創立50周年を迎えたと
聞きますが、国立競技場よろしく老朽化どころか
大変なことになっているようです。
私的流用はない、研究者も研究費がなくて大変
といった言葉で片づけてしまうのは簡単ですが、
これは何ら本質的問題をとらえていません。
今西先生のアイデンティフィケーション理論
という素晴らしい構想の下はじめられた日本の
霊長類学でしたが、その成果はと問われたとき、
マスメディアは大きな賛美を贈りますが、
私としてはまったく残念な現状と言わざるを得ません。

今、オランウータンの研究ひとつとっても
今西先生が最も重要としていた「自然観察」
自体が成り立たないようなフィールド環境に
なっています。
これはおそらくどの類人猿の研究フィールド
(現場)でもいえることではないでしょうか。
地球の環境はいま本当に危機的状態にあります。
こうした状況下で研究者は呑気に自分の研究
だけを考えていていいのでしょうか。
オランウータンをはじめ多くの類人猿が
もはや自然下、野生下の社会などというものが
ほとんど観察できない状態にあります。
にもかかわらず研究者自身がそのことを知らず
(知ろうとせず)、「野生」と思って観察し、
科学的手法と思い込んでデータを蓄積する。
各フィールド間で観察の競い合いよろしく、
あれも見たこれも見た。
こうした細部を寄せ集めても、もちろん彼らの
社会全体など見えようはずもありません。

「自然全体を見なければ何も見えない。」
自然全体をトータルにみることの重要性を
今西先生は自然学の提唱(1983)の中で
打ち出したわけですが、
その意味を今改めて考えます。


つづく

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


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(事務局)
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東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
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第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン   

エネルギーの話が続きましたので、今日から少し
オランウータンの話をしたいと思います。

まず、オランウータンは「霊長類」という仲間に
属します。
私たちが一般に「サル」と呼んでいる仲間のことを
「霊長類」と言います。
霊長類の中でもヒトのように「尻尾(しっぽ)」
がない仲間を類人猿といい、文字どおり
「ヒトの類縁のサル」というわけで、彼らは
進化の歴史の中で私たちヒトに
最も近い生き物です。
日本語ではあまり区別せずに漠然とサルと言ったり
しますが、類人猿は、英語ではエイプ(Ape)
と呼ばれ、尾のあるサル、モンキー(Monkey)
とは明確に区別されています。

その類人猿の中でもとくに、アフリカに暮らす
チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、そしてアジアに
暮らすオランウータンは大型類人猿と呼ばれます。
ヒトに最も近い仲間である大型類人猿ですから、
彼らを知ることは結局私たちヒトが何かという
ことを明らかにするために欠かせないことでも
あるのです。
霊長類学はヒトを知るための学問でもあるわけです。

そういうわけで父は、アフリカのチンパンジー、
そして研究の場を東南アジアのオランウータン
と移しながら、半世紀以上にわたってこれら
大型類人猿の野生の暮らしを見てきました。
以下、「夕陽を見つめるチンパンジー」という
本のあとがきから引用したいと思います。
父はさらっと書いていますが、この一文の、
とくに「高温多湿」という部分が後の私には
印象的でした。
何しろ熱帯雨林の中で暮らすことが父には少しも
苦になっていない、子供のころからずっと父は
喜び勇んでインドネシアに行っているように
私は感じていましたから。 


この間の大半の期間を、私は熱帯雨林の中で
過ごしてきた。
特に後半のオランウータンを観察した現地は、
その高温多湿の度合いにおいて、アフリカの
森の比ではなかった。
ヒトの寿命にせまる長寿を保つ大型類人猿の
社会を覗きみるためには、どうしても、
彼らの成長の過程と、その行く末を辿る
必要があり、長期にわたる継続的な研究が
不可欠なのは言うまでもない。
海外でのそのような研究活動を遂行していく上で、
日本の学術体制・社会の理解は、必ずしも
欧米の状態に比して、恵まれているとは
いえない。
 調査は主として、文部省の科学研究費の
海外の部で行われてきたのだが、単年度ごとの
審査である以上、長期の継続の保証はない。
 日本人研究者によるアフリカでの類人猿調査は、
当初、京都大学類人猿学術調査隊として、
今西錦司先生というたぐいまれなる指導者の
構想の下に取り組まれた。
著者の最初のアフリカ行であった1964年は、
先生の最後のアフリカ訪問の年であった。
 ~中略~
 オランウータンに対象を移してからは、
私は全く細々とした財源で調査を続けている。
アフリカでの研究には、毎年いくつもの研究費の
申請が通っているのに、東南アジアのこの分野
ではなかなか申請課題が通過しないという現状が
続いている。
「鈴木晃 丸善新書」


これはかなり前に書かれた本ですが、その後も、
今に至るまで研究フィールドを維持していくために
私たちは大変な努力を続けています。
今西先生が打ち立てた日本の霊長類学はフィールド
(現場)の観察を重視し、「個」ではなく「社会」を
みるというところに、当初はそのユニークな特徴が
あったわけです。
父は学術調査隊、京都大学霊長類研究所とその後も
ずっと類人猿の社会構造の研究に従事してきました。
昨今、5億円超しの研究費不正支出でニュースに
なっている京都大学霊長類研究所ですが、
父は創設時からの所属研究者であります。
フィールドという視点からすれば、そもそも、
「飼育用のおり」に5億円もの膨大な予算が
おりるということ自体が全くおかしな話であり、
問題です。
そういう構造の中で行われてきた日本の
霊長類研究自体の「かべ」をつくづくと感じます。

自然の中での観察が重要といっても、実際は
短期間に研究者が論文を何篇も書くことが
求められ、それが成果と評価される状況では
真の「フィールド研究」など、なかなか理解
されないわけです。
まして野生のオランウータンはヒト並みの
寿命を持つのではないかと考えられます。
父は1983年以来、ずっと彼らを追っていますが、
当時の若者(オランウータン)はいまもまだ
若いと笑います。
その寿命(誕生から死)さえもが自然の観察の中で
記録することは大変なことなのです。

フィールド研究という言葉は表面的に誰もが
語りますが、地道な、そして地味な研究への
理解は本当の意味ではまったく進みません。
先の研究費不正は5億とも20億とも言われ、
しかも大権威といわれる研究所のトップが
先導するというものです。
メディアでは世界をリードしてきた日本の
霊長類学という言葉がつかわれますが、
現場を見ているものとしては何とも言い難い
思いです。
どの時代も、成果の見えない
父のオランウータン研究はまったくおりの外、
そもそも研究開始当初からかべが
立ちはだかっていました。
本当は、おりを造るよりかべを壊さなくては
いけない状況なのです。

ということで次回からは父が書きます。

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


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鈴木晃(すずきあきら)
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京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


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第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと   

さて、今日も前回に引き続きエネルギーの話です。
今回のタイトル
「ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと」
というのは山田征さんの本のタイトルです。
実はこのにんげんクラブを紹介してくださったのも
征さんです。
詳しくはぜひ征さんの本(冊子)を読んでください。

「オランウータンを取り巻く問題は、決してどこかの
遠い国の、動物愛護の話ではないのです。私たち自身の
身近な問題としてとらえなくてはいけない話なのです。」
ということを私はいつも言っていますが、
何しろ話が上手というわけでもなく、
やっぱり遠い国の話?的で、
「オランウータン可愛いですよね」
といった感じで、なかなか苦戦しています。
そんな中で征さんは
「オランウータンの話は私たちの話なのですね。」
と問題の本質をすぐに理解してくださって、
みなさんにお知らせする機会を広げてくださって
いるのです。

このようなことをいきなり書いてもなんだか
わけがわからないかもしれませんが、たしかに
自然エネルギーの問題とオランウータンの問題は
共通する、まさに同じ問題だと私は感じます。
多くのみなさんが「自然エネルギー」というと
何かいいことのようなイメージを持たれている
のではないでしょうか。

ところで、まず、自然エネルギーというのは
どのようなものなのでしょうか。
一般に宣伝されている紹介をします。
自然エネルギーとは、再生可能エネルギー
ともいい、太陽光・風力・水力などを利用して
作り出されるエネルギーのことで、
原発や石炭などの化石燃料に替わる環境への
負荷の少ない安心安全のエネルギー。
まさに良いことづくしの未来のエネルギー
のようです。

ということで、
「ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと」
まあ、早いはなし、今紹介したようないいこと
づくしではなく、反対に大変悪いことだということ。 
再三このブログでも書いていますが、
「いい話」ほど「悪い話」はないのです。

どのような点が悪いかは詳しくは冊子を読んでいただく
として、私はまず、自然エネルギーというだけで、
だれもが大して考えずに
「クリーンでエコなエネルギー」
という印象を持ってしまうところに最大の悪さが
あると思います。
「本当にそれが必要か」という根本を考えずに、
言葉の表面だけで何かいいことをやっているような
気分になってしまう。

私たちの活動拠点「キャンプ・カカップ」には
もちろん電気はありません。
この話をするとかなり早い段階から多くのみなさんが、
「では太陽光パネルを設置したらどうですか?」
とおっしゃいます。
はじめは私たちもいい話だなあと思ったりもしました
(でもその資金もないので設置できませんでした)。
そう、みんなが大して考えずに、自然エネルギー
というと、いい話だなあと思ってしまう。

でも、実は恐ろしいことなのです。
日本では自然エネルギーの促進のため2014年に
法律が施行されました。
この法律によって今まで農地法で農業利用しか
認められてこなかった土地もエネルギーのために
使えるようになったそうです。
とっても簡単に理解すると、田畑を含めて
太陽光パネルがどこでも設置できるようになった
ということ。
その対象面積は約450万ヘクタール、日本の国土の
12.1パーセントだそうです。
って、どれくらいの広さ?ということで、この部分が
私が最も注目するところで、征さんの本ではちょうど
100ページのところから詳しく書かれていますので、
ぜひ読んでほしいのです。

なんと国土の12.1パーセントというのは、日本中の
田んぼと畑を全部合わせた面積だそうです。
さらには、これにプラス国有林、保安林、民有林の
すべてが法律的には風車や太陽光パネルの設置許可
の対象となっている。
電力のために、日本の山や、田畑がみんな奪われて
しまうことも法律的には可能だということです。
私も、これはまさに亡国の法だと思います。

私たちが大して気にしていないうちに、重要なことが
法律で決められている。
そして私たちはいい話、と信じて自然エネルギー、
太陽光と騒いで促進しようとしている。
こういう図式はとても恐ろしいことだと思いませんか。
太陽光パネルにしろ、ヒトの作ったものは永久では
ありません。必ずゴミになります。
「食の大切さ」などと言われますが、日本でも
輸入農作物は増え、荒廃農地、耕作放棄地が
増える一方です。
実は重大な問題が背後にはあるのに、あまり考えずに
「自然エネルギー」のいい話に、なんとなくみんな
騙されている。

未来の夢のエネルギーを何となく信じるのではなく、
まずは今あるものを大切に使いませんか。
そして、今の状況をきちんと考えてみませんか。
まず使い捨てはやめましょう。
感謝して、大切に、そしてなるべく使用を少なくする。
そのためにもっと考える。

私たち日本人が、石炭をはじめオランウータンの森の
エネルギー資源を長い間使ってきたということを
私は知っています。だからこそ発信したいのです。
石炭の使い捨て、自然資源の使い捨てはやめましょう。
エコエコ言っているだけでは太陽光パネルのゴミを
増やすだけです。

オランウータンの森の資源、その代償はとてつもなく
大きなものなのです。だからこそもっと大切に使いましょう。
そしてこれ以上さらなる代償を、自然に、国土に
課すことはなるべく控えたい、そう思うのです。
そのためにも、オランウータンの森の現状を知り、
考えることは大切なことなのです。

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com

第8回 エネルギーのはなし   

「一度開発されてしまった自然というのは、
開発の波を止めることが想像以上に難しい。」
前回、石炭と脱炭素の話でこのことを書きましたが、
今回もう少し続けます。


私たちは長年にわたってオランウータンの森の変遷と
石炭の露天掘りのすさまじい発展ぶりを
この目で見てきました。
世間では「環境」だ、「エコ」だと言われますが、
実際には石炭採掘という巨大なニーズの前には
「熱帯雨林」の価値などということは
ほとんど考慮されることもなく、
開発の陰であたりまえのように森は
消滅していっているのです。
このオランウータンの森は専門家からみても、
世界にふたつとはない貴重な熱帯雨林でもあるわけです。
このまま失われてしまうには、あまりにももったいない。
その価値を知るからなおさら何とかしたいし、
何とかしなくてはいけないと思うのです。


「事実を知ってほしい。そしてもっと真剣に考えてほしい。」
これがオランウータンの森の窮境を知る私たちが
訴えてきたことです。
石炭は地球上のいろいろなところにあり、
いろいろな国の人が使っていますが、
実はオランウータンの森の石炭の多くは
日本に運ばれてきていたのです。
でも日本人の多くはこのことを全く知りません。
都合の悪いことは自分のこととしては考えたくない、
まさにこの一言に尽きます。


結果として、日本人は、
「素晴らしいオランウータンの森を破壊してまで、
この地の石炭がエネルギー源として必要だった」
ことになります。本当なのでしょうか。
面と向かってこのように問われると、答えに窮する
かもしれませんが、事実として私たちはエネルギーのため、
少しの便利のために多くの素晴らしいものを失いながら
生活する道を選んでいるのです。
「本当にそれが必要ですか?」
私たちはこの問いをあえて皆さんに問い続けたいし、
その答えの意味をひとりひとりがもうすこし
考えてほしいと思うのです。
オランウータンの森の窮境は、無関心のうちに
「知らなかった」と済まされる話ではない、
エネルギーの話そのものなのです。


こと「エネルギー」という視点に立つと、
ヒトは足るを知るなどという言葉はすっかり忘れ、
「有ること」が絶対になってしまいます。
たとえ何を失おうとエネルギーがなければ困るではないか。
常にこの価値観で、前に前にと進み続けています。
原子力もそうですが一度大きな流れになると
誰もがエネルギーがなければ困るという、その一点で
どんなリスクがあろうと納得してしまうのです。


この恐ろしい事実をもっと真剣にとらえなくてはいけない
と思います。
当然先ほどの問い、
「素晴らしいオランウータンの森を破壊してまで、
石炭が必要か」
という問いに対しても、
いくら世間が「環境」だ「エコ」だといっても、結局は、
「エネルギーのためには必要だった」
という答えが大勢だからこそ、いまでも石炭が
掘り続けられているのです。
結果的に
「エネルギーはいつでも、どこでも必要なものだから、
何でも許されてしまう。」
これが本当のところではないでしょうか。
この苦い現実を知り、私たち自身が変わらなければ、
熱帯雨林はもちろん、世界中どこでも開発は進む一方です。


私たちは野生のオランウータンという視点から
エネルギーのことを話しているので「石炭」が
大きなキーワードですが、
実はどの資源エネルギーをとってみても
エネルギーの問題は同じ根っこを抱えていると思います。
ヒトにとってエネルギーは必要不可欠、絶対だという
価値観に守られた盲目的服従の行きつくところは
地球の資源を使いつくすことなのです。
なんと大変な話ではないですか。


地球の資源は決して無限ではないし、
ヒトだけが使うものでもないのです。
森林火災や開発で荒廃した熱帯の森の中でも、
限られた食べ物をうまく利用し、群れることもなく
お互いコミュニケーションをとりながら
子育てをするオランウータン。
彼らは30年間続いている露天掘りの大開発の
すぐ隣の森で、いまもひっそりと暮らしています。
こうした彼らの姿を見ていると、
それとはあまりにかけ離れてしまっている
ヒトの世の中のおかしさを強く感じずにはいられません。


ヒトの世の中では、緊急事態宣言の解除が正式に
決定されました。
何がどう解決されたのかというと、
何も解決していないように思います。
マスクはまだ届いていません。
言ってることも、やってることもまったくおかしく、
この緊急事態に「これでいいのか?」という事態が
続いていますが、国やマスコミの宣伝に惑わされずに、
実は何が進行しているのかということを
自分自身が考えなくてはいけないと、今あらためて思います。


「本当にそれが必要ですか?」

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com

第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り   

世界中で東南アジアの熱帯雨林にしか生息していないオランウータン。
赤道直下の熱帯雨林が棲みかというと、みなさんはどんなイメージを
お持ちになられますか?どこまでもうっそうとしたジャングルというと、
森が無限に続くかのように思ってしまいますが、実はこの熱帯雨林自体が
地球上でもごく限られた場所でしかないのです。


そもそも赤道直下って、多くが「海」の上。
陸地が広がっているのは南米のアマゾン川流域、アフリカ大陸、
そして東南アジアのスマトラ島とボルネオ島ぐらいしかないのです。
映像などでは「生き物の宝庫」なんて紹介され、全世界の生物種の
半数以上が熱帯雨林に生息しているとも言われるなど、地球の、
そして自然の豊かさを象徴する熱帯雨林。
まるで未踏の森が無尽蔵、無限に広がるかのように
思ってしまいますが、実はある意味限られた自然なのです。


さて、そんなオランウータンの棲みかですが、
いまや人類未踏の地どころか大変な開発にさらされています。
熱帯材の大量伐採、地下の資源エネルギーの開発、
パームヤシ(油ヤシ)のプランテーション等々、
熱帯雨林の開発は拡大の一途です。
とくに私たちの研究地はインドネシアが誇る良質な石炭の
産地として有名で、この石炭の露天掘りは1990年代から
本格化し、いまや世界屈指の炭田となっています。


OrangutanResidence.jpg


でも、そうはいっても日本からは遠いし、
ちょっと関係ないよね・・・
と思っていませんか。
日本でこの話をしても長い間 
「えっ石炭?もう日本では使ってないでしょ。」 
とおっしゃる方ばかりでした。
石炭というと、黒い煙がもくもくというイメージで、
日本人にとっては一時代前のことと思い込まれているようです。
原発の事故もあり、日本の方も最近は、日本人が
石炭火力を主力電力源としてずっと使ってきた、
いまも使い続けているということをようやく少し実感
しはじめたかなという程度。石炭のおかげ、
石炭の恩恵などということを考えている人は
ほとんどいないのではないでしょうか。


ところが実際はこのオランウータンの森からの石炭の多くは
日本に来ているのです。必ずしも電力供給のためだけではなく、
品質の良い石炭は製鉄原料としても日本の基幹産業を
支えるためにはなくてはならないものだったのです。
でも、ほとんどの日本人はそんなことは全く知りませんし、
考えてもみない、考えたくないのです。
こうして30年近く、オランウータンの森の石炭は使っている人に
ありがたいと感謝されることもなく掘り続けられ、日本に
運ばれてきていたのです。
けっして、どこか遠くの、日本人には関係のない話では
なかったのです。実はオランウータンの森の窮境には
私たちは大きな責任があったのです。


私たちの研究は文字通り
「石炭の露天掘りの隣でくらす野生のオランウータン」と
ともに歩んできたものであり、その生息地を何とか守ろうと
大変な苦労を重ねてきました。いや、正確にはオランウータンは
露天掘りの隣で暮らしているわけではなく、まさに石炭の上に
暮らしている生き物なのです。
こういう話をするとみなさん、私たちは石炭の開発をやめさせたいと
考えていると思うようです。
でも、エネルギー資源の話は、「石炭」イコール「悪」
で済むような単純な話ではないのです。


ずっと「エコ」が叫ばれ、何かというと
「環境、環境」といわれるようになりました。
「脱炭素社会」も、よく耳にする言葉です。
でも私はこういう「いい」言葉に騙されてはいけない、
現実から逃げてはいけない
ということを強く訴えたいのです。


「脱炭素」ということで日本企業が手を引くというような
ニュースが流れると「よかったですね」と言われます。
でも実際は、そんなことではなにもよくはならないのです。
よくなるだろうとみなさんが思うだけで、
一度まわりはじめた開発の波を止めることは
想像以上に難しいことなのです。


まずはもっと事実を知り、それでも必要なものとは
何なのかということを
ひとりひとりが真剣に考えなくてはいけない。
そういう社会にならなければ当然ながらヒトにとって
資源は永遠に必要なもの、あればあるだけいいものなのです。
石炭がだめなら次は・・・という話では問題は解決しません。


オランウータンの森の窮境は、私たちの「便利」な生活を
支えるためにもたらされたものです。
でも、そのありがたみも感じないままに、
感謝することもなく「知らなかった」で
済ませてしまっているヒト。このように書くとヒトは
大変悪いことをしているようで、
なんだか居心地悪いですよね。でもホントのことなんです。


この苦い事実をあまり真剣に考えたくない。
「石炭」を使って「電気」を作っているなんてことは
なるべく考えないで、もっと「エコ」なエネルギーである
「自然エネルギー」なんてどう?「脱炭素」しようよ。
というような、作られた「居心地のいい話」ばかりが進んでしまう。
でも、ちょっと言い方が悪いかもしれませんが、
『これだけ利用しておいて不都合なことは
過去のことにして忘れよう』ではもっと悪いと思いませんか。
こんな無責任なことになったら、本当にヒトって
どうしようもない生き物になってしまいます。


もっともインドネシアにおいては脱炭素なんてことはなく、
石炭採掘は相変わらず続けられています。
たとえ今さら脱炭素と言っても、正直、現状のこの窮境は
何も解決されないでしょう。
一般の方たちの関心がそらされるだけで、
ますます事態が悪くなる可能性が大きいのです。
これはオランウータンの森の話だけではありません。
「自然を開発」するということの恐ろしさです。


2020年5月10日の時事通信のニュースで興味深いものがありました。
「アマゾン森林破壊が加速、1月ー4月は前年同期比55%増」
というものです。
世界の関心がコロナウィルスに集まり、
各国各地で人の出入りが制限されていますが、
実はかえってこうしたときにこそ現場では開発勢力が
急速に力を増すのではないか。
これは私たちがいま最も心配していることでもあります。
森のなかで木を切っている人には「三密」なんて関係のない話ですからね。
一度まわりはじめた開発の波を止めることは想像以上に難しいことなのです。


(次回へつづく)


オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
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第6回 インドネシアとオランウータンと日本人   

動物園でも人気者のオランウータン。何かと話題に取り上げられる
機会も多いので、みなさんもけっこうその姿をご存知の生き物では
ないでしょうか。でも、「じゃあ、どんな動物?」といわれると、
「ほとんど知らない」というのが正直なところ。

map_bolneo.png


まず、オランウータンって、どこにいるの?

実はこのオランウータン、世界中で東南アジアのボルネオ島と
スマトラ島の2つの島の熱帯雨林にしか生息していません。
しかも、その熱帯雨林の中でも、ごく限られた地域の森林だけに
生息する生き物です。
ですから数が非常に限られてしまっているのです。


ボルネオ島というのは世界で3番目に大きな島ですが、その7割は
一般にカリマンタン島と呼ばれるインドネシア領で、北側に
マレーシア領があります。ここにもオランウータンが生息している
ので、オランウータンが生息している国としては、インドネシアと
マレーシアの2カ国と表現されますが、実際はオランウータンの
全生息数の8割はインドネシアの熱帯雨林に暮らしていると考えられます。


さて、このインドネシアですが人口は2億7000万人、その9割を
イスラム教徒が占める、世界で最もイスラム教徒の多い国でも
あります。イスラム教の国では今月4月24日から断食月(ラマダン)が
始まっています。約ひと月のあいだ、日中、陽が出ている間は飲食を
しないという断食月ですが、実は「断食」のイメージとは異なり、
一方で日没後はこの期間、人々が集まって盛大に食卓を囲む習わし
があります。ですから断食月の一か月は人々のより親密な
コミュニケーションの機会でもあるわけです。


また、このラマダン明けを祝う大祭をレバランといいますが、
レバラン明けの前後一週間はレバランを祝い故郷に帰省する
慣習があります。この時は文字通り、大移動のときです。
日本のゴールデンウィークと盆暮れが一緒にやってきたような
感じです。


さて、今年はそんな時期にコロナウィルスの猛威が相変わらず
ですから、今現在インドネシアは大変なことになっています。
つい先日、インドネシア政府はコロナウィルスの感染拡大を
防ぐためにインドネシア国内主要都市から発着する航空機の
国内線、国際線全便の運行禁止を発表。びっくりです。


ご存知のようにインドネシアは邦人企業の進出も多く、
インドネシアに滞在する日本人も沢山です。
当然、この一大祝祭月間は従業員を一時帰国させる日本企業も
多いのに、突然の全便禁止令。日本政府からの要請もあり、
どうやら国際便の禁止は撤回して飛ばすことになったらしい
ですが、今後どうなるやらの事態が続いています。


さらには先ほどお話したように、人が集まるレバラン期に
ビジネスの中止を求められている旅行業界や飲食業界等々の
ダメージは大変なものだと思います。いろいろな制限も最初は
首都ジャカルタだけでしたが、その後拡大して、あちらこちらの
地域で大規模制限が実施されているようです。


日本もゴールデンウィーク明けに向けて先が見えない状態が
続いていますが、インドネシアも騒ぎはまだこれから。
とにかくレバラン明けの6月まではなんとか人の動きをすべてを
止めようと動き出したところという感じですので、終息の兆しは
全く見えません。それ以上に、おそらくは終息後は経済的にも
大混乱になりますので、オランウータンどころではないでしょう。


オランウータンの生息数の多くを抱えているインドネシア。
しかし、これまででも何かというと、
「インドネシアは自然と生き物の宝庫で、コモドもいるし、
サイもいるし、トラもいるし・・・オランウータンまで手が回らない」
というようなことを言ってきましたが、ますますでしょう。


インドネシアは邦人企業の進出が非常に多く、ジャカルタで
暮らしたことのある日本人も多い、日本にとっては関係の深い国です。
しかしこうした方たちも、大都会ジャカルタのあるジャワ島と、
オランウータンのくらすスマトラ島やボルネオ島は距離的にも
離れているので、「オランウータン??熱帯雨林?」という感じで、
ほとんどそれ以上の関心を向けることはなく帰国されるのではないで
しょうか。


でも実は、こうした企業活動とオランウータンの森の危機というのは
深い関係があり、インドネシアだけの問題ではないのです。
にんげんクラブの3月号会報誌にも少し紹介していただきましたが、
次回はその辺を書きたいと思います。

こんな今だからこそ、いろいろな面から地球の今を考え、
私たちヒトの将来を考え直していくことも大切なのではないでしょうか。
そんな想いで「オランウータンの森」からお伝えしていこうと思います。

(次回へつづく)


オランウータン(0).jpg


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鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
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1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

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生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


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第5回 緊急事態宣言   

 4月7日にとうとう日本も7都府県を対象に緊急事態宣言が
出されました。ウィルスの封じ込めというにはすでに遅きに
失した感がありますし、結局、行動はそれぞれ個人任せなの
ですから危機感の持ちようでその対応にはかなりの個人差があり、
はたして本当にどこまで効果があるのか疑問です。
このままいつまで続くのか、休業補償といっても一体どこまで
補償できるのか。


 こんな危機的事態は、日本に限らずインドネシアも同様です。
こちらも当初は「我が国に感染者はいない」と言っていたのが、
あれよ、あれよと増えていき、4月13日現在では、死者数だけでも
399名。ASEAN東南アジア諸国連合加盟国中でもっとも多くなって
います。


 4月2日からは日本人を含むすべての外国人のインドネシアへの
入国およびインドネシアでの航空機の乗り継ぎも禁止。
首都ジャカルタでは10日からは日本の緊急事態宣言に準じた
「大規模社会制限」という措置を実施。オフィスに出勤しての
仕事もできなくなるようです。これにともない13日からは
トヨタ自動車もインドネシアにある組み立て工場の稼働を停止
することになるとか。


 解雇や無給での自宅待機労働者はすでに13万人を超えている
そうで、おそらくこの数はますます増加していきます。
日本以上に生活そのものが成り立たない人が大量に発生しています。
すでに2月から市民レベルでは様々な経済活動へ制約が出ており、
それがすでに3か月目になるのですから本当に心配です。


 イスラム国家では4月の後半から断食月(レバラン)が始まり、
通常ではこの断食月の前にボーナスが支給されます。
そうしたことも今年はどうなっていくのか。こうした事態になれば
なるほど、弱い者ほど困るし、救いがない。〇〇補償なんて、
全くないですから。


 私たちの活動も大変な危機にあります。鈴木先生はよく言います。
「オランウータンはヒトが余計なことをしなくても、
住む森さえあれば自分たちで生き抜いていく力を持っている」と。
たしかに、ヒトの経済活動が制限されることは
自然の中で生きているオランウータンにはプラスに働くかもしれない。
でも自然から離れてしまった私たちヒトは、経済活動を制限されて
しまったらどこまで生き抜いていけるのか。


 私たちのように寄付をいただきながら活動を続ける者たちは、
社会に余裕がなくなったときには真っ先に影響を受けます。
収入は見込めないし、給付も補償もまったくない。
とくに「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」なんていう活動は、
いくら「それが本当はヒトのためにも大切なのです」といっても、
日々の暮らしが大変なのに、オランウータン???と
思ってしまうのは当然のことです。

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写真:現地スタッフとその家族たち


 私たちの現地スタッフたちも活動ができなければ当然、
無給の自宅待機です。彼らは現地の村人ですが、研究を始めた
当初から私たちが現地に行けないときは、海で魚を釣り、
畑で作物を作りながら私たちの活動を支えてきてくれました。
彼らにとっては無給の自宅待機はある意味通常のことなのですが、
今回はいったいどうなることやら。


 研究当初、現地は正業自体が畑仕事しかないようなところでした。
しかし周辺はこの30年の間に開発景気に沸き、次々と労働人口が
流入し、様々な賃金労働者があふれる大きな町になってしまいました。
コロナといえどこの時代の流れを止めることはないでしょう。
ヒトの中ではもはや自然とともに歩むという価値観ではなく、
経済という別の価値観が席巻する中、収入的には不安定でも
森ともに歩む道を共に歩んできた現地のスタッフたち。
彼らの生活を支え、このようなヒトが残っていくことは、
今後も森を守っていくうえで大切なことなのですが、
そんなことを考える余裕が社会からなくなってしまうのではないか。
そんなことになったらさらに緊急事態だなあと思います。

                     (次回へつづく)


オランウータン(0).jpg


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1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
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取り組む。


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第4回 外出自粛で考えること   

桜の花も満開でいよいよ春本番ですが、世界はコロナウィルスで
大変なことになってしまっています。ヒトにとって怖いものはない
とばかりに、地球上を凌駕しているような人類ですがこうなって
みると改めてヒトの力の限界を感じます。


コロナウィルス対策としては、各国の大都市が封鎖するしかない状態
になっていますが、このことは現在のグローバル化の動きの中で、
とても皮肉なことです。いま私たちができることは「出歩かないこと」。
方策として「外出自粛」とはなんとも基本的。ついこの間までは、
どこもかしこも「観光、観光」で大騒ぎをしていたのに、
一気にそのツケがまわってきた感じです。


ヒトは原始の時代から、遠くへ、未知の世界へと出ていくことで
未来を切り開いてきた種といえます。今や地球上でヒトがいない
場所はなく、果ては月まで行こうという有様。東京はもちろん、
観光客も世界中に散らばっています。そんな時代だからこそ、
ここまで短期間に世界中にウィルスが広がってしまったのでしょう。


さて、その「観光、観光」騒ぎやウィルスのことですが、
実はオランウータンとも深い関係がある話なので、
今日はこのことを書きたいと思います。


ヒトにとって、未知のものを見たいという欲求はとても強いものらしく、
希少動物を現地まで見に行こうという人がたくさんいます。
こうした人たちを相手にした「エコツーリズム」は、
なんだか良いもののように受けとめられるのでしょうか、
あちらこちらで自然を相手にした旅行がブームとなっています。


旅行をすることで、自然や環境のことを知り、同時にそれが地域の
経済を支え、人を育てて保全のために役立っていく。
確かに言葉の上ではとても理想的で、こうしたことが実際に良い効果を
発揮している例もあるとは思います。
しかし、現実はそう簡単ではない、見えない問題をたくさん抱えている
場合も多いのです。


オランウータンはヒトに最も近い生き物、類人猿ですが、
この類人猿を見ようというツアーは大変人気があります。
とくにアフリカのゴリラやチンパンジーを見に行くというツアーは、
アフリカの大自然の観光ということで世界中からのニーズが
あるのでしょう。ルワンダのゴリラツーリズムなどは国をあげての
一大事業として発展しているそうです。


こうした成功例に続けと、様々なところで「エコツーリズム」の話が
でるわけですが、とくにこの「ヒトに最も近い生き物」に
人が近づくということは、実は大きな危険性があるのです。
ヒトに近いということはインフルエンザや肺炎といったヒトの病気も
容易に伝染するということです。未知の病原菌の伝播という意味では
その反対もありえます。当然こうした指摘に対しては、様々なルールや、
制限を設けて対処していると説明はするでしょう。
でもどうでしょう?

こうした説明がほとんど説明でしかないことを私たち現場は
よく知っています。そして非常に心配しているのです。
ヒトが野生に近づくことは保護の上では決して良いことではないのです。
マスクをすればうつらないのでしょうか?実際にチンパンジーなどが
感染症で死亡した例もあるのですが、そうしたことの因果関係を追求し、
問題化するのは非常に大変なことで、相変わらず観光は盛況です。


私たちのオランウータンの研究地は赤道直下、インドネシアの
熱帯雨林にあります。研究をはじめた当初は、道もなく、
川をボートでさかのぼること何時間という場所でした。
しかし、こうした場所も時代とともに、「新首都」になろうとしている現代。
オランウータンを見てみようかという人の動きを止めることは
非常に難しいことです。


自然や野生動物との垣根がなくなり、「観光、観光」のノリで、
望めば手軽に気楽に世界中をヒトが歩きまわれる時代。
でも、ちょっと待ってください。オランウータンは熱帯雨林の中で
ひっそりと暮らしてきた生き物です。彼らには彼らの暮らしがあり、
ヒトはむやみに近づくべきではないのです。彼らをずっと研究してきた
私たちが言うのでは矛盾するように感じるかもしれませんが、
私はほかの生き物に対してもこのように考えています。
ヒトは遠くからそっと見ているだけ、と思っているかもしれません。
でも実はそれが・・・ということもありえるのです。


ヒトはすべてを知っているわけではない。
未知のウィルスと闘っている今、改めてそう思います。
「外出自粛」でわかるように、ヒトが動くということはすごいことなのです。
歴史上も数々の病と闘ってきたヒトですから、これからもなんとか
困難を克服していくと信じています。しかし、やはりこれを機会に
物事の一面だけではなく、例えば「観光」ひとつとっても
グローバル化の今こそ、さまざまな面から深慮していく必要があると思います。
どうか事態が改善していきますように。


                     (次回へつづく)


オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com

第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?   

インドネシアの新首都がkaltimに決定というニュースが昨年夏、
飛び込んできました。このニュースは日本でもその後いろいろ
報道されているようなので、ご存じの方もいらっしゃることで
しょう。日本のマスコミの関心も一気に跳ね上がり、どうして
日本人はそんなことに関心があるの?と逆にインドネシア人から
不思議がられています。

人口が集中する首都ジャカルタからどこかほかの場所へ首都を
移すという話は、インドネシアの人にとっては、大統領が変わる
たびにこれまでも何度も出てきた話で、正直なところ現実を
帯びた話として取り合う人はほとんどいない状態。
「ジョコ(大統領)は、いままで何もできなかったので、
最後にこれまでだれもやれなかったこと(首都移転)をやろうと
いっているにすぎない」とけっこうジャカルタ人は辛口です。

ちなみにkaltimなんて場所、発表当時はインドネシアでも
どこかわかるひとはほとんどいませんでした。
そもそもカルティムというのは、
カリマンタン・ティムール(東カリマンタン)という意味で、
固有の場所を指す地名ではないのです。

新首都予定地は石油の町バリックパパンから州都サマリンダへ
行く一本道の途中、何もない森の中です。予定地の北側、赤道を
はさんで数百キロのところが私たちのオランウータン調査地です。
バリックパパンからは尾根沿いに道がつけられているのですが、
アップダウンが激しく、左右に蛇行するうえに舗装状態も
見通しも悪い道でしたが、これが唯一のサマリンダへの
幹線道路でした。私たちが調査に入るときにもいつもここを
車で通ります。

しかし、この道路は首都誘致合戦の結果、新規格の大規模な
高速道路建設が行われ付近は今や昔の面影は全くありません。
空から見ると熱帯雨林はどこもかしこもすでに道だらけで、
いったいどこに熱帯雨林などというものがあるのだろうという
状態です。


一方で、新首都建設に関しては「環境にやさしい」「自然と調和した」
「エコな」都市の建設がうたわれています。
でもこうしたキャッチコピーは、まさにキャッチコピーでしか
ありません。実際の現場で、こうした美辞麗句がどこまで
「真」のものとなっているのか。
世界が「エコ、エコ」という割に、熱帯の森の減少はますます
加速しているように思います。


昨今のコロナウィルス騒ぎでも注目されている東京オリンピック。
こちらも何かと「環境」をうたっています。新国立競技場は
「自然にやさしい」、「木と緑のスタジアム」だそうで、国産材を
豊富に使い、自然の光や風を取り入れたエコな云々の宣伝で溢れて
います。こうした宣伝を、「なんだかとてもいい話」と感じた方、
どうぞうわべに騙されないでください。

日本の林業の再生をうたった国産材の使用は目に見える屋根や
ひさし部分だけで、肝心の基礎工事に使われる型枠用合板
(コンクリートパネル=コンパネ)には熱帯材が大量に使い捨てに
されています。そしてこうした熱帯材の合板の供給のために、
マレーシアやインドネシアの森からは今日も合法、違法に木材を
調達しようとするビジネスの動きが絶えないのです。

日本は世界最大の熱帯材合板の輸入国だそうです。
今回のオリンピックは「持続可能な大会」の開催を掲げ、
国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)への貢献も
約束していますが、関連施設の建設ひとつをとっても、
うわべはともかく実は全然「持続可能な」大会とは
なっていないのです。

こんな話を聞くと、一見「いい話」につくられた話ほど
「わるい話」はないなあと思います。一般のインドネシア人の
多くがその実現性を疑っているような新首都建設の話ですが、
動き出した開発の波はすでに現地では大波となって地域の森林を
覆いつくそうとしています。あちらこちらで合法、違法の
森林伐採が進む現状を見ると、「持続可能な開発」などという
美辞麗句がむなしいばかりです。

                     (次回へつづく)


オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
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第2回 野生オランウータンの研究   

鈴木先生がクタイの森(インドネシア)で野生オランウータンの
研究を開始してから、すでに30有余年が経ちます。今日はこの間を
簡単に振り返ってみたいと思います。

image1.jpeg
写真:研究開始当時の初期のスタッフと

鈴木先生がはじめてクタイの地に入ったのは1983年、熱帯地域初と
いわれる大規模な森林火災がこの地を襲った直後のことでした。
当時は、現在のキャンプ・カカップより上流のシナラ山にキャンプを
設営しました。キャンプといってもブルーシート張りのテント暮らし。
近くには道路などはなく、一番近くの村に下りるだけでも川をボートで
下って何時間もかかるため、食料も川で魚を釣りながらの自足の生活
でした。


こうした中で森林火災後の森の再生の様子を見ながらの、調査が
つづけられました。特に1983年10月に行ったクタイ内陸部の調査、
1985年のセンガタ川上流部における森林火災の影響調査と
オランウータンの現状調査は初期の調査として貴重なものでした。
当時のメンバーが全員参加し、全部で12ある滝を上っての大調査
でした。現地は地図もないところなので、森の中を観察路を切りながら、
地図を作りながらの調査です。


こうして自分の足で調査をしながら森の中に張り巡らせた観察路は
全長数100キロを越します。一帯の森は1985年に国立公園に指定
されることになりますが、同時に現在キャンプ・カカップがある場所に
常駐していた自然保護局の役人は町の役所に撤退し、皮肉なことに
この地域は監視人がいない状態になってしまいます。


すでに対岸では石炭開発の大計画が動き出しており、森を守るために
苦肉の策として、村人たちが常駐できる拠点を自前で設けること
にしたのです。


image3.jpeg
写真:建設中のキャンプ・カカップ


image2.jpeg
写真:高床式の基礎部はスタッフたちが地下杭を打ち込んで作った


こうして誕生したのがキャンプ・カカップです。資金がない中
やりくりし、1994年10月にはついに建物の外郭が完成。10年間
続いたブルーシートでの調査に別れを告げました。村人たちの手で
建てられた新しいキャンプを中心に森林パトロール、
オランウータンの調査が始まります。


1998年の2度目の大規模な森林火災に際してはクタイ国立公園の
大部分に火が入った中、連日の懸命な消火作業でキャンプの周りの
森だけはどうにか延焼から守りました。川の水をキャンプの
屋根に運び上げ、村人たちが総出で火の粉を払ったといいます。


image4.jpeg image5.jpeg


この写真は石炭景気で急速に発展したセンガタの町なみです。
ここは10数年前は何もない荒野でした。開発景気は急激な人口の
増加を生み、到る所で盗伐が横行しました。キャンプの近くの
森の木も伐採用の×印が付けられました。地元センガタの警察は
すでにお金が回っていて動かないので遠方の警察に訴え、盗伐者
18人を逮捕、チエーンソー38台を没収してもらったことも
ありました。こうした数々の努力の積み重ねで、キャンプ周辺の
森では多くのオランウータンが子育てを続けています。


この森に愛着を持ち、オランウータンを見守っていこうという
村人たちがいる限り、クタイの森はオランウータンの森として
健在であると私たちは頑張っていますが、昨年夏にはインドネシア
政府がこのクタイの森のある、東カリマンタン州への新首都移転を
表明しました。キャンプを取り巻く厳しい状況は相変わらずです。
環境に配慮したとか、自然に優しいとか言うことは簡単で魅力的
ですが、現場はなかなかそのような理想では動いていないものです。
次回は開発の期待に沸く現地からその辺を書きたいと思います。


オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
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第1回 森の人 オランウータン   

はじめまして。こんにちは。

今日からこのブログにオランウータンの話を
連載させていただくことになりました。

読者のみなさんには、えっ??何?
オランウータンって?という方もたくさん

いらっしゃるかもしれませんが、

オランウータンという生き物の姿を通じて、
オランウータンのことだけではなく、

ヒトのこと、私たちの暮らしのこと、
地球のこと、日々感じることをお伝えできたらと思っています。
よろしくお願いします。

オランウータンは東南アジアの熱帯雨林に生息する
赤毛の大型霊長類で、
ヒトの進化の過程では一番私たちヒトに近い
生き物と考えられる類人猿の一種です。

大型霊長類というのはオランウータンのほかに
チンパンジー、ゴリラ、ボノボがいますが、
アフリカに暮らすこれら3種と違って、
オランウータンだけがアジアに暮らす生き物です。

今年3月号の「にんげんクラブ」会報誌に
「オランウータンに、いつまでも熱帯の森を。」
というインタビュー記事を載せていただきましたが、

私たちはこのオランウータンの生態の研究を
インドネシアの森の中で続けてきました。

野生のオランウータンの観察を続けて
40年近くになりますから、
まあ、オランウータンのことを
一番よく知っているヒトだと思います。

さて、オランウータンの研究というと
「ああ、動物の研究ね。」と思うかもしれませんが、

実はね・・・という、
もっと深い部分、「ヒト=にんげんのおはなし」なんですということを、
ぜひみなさんにも知ってほしいとインタビューでお話しましたら、
こんな素敵な機会をいただきました。

オランウータンのことを一番よく知っていると今書きましたが、
実はこの「知っている」という言葉、
オランウータンを見れば見るほど、
実はヒトって、何にも知らないんだなと思ってもいます。

いま、ネットでちょっと検索するだけでも、
オランウータンという生き物の概説、知識は
それなりに溢れています。

でも知識、情報って何なんだろう?
こんなことを言うのは変かもしれませんが、
オランウータンのことをヒトは知らない、
ということを私たちは一番よく知っているヒトだと思います。

無知の怖さは知らない人には
その意味さえもわからない。

情報社会といわれる現代ですが、
オランウータンが伝えてくれることは
「ヒトはほとんど知らない」ということ。

文字や言語はヒトの最も人たる所以ですが、
それらが伝える情報、知識の表面的な部分だけに
とらわれていては、
ヒトは何も見えていないのに等しいのではないのでしょうか。
そんなことを徒然考えつつ、では今日の本題。

オランウータン ORANGUTANという言葉は、
「ORNGオラン=人」と「HUTANフタン=森」
ということばをあわせたもので、
現地の言葉では文字通り「森の人」という意味を持っています。

人が近づかないような熱帯雨林の奥深くに棲み、
その生態はほとんど知られていませんでした。

それにしても、「森の人」とはよく言ったなと思うほど、
野生のオランウータンは「賢い」生き物です。
その賢さは、なかなかひとことでは説明のできない賢さです。

彼らを「森の人」と呼び、
長いあいだオランウータンとともに
熱帯の森の中で暮らしてきた私たちの先人。

彼らは、研究者でも専門家でもありませんが、
熱帯の森とともに生きてきた彼らは、
おそらくどんな研究者たちよりも
「オランウータン」という生き物をよく見ていたのだと思います。

もちろん人類進化なんてことは考えても
みなかったでしょうし、知識もなかったでしょう。

でも、オランウータンの姿に「人」を感じ、
ヒトとして親しみを感じたのであろう先人たち。
その自然をありのままを見る目や感覚、
自然の中で生きてきた姿に私はいつも感慨を覚えます。

面白いことにこうした人たちは自らをも
「森の人 オランフタン」とよび、
村に住む「村の人」とは区別して認識しているようです。

このオランフタンとオランウータン
「森の人」。あえて2通りの表記しましたが、
音声的には現地では全く同じものです。

熱帯の奥深いジャングルの中で永々営まれてきた
こうした「森の人」たちのくらし。

オランウータンという呼び方、
名前はそういう人と自然との接し方、
アジアの先人たちの長い歴史の中から
生まれてきた言葉だと思うと
なんだか本当に感慨深いのです。

日本はアジアの一部ですが、
日本人にもそもそも自然は克服するものではなく、
ともに歩むものだという考え方があります。

オランウータン 森の人という言葉は
こういう感覚とも何か共通するものを感じるのです。
オランウータンという言葉自体、
そういう意味でとてもアジア的な言葉なのです。
                     (次回へつづく)


オランウータン(0).jpg


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鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
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1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
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