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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」
第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2
第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」
第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい
第40回 <響き合ういのち> ヒルデガルト聖歌コンサート
第41回 2022年 年頭に考える 100年前の日本のこと、これからの日本のこと
第42回 熱帯雨林の現実 ~インドネシア、新首都建設へ~
第43回 熱帯雨林の現実 その2
第44回 春に考える
第45回 オランウータンの「考える」
第46回 霊長類研究を考える
第47回 さまよえるウラナミシジミ 霊長類学者としての私の原点
第48回 高校時代の思い出 ~清澄山の蝶と蛾の話~
第49回 海からの手紙 ~陸地と海はつながっている~ 瀬戸内最後の楽園、祝島から
第50回 里山、里海、そこにある人々の暮らし
第51回 鼎談 ~ていだん~
第52回 イチモンジセセリの渡り ~大集団の実態と謎~
第53回 G20 インドネシアで開催 -世界の動きは-
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第54回 万博とオランウータン
みなさまは2025年に大阪万博が開催予定ということをご存知ですか?
大阪万博といえば多くの日本人が1970年に開催されたアジア初、日本初の国際博覧会を思い
浮かべたものですが、その大阪万博も東京五輪2020よろしくいよいよ再来年に新たな大阪万博
の開催、「大阪・関西万博2025」を迎えることになっているようです。
ということで今日はちょっと異色の組み合わせですが、万博とオランウータンの話をしたいと
思います。
万博と呼ばれる国際博覧会、万国博覧会は日本ではこの1970年の大阪万博に引き続き、2005年
に愛知万博が開催されており、2025年の大阪万博はそれ以来20年ぶりの開催になるそうです。
それぞれの万博のテーマは「人類の進歩と調和(1970)」、「自然の叡智(2005)」、そして
「いのち輝く未来社会のデザイン(2025)」と、一見大変立派なものが掲げられていますが、
結局は、万博を舞台に、世界がこぞってヒトの創り出すもの、ヒトの経済活動、科学技術が
どんなに素晴らしいかを誇示し合う、そういう場が万博でもあります。
こうした催し物の会場誘致は、結局イコール大規模開発の誘発という図式であり、オリンピック
や万博はこうした開発を国家が先導して、そしてそれらの開発が社会の賛同を得て正式に行える
、もっとも公明正大なイベントとして20世紀、21世紀を通じて栄えてきたわけです。
エッフェル塔が建設されたパリ万国博覧会(第4回、1889)の時代は、たしかに「人類が築き
上げてきたその時代の技術・芸術の頂点を世界に向かって発信する」場としての万博が必要だっ
たかもしれませんが、いまや世界中が万博会場のような時代です。
あらゆる名目で最先端を求めてスクラップアンドビルドを繰り返すヒト。
人類の進歩ばかりが注目され、いくら調和だ、叡智だ、いのちだ、と言っても、その陰であら
ゆる自然は開発され尽し、利用し尽されているような感があります。
とくに21世紀に入り、環境保護だ、エコだ、ということが言われれば言われるほど、本当に手
を差し伸べなくてはいけないものからは目をそらされ、宣伝ばかりが注目を浴び、課題の解決
とは全く関係のない方向にばかり世界が進んでいっているように思えます。
まあ、こと万博に関しては科学技術と経済活動の粋を展示するのが目的ですから当然と言えば
当然です。
21世紀に入り初めて開催されたのが愛知万博だったのですが、通称「愛・地球博」とよばれた
この万博は、「環境に配慮した地球に優しいヒト」というイメージ戦略をリードする、そうした
時代の好みと風潮を実によくあらわした万博だったと思います。
実は私たちオランウータンの会では国連からのお声がかりで、この愛・地球博でオランウータン
と熱帯雨林の窮境を訴える展示を行ったことがあります。
2025年であれから20年となるわけですが、当時国際機関が掲げた高邁なスローガンはどうなっ
ているのか、なぜオランウータンだったのか、思い出深いものがあります。
この辺はちょっと長くなるので、次回に分けて当時の思い出を振り返りたいと思います。
愛知万博は、豊田市と、瀬戸市の海上(かいしょ)の森が会場候補地だったのですが、
「自然の叡智」というテーマを掲げながらも「新しい地球創造」として、万博の跡地利用で
宅地造成や道路建設が計画されるなど、その開発志向が大きな批判を浴びました。
「技術・文化・交流―新しい地球創造―」というのが当初テーマだったのですが、新しい地球
創造とは言いようで、まさにそういうこと。誘致計画は長い年月をかけた開発計画でもあった
わけです。
その後メイン会場の変更が行われ、まあとにかくいろいろ「環境に配慮した」、「市民参加型」
のこれまでにない新しい形の万博ということで宣伝が行われたわけですが、結局はどうだった
のでしょうか。
「開発型」誘致から「環境保全型」誘致へなどと言葉は変わりますが、結局本質は開発そのもの
だと思います。
開発、自然破壊を前面には押し出さないように、「自然」だ「地球」だ「環境」だという言葉
が大いに踊った万博でしたが、一度振られたさいころは決して戻らない。
多かれ少なかれ、その後も開発は進むわけです。
メイン会場となった長久手は万博後公園として整備がつづけられ、現在でもテーマパークの
開発中で2024年3月に全面オープン予定とのこと。
評価というものはある意味一面的で勝手なものです。
万博自体は初期に人出が伸び悩んでいるといわれたものの、終盤は入場制限するほどの人気に
となり、総入場者数は2200万人、成功と言われているようです。
この万博を支えたトヨタ自動車は史上空前の利益をたたき出し、これを機に海を埋め立て作られ
た中部国際空港は新たな玄関口となり、ますます交通網の整備は進む。
万博の開催というものは国家的には重要な外交政策の一つということで、なんと外務省管轄だ
そうです。
「この万博において培われた環境への関心や新技術が、どのように受け継がれて行くかを見守っ
て行きたいと思います。」という外務省の言葉が、果たしてどこまで現実に反映されていくもの
なのか、次回につづきたいと思います。
(次回へつづく)
プロフィール
鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。
鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 4
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com