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第52回 イチモンジセセリの渡り ~大集団の実態と謎~   

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」
第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2
第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」
第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい
第40回 <響き合ういのち> ヒルデガルト聖歌コンサート
第41回 2022年 年頭に考える 100年前の日本のこと、これからの日本のこと
第42回 熱帯雨林の現実 ~インドネシア、新首都建設へ~
第43回 熱帯雨林の現実 その2
第44回 春に考える
第45回 オランウータンの「考える」
第46回 霊長類研究を考える
第47回 さまよえるウラナミシジミ 霊長類学者としての私の原点
第48回 高校時代の思い出 ~清澄山の蝶と蛾の話~
第49回 海からの手紙 ~陸地と海はつながっている~ 瀬戸内最後の楽園、祝島から
第50回 里山、里海、そこにある人々の暮らし
第51回 鼎談 ~ていだん~
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第52回 イチモンジセセリの渡り ~大集団の実態と謎~

新米が出そろい、収穫の秋を愛でる季節となりました。

先日、甲府盆地で自然農を営むNご夫妻の水田にお邪魔する機会をいただきました。
稲刈り真っ最中でしたが、なんと今年は夏の間にイチモンジセセリの幼虫に稲の葉を食べられて
しまって大減収とのことでした。
ところでみなさん、イチモンジセセリという蝶をごぞんじですか?

以前ウラナミシジミの話を鈴木先生がされていましたが、今日はイチモンジセセリの話をしたい
と思います。
広く渡り歩く蝶、「さまよえる蝶」ということで、師の磐瀬太郎先生が紹介されていたウラナミ
シジミですが、広く渡り歩くといえばイチモンジセセリも「渡り」が特徴の蝶です。

磐瀬先生の1950年代の著書を読むと、こうした普通種の、小さくてたいして美しくもない蝶
たちへの思いに溢れています。
普段気にも留めない日常や、身近な自然を観察するこということの意味。
プロではなく、普通の人が、自然を「自分の目で見る」ということの意義を改めて考えさせられ
ます。

ウラナミシジミとイチモンジセセリ、ともに「渡り」の蝶ですが、両者の違いはウラナミシジミ
が単独で移動していくのに対して、イチモンジセセリは大群で移動するというところ。
まさに「渡り」のスタイルにおいて両極にある2種です。
「渡り」の生態に魅せられた学者先生は別として、農業者にとってはこの2種の蝶は、それぞれ
マメと、冒頭でも紹介しましたがイネを大食する「害虫」です。
これにキャベツの大敵モンシロチョウを加えたものが3大害虫といえます。

害虫ならばさぞかしその後研究され、その生態があきらかになっているだろうと思いがちです
が、農業の分野では「農薬」や「品種改良」によって、被害に対して一時的に対処する方法が
発達するばかり。
実は相変わらず蝶たちの生態は肝心な点は謎なのです。

イチモンジセセリというのは、チョウ目セセリチョウ科に属している小さな茶色っぽい蛾の
ような蝶です。英名はrice skipperといわれています。
その名の通り稲の間を飛び回り、大群衆で長距離を移動し、秋に卵で生まれたものが幼虫で
越冬。
翌年5月、水田の稲がどんどん葉を伸ばし成長する時期になると再び蝶となり、それが早植え
の稲の葉に産卵。
ふ化した幼虫が葉を食害するということを繰り返します。

7-8月の多発時には葉のほとんどが食害されるような大食漢となり、発生するとその後の稲穂
の生育に深刻な被害を及ぼします。
特に、遅植えだったり、良く育った稲に大発生することが多いともいわれていますが、理由は
不明。
それが理由かどうか詳しくは知りませんが、現在では全国的に早植え、早刈りが主流となって
いるためか、従来の5月に田植え、10月に稲刈りといった水田が被害を受けやすいようです。

8月後半~9月ころ越冬場所へ向けて時には何億頭という大集団で西の方へ移動するイチモンジ
セセリ。
1930年の関西での記録では、あまりの大群のため太陽の光も遮られるほどだったそうです
(磐瀬)。
なぜ西向きに飛ぶのか。
では、もともと東にいる集団はどこからやってきたのか。
なぜ移動はこの時期にかぎられているのか。
本当にこの時期にかぎられているのか。
大集団はどうして、どんな時に生まれるのか。

稲作文化の日本人にとって、イチモンジセセリの存在は非常に重要なはずですが、結局のところ
謎は磐瀬先生の時代のまま残っているようです。
先生は自然観察において共同研究の重要性と長期継続調査の意味、資料の蓄積の大切さを説かれ
ていますが、「自然を見る」というのは本当に気の長い仕事です。
大集団での「渡り」の記録自体も1930年、1950年代、1970年代と昔の記録は残っています
が、現在はどうなのでしょうか。

磐瀬先生は「人間の営みと蝶」というタイトルで害虫となる蝶の話をされています。
ヒトのくらしと密接に結びつき、互いに影響を与え合い変化していく自然や環境。
そうした視点で考えると、こうした蝶たちの生態も常に、周りの環境やヒトの暮らしに伴って
変化していくものであり、決してひとつの結論、答えはないのです。

鈴木先生がかつて調査したウラナミシジミの越冬地、千葉県の白浜。
実はソラマメの促成栽培は調査後すぐに途絶えてしまい、必ずしも言われているような「房総
半島南部はウラナミシジミの越冬地」ではなくなってしまいました。
でも、ひとたび結論が出てしまうと、その後の継続調査や広域調査を実際にフォローするものは
なく、結局は知識だけ、情報だけがひとり歩きしています。
とくにネットの世界ではそれが顕著ですが、情報ではなく、自分の目で自然を体験すると、
疑問や、違ったものが見えてくるのではないでしょうか。

「遊動」、生き物のノマディックライフは実に不可思議です。
甲府盆地に飛んできたイチモンジセセリは、いつ、どこから、どんなかたちで飛んできたので
しょうか。
磐瀬先生の時代は電報とハガキで情報をやり取りしていましたが、現在はネット社会という
便利なツールをヒトは手にしています。
磐瀬先生のような卓越した指導者はいませんが、ただただ情報を横流しにするのではなく、
ツールをうまく利用して、ひとりひとりが「自然を見る」目を養っていく。
科学の未来にとってとても大切なことだと思います。

イチモンジセセリ
写真:イチモンジセセリ

ウラナミシジミ
写真:ウラナミシジミ

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 4
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 4


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com



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