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第48回 高校時代の思い出 ~清澄山の蝶と蛾の話~   

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」
第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2
第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」
第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい
第40回 <響き合ういのち> ヒルデガルト聖歌コンサート
第41回 2022年 年頭に考える 100年前の日本のこと、これからの日本のこと
第42回 熱帯雨林の現実 ~インドネシア、新首都建設へ~
第43回 熱帯雨林の現実 その2
第44回 春に考える
第45回 オランウータンの「考える」
第46回 霊長類研究を考える
第47回 さまよえるウラナミシジミ 霊長類学者としての私の原点
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第48回 高校時代の思い出 ~清澄山の蝶と蛾の話~

こんにちは。鈴木晃です。

前回に引き続き、半世紀以上も前の話になりますが、私がオランウータンの研究、霊長類の研究
を始めるずっと以前、昆虫少年だった高校生の頃の話を書きます。

私の故郷である千葉県南部の中央部には房総丘陵と呼ばれる山系が広がっています。
山といっても千葉県には高い山はなく、丘陵と呼ぶのにふさわしい300m級の山々の連なりです
が、この一帯は標高が低くても非常に貴重な動植物相を有しています。
とくにこの丘陵の東端近くに位置する清澄山(きよすみやま、標高383m)は日蓮聖人が立教
開宗した霊場としても知られていますが、動植物の宝庫として多くの人々の関心をひいてきま
した。

清澄山一帯は清澄寺の境内にある清澄の大杉(国の天然記念物)でも有名ですが、黒潮の影響
を受けた温暖多雨の気候と起伏に富んだ丘陵部の地形が多種多様な動植物相を育み、千葉県のみ
ならず全国的に見ても非常に貴重な森林生態系を維持しているわけです。

ウラナミシジミの研究で生き物の世界に目覚めた高校生の私の次なるターゲットはこの清澄山
でした。
とはいえ清澄山に行くためには館山経由で汽車を乗り継ぎ、さらにはバスに乗り換え半日掛りの
行程です。
毎月こうして清澄山に通い、泊りがけで三日間程度、蛾や蝶の採集に没頭しました。
一軒だけあった茶店のおばさんのところに居候させてもらい、この茶店から長いコードを引いて
山の中腹で白い布を張り、夜間に電灯の光に集まる蛾を採集するわけです。

こうした私のコレクションの中には当時日本で1頭か2頭しか採れていない珍しい種類の蛾が数
限りなく入っていました。
もちろん最初から私にそれらがわかっていたわけではなく、その道の大家の井上寛先生との出会
いが大きかったわけです。

井上先生はその後、大作「日本産蝶蛾総目録 全6巻」 を陸水社から出すなど、その道でお名
前を知らぬ者はいないような大先生ですが、当時は藤沢の高校で英語の先生をやっておられ、
趣味で日本中の蛾を集めていると伺っていました。
そこで夏休みに早速私のコレクションを持って行ったわけです。

受験勉強そっちのけで、白い菓子箱のような紙箱に3箱、これと思われるようなものをえり抜き
、東京湾を船で渡って藤沢のお宅まで押しかけていったのです。
一面識もない千葉から来た高校生でしたが、先生は一目見るなり私のコレクションを大変評価
して下さり、これを機に私の採集熱はますます熱くなったわけです。

先生には以来、同定(種名を調べること)をお願いしてきました。
先生からいただく便箋いっぱいに綴られた横文字の学名種名の一覧の手紙のやり取りを懐かしく
思い出します。
井上先生は生涯で1000種を超える新種、新亜種を記載されています。
そして後にコレクションのほとんどを大英博物館(正確にはロンドン自然史博物館)に寄贈する
という快挙を達成されています。
それほど井上先生のコレクションは素晴らしかったのですが、日本の博物館等にはこうした
コレクションを寄贈するにふさわしい場所がないからとの理由であり、こうした面でも日本の
自然科学、博物学への理解、歴史の薄さが残念です。

さて清澄山での私のコレクションの中にはルーミスシジミという珍しい種がありました。
このルーミスシジミというシジミチョウは、明治の時代に横浜に宣教師として来日したヘンリー
・ルーミスというアメリカ人が、千葉県の鹿野山で最初に採取したのが始まりで、以後もあまり
採集記録がない珍しい蝶です。

西日本を中心に局地的に存在が確認されているものの、それらは点々としたもので、実際には
分布と呼べるほどの生息地はほとんどないのです。
古くから生息地の一つといわれてきた奈良県の春日山での分布は昭和40年代に絶滅が報告され
ています。
清澄山をはじめとする房総半島南部はルーミスシジミの分布の北東限にあたりますが、現在でも
その分布が確認されている貴重な生息地なのです。

さて、絶滅という話になると先程来書いている「採取」のせいだ、「乱獲のせいだ」と思われる
かもしれませんが、絶滅の大きな理由は「生息地、森林」といった全体の環境の問題なのです。
ルーミスシジミの生息地は、日本古来の自然豊かな照葉樹林といわれる森です。
幼虫はイチイガシなどカシの木の仲間を食草とします。
絶滅はこうした蝶の幼虫がくらしていける豊かな森が失われていった結果なのです。

次回に続きます。

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com



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