サイトマップ

最新トピックス

« 前の記事を読む | BLOGトップ | 次の記事を読む »

第45回 オランウータンの「考える」       

===================================
第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」
第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2
第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」
第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい
第40回 <響き合ういのち> ヒルデガルト聖歌コンサート
第41回 2022年 年頭に考える 100年前の日本のこと、これからの日本のこと
第42回 熱帯雨林の現実 ~インドネシア、新首都建設へ~
第43回 熱帯雨林の現実 その2
第44回 春に考える
===================================

第45回 オランウータンの「考える」

前回は「人間は考える葦(あし)である」ということで、ヒトの「考える」について書きました
ので、今回はオランウータンの「考える」についてご紹介したいと思います。

拙書に「オランウータンの森」(国土社 写真/鈴木晃・文/鈴木南水子)という写真絵本が
あります。
この中に、オランウータンの「考える」という行動を実に象徴的に示している1枚があります。

一頭の壮年のオスのオランウータンが、細い枝先を伝い歩くアリの隊列に見入っている様子を
とらえたものです。
こんな一瞬を写真に残せたのは、鈴木先生の長い観察のなかでもこの時だけ。
私たちはこの1枚の写真を「アリを見つめるオランウータン」と呼んでいます。
言葉で書いてしまうとなんだか陳腐ですが、非常に珍しい1枚です。

最初にこのオランウータンの姿を見たとき、おかしな格好をしているなあと思ったそうです。
通常オランウータンは高い木の上にいるのですが、この時は低い茂みの中で、地上からは1.5
メートルぐらいのところでしょうか。
一頭の大きなオスが両手両足で細い木にぶら下がった体勢のままで、いつになっても動かない
のです。

何だろうと思って超望遠レンズで覗いたところ、見えてきたのが一匹のアリの姿だったのです。
この望遠レンズは当時の最高級のニコンのレンズで、貧乏研究者の身では、後にも先にも
こんなに高性能のレンズを入手できたことはなかったのですが、この時はなんと運がよかった
ことでしょう。
重い重いレンズを森の中まで背負ってきたおかげで、小さなアリの姿をはっきりと捉えることが
できたのです。

巨体のオランウータンが、微動だにせず見入っているのが小さな、小さなアリだったということ
に気づき、驚愕しました。
野生のオランウータンは通常シロアリを食物にしますが、この写真のアリは食用でもない普通
の黒アリです。
食べ物としての興味の対象でもないのに、ただただ魅入っている姿は、まさにエントモロジスト
(昆虫学者)でした。

最初は夢中でカメラのシャッターを切っていましたが、ちょっと落ち着いてよく見直してみる
と、なんとこのオスのオランウータンは自分の顔の前に垂れかかる邪魔な小枝を折って、アリを
見やすくしているのです。
この小枝は気づいたときにはすでに折られていましたから、観察者である私たち人間が彼を見つ
ける以前からすでに彼はこのアリを、邪魔な小枝をそっと折りながら観察し続けていたのです。

その後も飽くことなく40~50分はそのままの格好でぶら下がっていたでしょうか。
一体彼は何を考えているのでしょうか。
そう思わずにはいられないオランウータンとの唯一無二の出会いだったそうです。

誰に教え込まれるわけでもなく森の中で、人知れずアリを見つめるオランウータン。
こんなオランウータンが実際に、現実に熱帯雨林の中に暮らしているのです。
自然の中での観察を積み重ねていくことは非常に難儀なことではありますが、こうした積み重ね
の中に野外研究の真髄が、そしてヒト化への道のヒントがあるのではないかと私は思います。

類人猿のような生き物を研究していく上で安易な擬人化は危険な行為であります。
彼らは何かを教え込めば非常に上手に真似します。
敢えて教え込まなくても驚くべき能力を持っています。
それらを「賢さ」と表現することは簡単ですが、自然の中での彼らのいわゆる「賢さ」を研究者
はどう捉え、私たちはそこから何を導き出していくのか。
類人猿の研究は非常に深いものだと思います。

野生のオランウータンが何の目的で、何のために熱帯雨林の中で「アリを見つめていた」のか。
私にはその答えはわかりませんが、「考える」彼の姿を見ると、敢えて擬人化して表現したい。
これこそ「好奇心」だし、「観察」だし、「知性」だと。
そして、こうした彼らのやらせでもなんでもない自然の姿をこれからも残していかなくてなら
ないと強く思うのでした。

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com



カテゴリー

月別アーカイブ



  • zoom寄合
  • にんげんクラブストア
  • 秋山峰男の世界
  • やさしい ホツマツタヱ
  • 舩井幸雄記念館
  • 黎明
  • 船井幸雄.com
  • ザ・フナイ
  • ビジネス共済なら協同組合企業共済会
  • Facebookページはこちら
  • スタッフブログはこちら
グループ会社
  • 舩井幸雄.com
  • 本物研究所
  • エヴァビジョン
  • ほんものや