サイトマップ

最新トピックス

« 前の記事を読む | BLOGトップ | 次の記事を読む »

第43回 熱帯雨林の現実 その2       

===================================
第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」
第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2
第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」
第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい
第40回 <響き合ういのち> ヒルデガルト聖歌コンサート
第41回 2022年 年頭に考える 100年前の日本のこと、これからの日本のこと
第42回 熱帯雨林の現実 ~インドネシア、新首都建設へ~
===================================

第43回 熱帯雨林の現実 その2


さて、インドネシア政府が首都移転を計画するカリマンタン島の新首都ヌサンタラ。
2年前の発表当時は「熱帯雨林の中で、まだ名前もない」場所とされていました。
いずれにしろ現在の首都ジャカルタからは海をはさんで直線1300キロの距離ですから、
ほとんどの人は行ったことも見たこともない。「熱帯雨林の中」と思っているのです。

一方で熱帯雨林の開発に関しては、このご時世ですから「環境に配慮する」ことは当然
標榜されています。
開発するのは原生林ではなく環境破壊にはつながらないとインドネシア政府は発言にも
配慮を欠きません。

さて、では一体この計画予定地はどのような場所なのでしょうか。
以前書いたかもしれませんが、この予定地を通って私たちはいつも研究地であるオラン
ウータンの森まで行くわけです。
国際空港のある石油の町バリックパパンから尾根沿いに州都サマリンダまで道路が通って
おり、これが長い間、唯一の幹線道路でした。

熱帯の森というと平らな地形に思うかもしれませんが、実際にはアップダウンが激しい、
ジェットコースターのような道です。
確かに道に沿って人々が住み着き、耕作地が広がっているところもあり、いわゆる原生林
は全く残っていないような土地ではありますが、多くは一見高木に囲まれた森の中です。
こうした森を二次林と呼びます。

そもそも熱帯雨林の中に道路を作っておいて保全も再生もないわけです。
道が作られることによって、まず沿線の森が切られ、さらには奥地へ奥地へと切り進んで
いく。
これが熱帯雨林の違法伐採のもっとも典型的なパターンです。

サマリンダへの幹線道路沿いも、かつて広がっていた原生林はこうした伐採や、これに
先立つ大規模な商業伐採を経て、その多くはすでに失われていました。
問題はこの後です。
この地に「熱帯雨林の再生」と銘打って、インドネシア政府はもとより、各国が地元の
大学や研究者と協働して、これまで数々の植林を試みてきたのです。
大規模な植林のために、さらに森が切られる。
今から40年以上も前の話です。

当時、日本は世界の熱帯木材の4割以上を輸入し消費していると言われていました。
そして大量伐採の埋め合わせとしての「植林」プロジェクトに、国際社会をはじめ多くの
資金が動いたのです。
天然林(原生林)の保全を棚上げにしてどんどん切ってしまい、いったい何にお金を使って
いるのか。
これが私の正直な感想ですが、そんなことはお構いなしです。

熱帯における天然林の再生を人工的に行う。
これは現在に至ってもヒトが思っている以上に困難なことなのですが、そのための研究や
プロジェクトと称しては、森が切られ、そこに植林してはまた切られる。
○○本植えた、○○ヘクタール植えたと言っても、結局は何も残っていない。
しかしこの事実はあまり検証されません。
この新首都予定地の森はそうしたヒトの愚行が重ねられてきた場所なのです。

熱帯雨林の再生に関しては、日本もプロジェクトにかかわってきた一員で、林野庁をはじめ
日本人の関係者も多く、愚行と書いてしまうと申し訳ありませんが、「自然」がいかにヒト
の考えるようにはならないものなのか、教訓は今に至るまで全く生かされていないように
思います。
熱帯の森が再生できるというのは、ある意味、開発のためのカモフラージュです。

さて植林プロジェクトの失敗はさておき、ではこの地がそのまま荒れ地となっていたかと
いうと、多雨な熱帯ですから、その後30年も経ち、移住者がいない場所には早生樹が育ち、
二次林が発生し、場所によってはそれなりの森になっていたわけです。
でもまあ天然林ではないから、価値のない森として開発されていく運命にあるわけです。

熱帯雨林の再生でもっとも重要なことは、木を植えることではなく、植えた木をどうしたら
切られないで、何十年も何百年も残し続けることができるか。
現場にその管理体制を、その「心」を育てていくことなのです。
せっかく植えても、植えたこと自体忘れてしまって、首都予定地になってしまう。
なんという無駄な努力でしょう。

実はこの新首都予定地にはオランウータンの孤児の収容施設、ワナリサットリハビリテー
ションもありました。
オランウータンのリハビリ事業も、結局は森林開発のカモフラージュです。
リハビリが可能だと世の人に思い込ませることは、本当の意味での野生のオランウータン
の保護、生息地保全の必要性を考えなくさせる。
そのための隠れ蓑の役割を果たしてきていると、私たちは訴え続けています。
リハビリ事業は野生のオランウータンにとって、実に罪深いものです。

今回の首都建設も、国家開発企画庁長官によれば、保護林では建設事業は行われず、放棄
された鉱山や違法なパームオイル生産プランテーションでは森林再生が計画され、中国の
成都にあるジャイアントパンダ保護センターのように、オランウータン保護センターを
建設することも提案しているそうで、まさに、「良いこと」のてんこ盛り。

しかし、みなさん、知らないから言いたい放題なのです。
過去に学んでほしい。
そして少しでも、自然を、環境を、地球を考えてきた人は、良いことを言うのではなく、
これまでのヒトの数々の愚かさを明らかにしてほしい。

これまでだって、保護林も国立公園もあり、幾多の森林再生の試みがなされ、オランウー
タンの保護も、いつも叫ばれていたのです。
「良いこと」のために集められた資金は結局、開発を後押しすることにしかなっていない
のです。

熱帯雨林の中に都市を、首都を建設して「自然への影響があまりない」ことなどありえ
ないのです。
「環境にも、人にも優しい未来都市の建設」。絵空事は絵空事です。
開発をするなら、良いことにだまされずに、自分たちが何を失い、何を犠牲にするかを
もっと真剣に考えなくてはいけない。

でもこれは自分のことではない、インドネシアのこと、遠い国のこと。
あなたはそう思っていませんか?

これが熱帯雨林の現実です。

私もインドネシアという国が発展していくこと、発展しようとすることを否定する気は
ありません。
でもオランウータンという生き物が象徴する熱帯雨林の価値と希少性を誰よりもよく
知っているひとりとして、その保護と保全のために少しでも協力したい。
そのためにやれることがあるのです。

より良き発展のためには、これまでの繰り返しではだめです。
ヒトは、過去に学び、未来を考えなくてはいけない。そう思いませんか?

(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com



カテゴリー

月別アーカイブ



  • zoom寄合
  • にんげんクラブストア
  • 秋山峰男の世界
  • やさしい ホツマツタヱ
  • 舩井幸雄記念館
  • 黎明
  • 船井幸雄.com
  • ザ・フナイ
  • ビジネス共済なら協同組合企業共済会
  • Facebookページはこちら
  • スタッフブログはこちら
グループ会社
  • 舩井幸雄.com
  • 本物研究所
  • エヴァビジョン
  • ほんものや