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第42回 熱帯雨林の現実 ~インドネシア、新首都建設へ~      

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」
第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2
第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」
第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい
第40回 <響き合ういのち> ヒルデガルト聖歌コンサート
第41回 2022年 年頭に考える 100年前の日本のこと、これからの日本のこと
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第42回 熱帯雨林の現実 ~インドネシア、新首都建設へ~


インドネシアの国会はコロナ禍の2022年1月、首都をジャワ島にあるジャカルタからカリマン
タン(ボルネオ島)に移す「首都移転法案」を賛成多数で可決。
新首都の名称はインドネシア語で群島を意味する「ヌサンタラ」に決定。
こんなニュースがつい先ごろ報道されました。

遡ることすでに2019年8月にインドネシア政府は首都移転計画を公表。
この時、新首都予定地は「熱帯雨林の中で、まだ名前もない」場所、カリマンタン島の東側
という意味のカルティムといった程度の報道でした。
実は発表当時、私はジャカルタに滞在していたのですが、ジャカルタ市民にとってはこの
ニュースはどこか遠くの話で、政権が代わるたびに出てくる世迷言。
「ああ、また歴代大統領の夢の話ね」といった冷めた反応。

でも私にとっては大変な「事件」でした。
と言うのも、「誰もどこにあるかよくわからない場所、行き方もわからない」このカルティム
こそが、実はこの数日後に私が行く予定の場所だったのです。

研究地である野生のオランウータンのくらす森は正確にはさらにここから北方に200キロほど
離れた場所で、距離的、時間的には一見遠いように思うかもしれませんが、いずれにしろやがて
は「新首都ヌサンタラ」のとなりの森となってしまう、そのような差し迫った話なのです。

熱帯雨林は広大で、カリマンタンのどこにでも森があるとみなさんは想像しているかもしれま
せんが、そんなことはありません。
今や熱帯雨林と呼べるような原生林は非常に限られた場所となり、一度道路が整えられれば
どこにでも容易にヒトが近づけます。
ヒトは持続可能な開発と言いつつ、終わりなき発展を求めていくわけです。
もはやオランウータンの森など残されていないのです。

発表によると移転先はカリマンタン島の森林や草原が広がる約25万ヘクタールの敷地で、
移転費用は現時点では350億ドル(約4兆円)。
今後、移転を主導する機関を設置して、大統領宮殿や国会など政府機能の建設に着手、2045年
までの移転完了を目指すとのこと。
まずは今年末から2024年までに公務員50万人を移動させる。
いずれは100万人、150万人と夢を語っています。

国家としての移転予算は全く足りず、計画を推し進めることで、開発マネーを集めようとの
胸算用でしょう。
ソフトバンクの孫正義氏も計画発表後真っ先に賛同と協力を表明していました。
東カリマンタンが新首都に選ばれたのは、なんといっても原動力はその豊富な地下資源と、
それに伴う資源マネーです。

熱帯雨林など「開発しなくてはいけないもの」なのです。
この熱帯雨林の現実を世界はどうとらえるのでしょうか。
脱炭素だ、SDGSだと、きれいごとを言っているだけでは、どうなっていくのでしょうか。
首都移転に関しては政治的な思惑も色濃く、実行性、実現性まだ何とも言えない状況です。
しかし、これだけは確実です。「一度転がりだしたら止まらない。」

たとえ首都が出来ようが出来まいが、予定地はもとより、カリマンタ全体の熱帯雨林は確実に
失われます。
そしてその影響はオランウータンの森のみならずとんでもない広がりを持っていると考える
べきでしょう。
とにかく「熱帯雨林は開発しなくてはいけないもの」。
そんな価値観を否定することができない世界だということを、世界の人は認識するべきです。

東カリマンタンの州都サマリンダは大河マハカム川の北側に広がる古都ですが、マハカムを
はさんだ南側一帯が今回の新首都予定地です。
今手元に1989年に開かれた森林フォーラムという国際シンポジウムをまとめた本があります。
このなかで、まさにこの地のことが触れられていますので一部を抜粋でご紹介します。

「(数年前、カリマンタンは緑一色だった。)ところが今回、東カリマンタン州をバリクパパン
から州都のサマリンダまで(小型機で)横切ったら、視界に入るのは山を縦横に走る林道と
ハゲ山、草原の中に真っ黒こげになったまま佇立する大木、赤土の山に野積みにされている
大小の丸太、あるいは畑らしいものばかりです。」

そうなのです。すでに1980年代にはこの一帯の森は伐採され、荒れ果てていたのです。
それなら開発しても仕方ないねと、みなさんは思いますか?

でもちょっと考えてください。
この地も50有余年前は一面の原生林だったのです。
ではなぜその原生林が今や「開発しても環境には影響がない」といわれるような場所になって
しまったのか。
ある意味今回の首都移転計画は熱帯雨林再生プロジェクトなどと銘打つ取り組みの苦い失敗
事例なのです。
その裏と表を誰もが知らないまま、熱帯雨林の現実に目を背けたまま、仕方ないと思っていて
は、熱帯雨林は消滅します。

首都移転はこれからスタートするように思うかもしれませんが、そのための熱帯雨林開発計画
はすでに50年前から始まっていたとも言えます。
熱帯雨林は決して無秩序に、無計画に、規制なく荒らされていっているのではないのです。

長くなるので詳しくは次回に。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com



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