サイトマップ

最新トピックス

« 前の記事を読む | BLOGトップ | 次の記事を読む »

第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい      

===================================
第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生
第35回 野生オランウータンの観察 その4 長期の追跡
第36回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」
第37回 京大、霊長類研究所を事実上「解体」 その2
第38回 お話し会「オランウータンにいつまでも熱帯の森を」
===================================

第39回 「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい


先日のお話し会はゲストにフィリピンで貧困と闘う「アクセス」の野田沙良さん、中央アフリカ
でエイズ支援を続ける「アフリカ友の会」の徳永瑞子さん、そして山田征さんを囲んでの話題
豊富な、とても豪華な集まりとなりました。
みなさん、ありがとうございました。

徳永さんがアフリカにはじめて渡ったのは今から遡ること50年!の1971年。
以来アフリカの地で医療支援、人道支援を続け、自ら診療所を運営している徳永さん。
その豊富で経験豊かな話題の数々と、大先輩に向かって失礼ですが何よりもチャーミングで
楽しいお話しぶり。
まだまだ伺いたいことばかりです。

日本人は「アフリカは貧しい」と思い込んでいませんか?
私たちが持っている価値観の物差しだけではなく、ちょっと違った物差しを持つと、彼らの
暮らしぶりはこんなにも豊かで余裕があるものなのだという、その実感溢れるお話しに深い
共感を覚えました。

今回は特に、ピグミー族とも呼ばれている現地の少数民族バトワ族の自然とともにある生活を
ご紹介いただきました。
印象的だったのは、彼らのお産の話。助産師の徳永さん、日本に戻り、日本の設備の整った、
でも、とんでもない費用の掛かる大層なお産がカルチャーショックだったそうです。
経験豊富な徳永さんでもバトワのお産に立ち会ったのは1例のみ。
彼らは声も出さず、ひっそりと一人でお産を済ませてしまうとか。
そもそも彼らは産院になんか来ないのです。一方のバンツー系は賑やかで大騒ぎで、歌い踊り
とこれまた想像すると楽しい。

日本では産院の都合でいろいろコントロールしてしまいますが、自然の摂理で考えるとお産は
だいたい朝方らしいですよ。
早朝に朝方一人で生んで、しばらく休んで、お母さんが赤ん坊を自分で抱いて家族のもとに
帰る。
これが生き物としてのヒトの自然の営みのようです。

出産こそは生命の誕生であり、自然なものなのだという話。
ビデオまで回しての立ち合い出産がいま今は流行りのようですが、なるほどこれはずいぶん
不自然なわけですね。
「どうしたらいいですか?」と妊婦さんに言われるけれど、「自由にやってください!」と
言うの、という徳永さん。
楽しいトーク、まだまだ聞きたいです。

野生のオランウータンの出産は熱帯雨林の高木の巣の中ですから、詳細な観察例はありません。
彼らも大騒ぎしたり、声を出したりすることはなく、ひっそりといつの間にかに赤ん坊を産み
ます。
抱いて出てくるので、観察者はそれを見て、出産したのだなと気づくわけです。
そもそも、もともとお腹のポッコリしているオランウータンは、妊娠していてもそれ自体よく
わかりません。
ですから観察者は、赤ん坊を見て初めて妊娠していたことを知るような場合も多いのです。

私はまだありませんが、鈴木先生は長い観察の中で、一度だけ出産直後のオランウータンを
観察したことがあるそうです。
デイネストと呼ばれる昼寝用の巣の中で休んでいて、いつになっても動かないオランウータン。
そのうちスタッフの中で耳の良い人が「あれはオランウータンの赤ん坊の泣き声だ!」と
気づいたというのです。
文字にして書けば、ピーピーという声らしいですが、もっともふつうの人にはかすかな音の
ようなもので全く聞こえません。

オランウータンはめったに声を出しませんが、生まれたての小さな赤ん坊は時々ピーピーという
声を出すことがあります。
「生まれたて」といっても普通観察するのは生後1、2ヶ月の個体が多いのですが、デイネスト
のこの時は文字通り生まれた直後。
樹上何十メートルの巣の中なので姿も見えません。
もちろん声も普通では気づかない、聞こえないようなものです。
ということで、自然の中でのお産は、周囲は全く気づかないうちに行われるということですね。

さて、面白すぎて徳永さんのお話し紹介に費やしすぎました。
本日タイトルの「シンプルで幸せな生活」は壊れやすい。
これはフィリピンで活動する野田さんの言葉。
この言葉、まったくそうですね。
ぜひみなさんにもう一度紹介したかったので取り上げます。
幸せな暮らしというのは何か特別なものではなくて、家族みんながひとりひとり普通の、毎日
の暮らしを続けられること。
幸せな暮らしって、「あれがある。これがある。」というのではなく、幸せはシンプルなもの
だということ。

野田さんがフィリピンで感じたこの思いは、私もインドネシアで感じるものだし、おそらくは
みなさん一人一人も、突き詰めれば同じことを思うのではないでしょうか。
でも、そのシンプルな生活というのが、どんなに脆いもので、時として、本当にあっという間
に崩れていってしまう。
その現場を数多く見て、そして何とかしようと様々な活動に取り組む野田さん。
野田さんの姿に本当にいろいろ学びました。

私たちの現地のオランウータンの活動は、森の中でオランウータンを追っているのが楽しい
という、それこそ小学校を出たか出ないかという村人たちによって支えられ、続けることが
できています。
石炭会社など、村で働くよりは給料は安いけれど、でもこれで森の中で暮らしていければ、
それが一番幸せだと。
そうしたシンプルな生活を好んで長年続けながら、私たちを手伝ってくれる人々がいないこと
には観察は続きません。

現地の人々のシンプルで幸せな生活を壊さないために、できること。オランウータンの研究は
大切です。
でもそれだけではなく、こうした、森の中で暮らすことがもっとも楽しい、幸せだという現地
の人々の生活を守っていくこと。
こうした人々の暮らしを支えていくことが、実はオランウータンの森を守っていく上で最も
大切なことなのです。

今、先の見えないコロナの嵐の中で、どうしたら彼らのこのシンプルで幸せな生活を支えて
いけるのか。
2年もアフリカに、現地に行けないと大変という徳永さんの実感こもった感想に、私も全く同じ
思いです。
ネットだ、リモートだと世間は言いますが、そんなことでは動いていそうで、動かない場所も
世界にはまだまだあるということです。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』Part 2


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com



カテゴリー

月別アーカイブ



  • zoom寄合
  • にんげんクラブストア
  • 秋山峰男の世界
  • やさしい ホツマツタヱ
  • 舩井幸雄記念館
  • 黎明
  • 船井幸雄.com
  • ザ・フナイ
  • ビジネス共済なら協同組合企業共済会
  • Facebookページはこちら
  • スタッフブログはこちら
グループ会社
  • 舩井幸雄.com
  • 本物研究所
  • エヴァビジョン
  • ほんものや