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第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生     

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性
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第34回 野生オランウータンの観察 その3 バユールの誕生


私たちがもっともよく観察してきた野生オランウータンのメス、タンジュンには多くの子供
たちがいます。
中でもバユールと名づけたメスの子どもは、生後すぐから追跡が続けられており、メンバー
も特に愛着を持って見守っている個体です。
オランウータンにとって生まれたあとの6~7年の授乳・保育期間は子どもの発達には極めて
重要な時期であり、子どもは常に母親と一緒です。
この間に森で生きていくための様々な技術を母親から見習っていくのです。

私たちはこうした様々な観察をこのバユールの成長を通して見てきました。
バユールは1995年生まれですが、この個体が、私たちが長年観察してきた個体の中で、はじ
めて生年がわかるメスのオランウータンなのです。

1983年にクタイの森に研究のためにはじめて入って以来10年、周辺は1985年にカリマンタン
島で初めての国立公園に認定されたものの、同時に川をはさんだ対岸では大規模な石炭の
露天掘りが開業され、森林の環境は一変しました。
このままではオランウータンの森を守れない。この想いから、それまで10年間、断続的に
オランウータンの追跡調査に協力してきた地元の村人たちが中心となり、今後に向けた長期
の研究のための基地をつくろうということで「キャンプ・カカップ」の建築が始まりました。

大工道具、材木代など、お金のない中、現地の協力者は当時としても安い給料で集まって
くれました。
研究費がない鈴木先生の呼びかけに賛同し、「もう10年も一緒にやってきたのだから」と
いう住民たちの協力のもと、彼らと共同で1年がかりでようやく建てられた建物がキャンプ・
カカップです。
十分な資金はないわけですから、資金を集めながらの建設には時間がかかり、1年ほどの
建設期間を経て1994年の秋ごろにはようやく外郭が整い、一応の完成を迎えたわけです。

まず、建物は基礎が重要ということで、一見、掘っ立て柱のようでわかりませんが、
キャンプの建物の基礎は、100本ほどの基礎杭が地中1.5mまで打ち込まれ、その杭に支えられ
て上の建物が建てられています。
この建物なら100年でも大丈夫という、当時の村人たちのオランウータンの追跡への熱意と
意気込みを今でも感じます

この建物がつくられたおかげでオランウータンの追跡調査は劇的な変貌を遂げました。
これまでは森の中にブルーシートを張っての調査だったので、雨が多く、高温多湿の環境下で
の調査の長期継続には苦難と限界がありました。
こうして1995年の夏から本格的な長期継続調査が可能となったのです。
とはいえ、建設のために資金も人手も使い果たし、建物は完成したものの本格的な調査の再開
までは1年近くの準備期間を必要としたわけです。

この激動の時に生まれたのがバユールでした。
鈴木先生がはじめてバユールにあったのは1995年の8月のことでした。
バユールは鈴木先生が日本に戻った不在の間に生まれました。
数の限られたメンバーたちは当時キャンプの建設に従事していたので、正確な生まれ月までは
わかりません。
しかし、この年の5月には母親のタンジュンが赤ん坊を連れていたという観察があり、出会っ
た8月にはすでにある程度成長していたので、生まれたのは1995年の初め頃ではないかと推察
したわけです。

生まれてから数か月の詳細な成長記録の数を重ねることも、重要であるわけです。
その後、数々の子供の観察を重ねていますが、バユールはそうした観察を可能にしたまず初め
の個体であり、長期観察を続ける私たちにとってはここからが大きなスタートでもあったわけ
です。

それまでの10年の観察では、生まれた子どもがオスばかり!
いえ、もちろんメスの子どもも生まれていますが、きちんと個体識別可能なメスの子どもに
該当する子どもがなかなか現れなかったのです。
「偶然出会った母親がメスの赤ん坊を抱いていた」というのではまずダメなのです。
その個体を追跡し続ける力がこちらにあればいいのですが、なかなかそうはいきません。

次に出会ったときには「あなた誰?」となっていてはダメなのです。書くのは簡単で、当たり
前ですが、オランウータンの若い子どもはどんどん外見が変わりますし、オトナのメスだって
個体差とその識別が実に微妙な生き物なのです。
きちんと個体識別できるようになるまでは観察の積み重ねが必要なのです。
そうした意味でこのタンジュン・バユール母子の観察は私たち野外観察者にとっては、すべて
が「はじめて」の観察であり、多くのことをもたらしてくれた象徴的な存在なのです。

バユールはまだ26歳です。
母親のタンジュンに鈴木先生が初めて出会ったころの年齢なのではないかと推測されます。
オランウータンの森が残っていく限り、彼女たちは今でも、そしてこれからも変わらず、
この森で子育てを続けていくはずです。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com



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