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第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性     

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
第23回 オランウータンは何頭いますか?
第24回 オランウータンは何頭いますか? その2
第25回 インドネシアの大雨と大洪水
第26回 緊急事態宣言 再び
第27回 「自然」について考える
第28回 見守ることの大切さ ~キャンプ・カカップの取り組み~
第29回 オランウータンの長い子育て
第30回 森を残そう ~鎮守の森の意味 熱海伊豆山の土石流~
第31回 オリンピックの陰で
第32回 野生オランウータンの観察 その1 -年齢ってどのようにわかるの?-
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第33回 野生オランウータンの観察 その2 長期間の観察の重要性


さて、現在では野生動物の観察において、その対象個体に名前をつけて観察するということ
はよく行われることです。
しかし野生動物を一頭一頭、個体識別して調査するというこの方法は、実は1950年代の日本
のサル学から始まったもので、当時は世界的に珍しいものだったのです。
そもそもヒトは特別という欧米の思想の中にあっては、ヒトではない動物に個や、個性を
認めるという発想がなかったのです。

オスやメス、オトナやコドモといった分類区分で、時には数字やアルファベットで、彼らが
どういうときにどんな行動をするか、それらをまとめるのが科学であり、学問である。
動物に個性を認めるなどということは擬人化とも批評され、方法論として全く評価されない
伝統的、学問的、そして文化的背景があったわけです。

以前鈴木先生も書かれていますが(第11回日本の霊長類学)、欧米由来の動物学というのは
基本的には動物が何をするかを知ろうという動物行動学が中心であり、ちょっとマクロに
なると生態学ぐらいはあるものの、ひとつひとつの個に着目し、その全体としての社会を
解明しようなどという「動物社会学」的発想は全くなかったわけです。
そうした当時の学問の流れの中にあって、個に着目した日本の霊長類学の新たな視点は、
それゆえに世界に先駆けた先見性があったのです。

というわけで、今やだれもが観察対象に名前をつけることに違和感を覚えない時代となって
いるように思いますが、一方でこの「個体識別」に欠かせないのが、「長期観察」です。
長い観察の中で一頭一頭に名前をつけ、個体識別をしていくからこそ意味があるわけです。
野生のオランウータンの観察においては、前回少し紹介しましたが、特にこの「長期観察」
が重要であり、その観察に基づいた一頭一頭の「名前」には、みなさんには理解できない
ほどの価値と重みがあるのです。

こうして個のデータを積み上げ、それらを比較対比することで見えなかった世界が見えて
くるわけです。
名前をつけるだけなら簡単なことです。残念なことにこの辺をよく理解しないで、ペットの
感覚で野生動物に名前をつけるということがあまりに普通のこととなり、世界に秘境がなく
なりつつある今、あちらこちらで「個」や「観察」を無視した、一時的な命名が横行して
いるのも現実です。

オランウータンの森でも、名前があって当然という感じの一般の観光客が勝手に命名してみ
たり、観光客ならまだしも、研究者までもが勝手に新たな名前をつけたり、ちょっとやって
きたどこかの国の大使がメスの子供にオスの名前をつけてみたり、おかしな話ばかりです。

もっとも生まれたばかりのオランウータンの赤ん坊が、オスかメスかを観察するのは結構
時間がかかることなのですよ。
なにせ高い樹上ですから、よっぽどそのことに注目して観察しないとわからない。
いまでこそビデオが良くなり、ズームアップもできるようになりましたが、それでも様々な
葉やつるに遮られた樹上で、母親にぴったりしがみついている新生児の性別を見分けること
は、観察初心者にはまず不可能です。

キャンプではものすごく視力がいい人がいて、彼がいつも真っ先に観察してきてくれます。
「おしっこが放物線を描いていたからあれはオスだ。」と。
そんなわけで私たちは生まれてしばらくの間は名前をつけません。
観察を重ねていく中で確実にその個体を命名し、追跡者たちがその個体をきちんと認識は
とても大事なことなのです。

実は先ほど紹介したメスにオスの名前の時も、しばらくぶりに現地に行ったら新しい名前が
ついている。
みんなチャーリー、チャーリーと呼んでいるのです。
「ああ、オスだったのだな」と思って、よく見ているとなんだかおかしい。
「あれはメスよ。」と。
一度先入観で見てしまうとなかなか誤りがわからないものなのです。
注意して自分の目で見なくなる、見ようとしなくなるのです。

国立公園のスタッフがチャーリーと言っているからチャーリーで、オスなのだろうと。
そもそもチャーリーという名前の別のオスがすでにクタイの森に存在するのですが、国立
公園のスタッフは特別なお客を案内するだけなのでそんなことは知らないわけです。
手っ取り早く、名前や性別、年齢といった「情報」がわかればいいわけで、それがたとえ
誤っていようが、たいしたことではないのです。
ここがそもそも研究者とは目的が違うわけで、本当の意味での自然観察への理解が進まない、
難しいところなのです。

日本の霊長類学が広めた「個体識別」という手法ですが、研究を支えるために必要な「長期
観察」と、何よりも重要な、フィールドと呼ばれる「研究の現場」の保全に関しては、霊長
類学への注目に反してまったくと言っていいほど理解が深まっていないように思います。
研究は、単に情報や知識を集め、広めることが目的なのではありません。

ヒトの興味は尽きるところを知りません。
オランウータンも研究が進み、今まで一般には知られていなかった様々な情報や知識が溢れ
ています。
「会いたい」「見に行きたい」という欲求が高まることは当然避けられないことでしょう。
でも、こんないまだからこそ、その危険性の意味をもっともっと考えてほしいと思います。

「オランウータンやゴリラ、チンパンジーなどの見学を中心とする観光業は、国立公園や
野生生物保護団体、地元の人々の収入源になっている。
観光が止まれば、こうした全てが危うくなる」という話をコロナ禍のいま、よく耳にします。
今や霊長類の研究地は世界中一大観光地です。
観光に依存した自然保護の在り方は大変危険です。
一部では大変な成功例と称賛されているものもありますが、経済という価値観を通してヒト
が自然を見たとき、そこにはもはや自然は残らないと気づくべきなのです。

野生の生き物には野生の生き物の暮らしがあります。ヒトがむやみに近づくのではなく本当
は、会いたくない、見に行きたくない、そっとしておこうと思える人が増えるのが一番いい
のではないでしょうか。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com



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