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第23回 オランウータンは何頭いますか?          

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~
第18回 熱帯雨林とバランス ~森林火災~
第19回 森林火災のあとの熱帯雨林
第20回 2021年の年頭に思うこと  ~GOTOの先~
第21回 科学の力
第22回 自然のバランスとスピード
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第23回 オランウータンは何頭いますか?

梅花の季節も盛りを過ぎ、次は桃、そして桜と季節は着実に春に向かっているようです。
野や山の草木は、どうしてこの季節の移り変わりがわかるのでしょうか。
野山といわず、実はヒトの身体もこの季節の変わり目を非常に繊細に感じ変化するもので、
冬から春にかけていろいろと不調が出てくる季節でもあります。
ヒトも自然の一部であり、自然の摂理の複雑さと不思議さをより一層感じるこの頃でも
あります。
みなさまお変わりありませんか。

さて、以前科学の力(第21回ブログ記事)でも書きましたが、私たちはいろいろなことの
判断基準として「数字」や「データ」といったものをとても重視する傾向にあるようです。
こうした一見客観的で科学的なものは、それだけでなんとなく信頼してしまうものですが、
一方で、経験や感覚といったもの、これもまた非常に大切なものです。
そして「経験」というものは、積み重ねるのに大変時間がかかる。
ましてその積み重ねられた経験が、よいものにつながっていくためには「良いものをよい」
「悪いものをわるい」と感じる感覚、感性が必要なわけです。

オランウータンの研究を続けていると、この「数字」と「経験」の双方の意味とそれが
もたらすことについて常に考えさせられます。
ということで、今日は「数字」ということで、しばしば尋ねられる「オランウータンの数」
という話を紹介したいと思います。

オランウータンは何頭いますか?
この質問は最もよく耳にする質問であり、最も基本的なことなので、みなさん何気なく発せ
られるのですが、野生オランウータンの本当の姿を知っていればいるほど、この質問は
答えることが難しいものなのです。

多くの場合、研究者は生息数の算定として、巣の数を調べてそれを生息密度の指標として
全体数を割り出す方法をとりますが、ムラが多く、数はまったく正確とは言えません。
そもそも野生の数を推定するということは非常に難しいものなのです。
研究者はオランウータンが多くいるような森に入って調査するので、どうしても、生息密度
の高いところを選ぶことになります。
それに面積をかけるから、数が大変多くなってしまうものです。
そもそも生息面積をどのようにとらえるかでも数は全く違ってしまいます。

最近ではこうした弊害を考慮した計算ソフトの開発自体が研究になったり、ドローンだ、
GPSだと新しい手法が紹介されたり、様々な試みがなされているようです。
しかし出された数字のいったい何がどう科学的なのか。
その数字が本当に野生のオランウータンの生態を反映しているものなのか。
非常に疑問を感じています。
自然科学というものは、その研究者が自然をどのように見つめ、どうとらえるかが大切な
学問です。
その肝心な部分が育っていかずに、科学の手法や技術に頼っていくようになっては自然を
扱う学問としては本末転倒です。

オランウータンは森の中に、いつも均一に居るのではなく、食物の採食季節にあわせてなど
の理由で、濃縮になったり、希薄になったりしています。
このため私たちの研究地ではオランウータンの数が1平方キロあたり1頭のときがあったり、
8頭のときがあったり、長い目で観察していくとオランウータンの姿がまったく消えてしまう
時期もあるわけです。
こうした集団移動とでもいうべき状態は5年、10年の期間でオランウータンの行動をみていく
としばしばあることで、数年間姿を見せないようなこともよくあります。

そんな時彼らは何処に行っているのか。
森林火災で、果実が実らないので、どこか他の森に行ってしまったのか。
それともこうした行動形式自体がオランウータンの生態そのものなのか。
私たちにとってはオランウータンの生態はまだまだ謎だらけです。
しかし、生息数に関して研究者の間でもこうした議論自体が成り立たないのが実情なのです。
私たちは長期間、とくにオランウータンの社会構造の解明という観点での生態観察を続け、
その生息地である森林の実態調査を続けているのですが、こうしたテーマ設定自体他に類が
なく、研究者間でも議論自体がかみ合わないことも多々あります。

短期間の観察では単にそこに「オランウータンがいる」「オランウータンがいない」という
程度の、表面的なことしかわからないのは当然といえば当然です。
こうした多様な数を寄せ集め、比較をして何かを論じようとしても、それはかなり危険な、
何をやっているかわからないものとなってしまうわけです。
数の増減の理由を「調査精度の向上」だの、「森林の減少」などといって簡単に説明する
ような研究がいくら増えても、オランウータンの数は減っていくばかりでしょう。

オランウータンは絶滅の危機とよく言われます。
紹介されるのは「10年前に○○頭いたのが今は〇頭で激減」といったたぐいの数字ですが、
これは研究者によって出された数字の寄せ集めが単に減少したということにすぎないとも
理解できるわけです。
以前、生息数が1万~1万5千頭に減ってしまっているという前触れで開かれた会議があった
のですが、意外にも結論は『オランウータンは6万5千頭生息している』というものでした。
そしておそらく今言われているオランウータンの生息数というのは、この時の数字がもとに
なっているものと思われるのですが、この時のきわめておかしな議論、非科学的な算出論拠
を思い出すと、「数の寄せ集め」でしかない数字の恐ろしさを思うわけです。

長くなってしまいましたので、続きは次回に。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』
【DVD】鈴木南水子さん お話し会 『オランウータンに、 いつまでも熱帯の森を。』


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com



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