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第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~   

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第1回 森の人 オランウータン
第2回 野生オランウータンの研究
第3回 ちょっと待って!エコな話はいい話?
第4回 外出自粛で考えること
第5回 緊急事態宣言
第6回 インドネシアとオランウータンと日本人
第7回 オランウータンの棲みかと石炭の露天掘り
第8回 エネルギーのはなし
第9回 ご存知ですか、自然エネルギーのホントのこと
第10回 霊長類学、霊長類研究とオランウータン
第11回 社会を考える -日本の霊長類学―
第12回 温泉に入るサル ~サルの文化的行動~
第13回 世界に知られたスノーモンキー
第14回 オランウータンいのちの学校
第15回 野生のオランウータンのくらし その1
第16回 野生のオランウータンのくらし その2 ~枝わたり~
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第17回 野生のオランウータンのくらし その3 ~母子の橋渡し~

先日のお話し会にご参加くださったみなさま、ありがとうございました。
会場のプロジェクターはとても画質が良く、普段は小さなPC画面で見ているだけなので、
こんなに拡大された鮮明な画像は自分でもあまり見ていないので新鮮でした。

オランウータン(0).jpg

いつもお見せするこの画像も、これは移動中の母親の写真なのですが、拡大して見ると
なんと口に葉っぱの切れ端を咥えているのです。
むしゃむしゃ食べながら移動している、ちょっとお行儀が悪い?一コマでした。
といってもこのように、今まで採食していたのに急に動き出すということはよくあること
なのです。

そうした母親の行動を子供は実によく見ているのです。
そして、この写真のようにしっかりと母親にしがみついて森の中を移動しながら、母親に
依存しきって成長していくのです。
お話し会でもオランウータンの母親がいかに時間をかけて愛情深く子供を育てていくのかに
感銘を受けたという感想を多くいただきました。
オランウータンの子育てを見ていると、本当に考えることが多いです。

前回は母親が枝わたりの際に子供に手を貸してあげる話を紹介しましたが、面白いことに
実はその逆の行動もあります。
途中で枝が折れてしまって枝を渡ってこられないお母さんをみて、先にわたってしまった
子供の方が、いつもお母さんがやってくれるのと同じように、今度は隣の枝を自分の手で
抑え、お母さんが隣から渡ってくるのを待っている。
この間、もちろん音声でのコミュニケーションはまったくありません。
この以心伝心のやりとりに私たちは感心してしまいます。
私たちはこうした母子の橋渡しを「ブリッジ行動」と言っています。

こうしたブリッジ行動は母子間で本当に何気なく行われ、あまりに短い間にさっと手を
貸すので見落としてしまったりすることも多々あるぐらいです。
以心伝心、他への思いやり、こういう言葉は、私たちヒトは知識として知っていますが、
オランウータンの世界では、それが言葉や知識でなく、行動の根底にあるのです。
人間の世界では自らの立場や利益のために、言葉ばかりが上滑りしていることがよくあります。

相手が何をしたいか見守ること、相手が出来るまで待ってあげること、このような心は、
何にも増して大切だと言うことを、野生のオランウータンは教えてくれています。
行動するには心が必要なわけです。
言葉でいくら伝え合おうとしても限界があります。
ヒトも言葉ではなく、相手の心と同じ気持ちに一度立ち戻って見る。
このことの意味は大きいと思います。
オランウータンの行動は人間社会からは切り捨てられがちなもの、「自然」の中から育まれる
心というものを見せつけるものでもあります。

親による子供の虐待の話が最近日本ではよく聞かれます。
実際に近年この数はどんどん増えていて、3歳児未満の虐待を受けた子供の数はなんと3万人を
こえるそうです。
虐待された子供のケアにかかわる方から先日ちょうどこの話を聞きました。
非常に深刻な現状だと思います。
2歳になるまでの間に虐待を受けた子供の心を元に戻すということは「不可能」と断言されて
いたのが、とても重く響きました。
胎児のときから2歳までの期間が子供のその後の成長にとって決定的な役割を果たすという
ことです。

日本には「三つ子の魂百まで」ということわざがあります。昔の人はよくわかっていた
のでしょう。
情操教育なんて言葉もありますが、感性を育てる、心を育てるどころか、いま、その心が
崩れていってしまっている。
これはもう頭でも、言葉でもなく、ヒトというものの荒びであり、そういう心が増えている
ということは社会全体のゆがみのあらわれだと思います。

「三つ子の魂百まで」というのは、3歳までの子育てが大切で、ちゃんとその間にしつけを
しなくてはいけないというような単純なことではないのです。
言葉ではなく、「魂」と表現されているものの大切さ。
ひとりの赤ん坊が言葉を主な手段としていく前までに、どれくらい情動的、感覚的に人や
モノとのかかわりが持てたか。
それがその後の生涯にわたって影響をもたらすということ。
少なくとも「しつけ」という言葉で片づけられるような、頭で考え教え込むこととは全く
違うものが大切なわけです。

オランウータンのお母さんは子供を抱きしめたり、特に関心を払ったりということは
ほとんどしませんが、子供は母親に全幅の信頼を置き、赤ん坊期を過ごします。
どの母親も子供にとっては絶対的な庇護者であり続けます。
愛情深いという言葉で置き換えるのは簡単ですが、それは自然のなかで育まれる母子の
関係性の何気ない繰り返しでしかありません。
この思惟のない、つくりごとのない姿こそが母子の原点なのではないでしょうか。

母親の存在の大切さ、大きさを知っているはずのヒトですが、オランウータンから母親を
奪い、森を奪い、孤児を生み出す環境をつくり続けています。
一方でその孤児たちに森での生き方を「教えてあげよう」とする私たちヒト。
こうしたつくりごとで固められた不自然な世界に疑問も持たず、美談だと感動してしまう
感性に、私たちヒトは「自然」から離れすぎているのかなあと感じます。

オランウータンの孤児を救うどころか、まずは3万人もの(この数は乳幼児の数だけで、
全体数はもっと多い)虐待された子供をうみださないように、ヒトの社会を、心を少し
でも変えていくことが重要かと思います。


(次回へつづく)

オランウータン(0).jpg


プロフィール

鈴木晃(すずきあきら)
京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。
京都大学霊長類研究所を経て、
現在「日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会」代表。
(一社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)理事長。
1983年よりインドネシア、カリマンタン島にて野生のオランウータン
の研究を続ける。

鈴木南水子(すずきなみこ)
生後6か月よりウガンダに渡り、チンパンジーの研究をする父のかたわら、
アフリカの大自然の中で育つ。自然によって生かされているヒトの生き方
を求めて、オランウータンと熱帯雨林の保護の問題とその普及啓発活動に
取り組む。


(社)オランウータンと熱帯雨林の会(MOF)
(事務局)
〒162-0065
東京都新宿区吉町8-23 富井ビル2F
TEL 03-5363-0170
FAX 03-3353-8521

ホームページ http://moforangutan.web.fc2.com/
メールアドレス mof.orangutan@gmail.com



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