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最期の手紙

こんにちは船井勝仁です。
 
イリアールの取材で中屋万年筆の工房を尋ねました。
同社は大手万年筆メーカーが、大量生産の工業的な製品だけでは飽き足らず、
職人さんが使い手の気持ちをくみ取りながら1本1本丹念に仕上げて行くという、
昔ながらの文化を継承したいという思いから10年程前に立ち上げた会社です。
 
私の場合は取材でしたので、事前にオーダーしていたカルテに従って
その場で万年筆を作っていただいたのですが、本来は絶対に工房の場所は教えないのだそうです。
 
オーダーメイドの万年筆を比較的、安価に作ってくれる会社として評判を呼び、
日本だけでなく、どちらかというと欧米のマニアの間ではあこがれの的になっており、
工房を教えてしまうと世界中から人が押し掛けてきて仕事にならないからなのだそうです。
  
同社の中田社長は、イリアールの乗附社長の大学時代からの友人で、
中屋万年筆の立ち上げにも、実は乗附社長の意見が多く反映されているのだそうです。
 
トコトン効率を追求することが経営で、人間の思いなどは入る余地がないという
10年ぐらい前のグローバルスタンダードが全盛の時代に、あえて手作りの良さを
追求する事業を試験的に始めたのだと二人は言っていました。
 
  
しかし、やっていくうちにこれはとんでもない重たい仕事だということに気づきました。
 
通常は1カ月以上かかるのだそうですが、あるお客様からどうしても
2週間で作ってほしいというオーダーが来たそうです。
理由を聞いてみると、お母さんとお嬢さんがお父さんにプレゼントしたいというのですが、
お父さんが末期がんで余命が数週間と言われているのだそうです。
 
どうしても、最後に自分だけの万年筆がほしいというお父さんの強い希望がありました。
社長が病室に工具を持ち込んで作りますと返事をすると、そこまでしていただかなくても
大丈夫ですということなので、超特急で思いを込めて万年筆をつくりお届けをしました。
 
後日、奥様からお礼の手紙が届きました。オーダーメイドの万年筆でお父さんは、
奥様とお嬢さんに宛てた感謝を込めた最期の手紙を書かれたこと、そして何日か後に、
意識不明なられて、そして帰らぬ人になられたことが書いてありました。
自分の万年筆で最愛の人に感謝の手紙を書けたことで、安らかにあの世に旅立つことができたのです。
 
 
中屋万年筆の事業は、大手の百貨店や高級文具店などからイベントとして
販売してほしいという申し入れが殺到していて、うれしい悲鳴を上げている状態なのですが、
中田社長はそんな風潮にちょっと疑問を感じているそうです。
 
海外のお客様は、何度もメールのやり取りをして、本当に自分が気にいったものができるまで
時間をかけてオーダーされる方が大半です。
その気持ちに応えるために会社側も製作の途中経過を写真に撮って送ることもあるのだそうです。
 
それなのに、イベントで売上は上がりますが、その場で安易に注文を受けてしまって
本当にいいのか悩んでしまうのだそうです。
 
長い間、使い続ける本物を作るということの本当の意味を、作る人、販売する人、使う人の
それぞれがもう少し丁寧に考える必要があるのではと、考えさせられました。



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