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叙事詩の夜 

にんげんクラブの皆様、こんにちは。

11月1日は「Toussaint (トゥッサン)諸聖人の日」で祝日です。

その翌日にフランスの人はお墓参りに出かけるので、花屋さんの店先には
菊の花が並んでいます。学校は10月20日から2週間の秋休みです。


リサ1031-1.jpg
(花屋さんの前に並べられたお墓参り用の鉢植え菊。)


来年2017年の春にフランス大統領選がありますが、その選挙で投票する
ための名簿登録への案内ポスターが街のあちこちに張り出されています。

選挙権は18歳以上のすべてのフランス国籍者にありますが、大統領選の
前年12月31日までに居住する市町村の選挙人名簿に登録する必要があ
ります。


リサ1031-2.jpg
(2017年大統領選に投票するための名簿登録案内ポスター)

日曜日に教会で一緒に歌っているフランソワ君が「ここに写っているのは、
日本の楽器だよね」と言って見せてくれたのはリヨン国立音楽院のコンサート
案内。
「Nuit de l'épopéé 叙事詩の夜」というタイトルで、大きな琵琶を抱え、山吹
色の衣装に身を包んだ女性が写っています。


リサ1031-3.jpg
(リヨン国立音楽院のコンサート案内に載っていた薩摩琵琶奏者、
上田純子さんの写真。)


夕方6時より映画「怪談」上映、フランスの叙事詩「ロランの歌」と「平家物語
から《壇ノ浦》」演奏。夜9時のコンサートは「平家物語より《義経》《祇園精舎》」
とモンテヴェルディ作曲の「タンクレディとクロリンダ」。

不思議なプログラムですが、「叙事詩」という点で一致しているようです。
琵琶なんて日本でも間近に聞いたことはなく、面白そうなので行くことにし
ました。

前座の映画は、1964年小林正樹監督の「怪談」から第3話「耳なし芳一」
でした。琵琶法師が演奏するシーンや、壇ノ浦の戦いの回想部分があるた
め、平家物語の時代背景やストーリーもよくわかります。

映画のすぐ後に、フランスの叙事詩「ロランの歌」と平家物語より「壇ノ浦」
が演奏されました。

「ロランの歌」は、11世紀ごろに出来上がった古フランス語で書かれた叙事
詩だそうです。フランク王国の国王シャルルマーニュの甥ロランの武勇伝で、
詩は残されていますが、歌の旋律は楽譜が存在していないのでわかりませ
ん。当時の大道芸人たちによって歌い継がれていたそうです。

リヨン国立音楽院の古楽科の生徒たちは、当時の歌旋律を研究し「ロランの
歌」から数曲の旋律再生を試みました。中世楽器の響きと古フランス語の発
音がよく合っていてとても美しかったです。リコーダーを2本口にくわえて演奏
していた人がいて、大道芸人風でいいなと思いました。

はるか昔のフランス語ですので、舞台後方スクリーンの字幕を読みながらで
ないとストーリーが理解できません。 隣にいたフランソワに「なんだか、ロラン
の死因がよくわからなかったよ。木に登って落ちたんだよね。なんで登ったの
かな。」と尋ねられましたが、聞きたいのはこっちの方。私は途中から字幕を
見るのも面倒になって全然ストーリーについていっていませんでした。


心に残っているシーンといえば、ロランが死の間際に聖剣が敵方に渡らぬよ
う石でたたき割ろうとしたら、逆に石の方が割れてしまったという下りくらい。

続いて、薩摩琵琶奏者の上田純子さんによる、平家物語から「壇ノ浦」の演奏
が始まりました。「ロランの歌」が10人ほどのグループで演奏されたのとは対
照的に、上田さんは琵琶一本を手にたった一人で「壇ノ浦」を語りました。

西洋のリュートも日本の琵琶も似た形をしていて、よく歌の伴奏楽器として登
場しますが、奏法は随分と違っていました。

16世紀後半、西洋の歌唱文化はそれまでの多声音楽に代わり、ソロ歌唱に
和音楽器の伴奏(リュートやハープ、チェンバロ)というスタイルが主流となり
ました。今でいうギターのコードネーム伴奏のようなものです。

日本では、仏教声明のような抑揚のある歌い回しが、能や浄瑠璃、平曲など
に受け継がれてきたそうです。大勢で歌う時も多声部にはならず常に斉唱で
す。

上田さんの薩摩琵琶は、和音で歌を支えるのではなく、弦をバチでこすったり、
叩いたり、声の抑揚に合わせて音を揺らせたりと、ニュアンスが多彩でした。

西洋音楽には、協和音と不協和音が存在します。
美しいとされる振動数比を持つ音程であれば協和音(振動数比が単純な整数
比に近い音程、例えば完全5度の振動数比は2対3)、そうでない音程を持って
いれば不協和音。

不協和音は不安定な響きとして用いられ、協和音に向かうことで安定しようと
します。音楽が緊張、高揚していく場面などでは不協和音はとても効果的に
使われます。


一方、日本の音楽に協和音と不協和音というコンセプトはなさそうです。
あるのは自然界のあらゆるところから聞こえてくる響き。
琵琶の弦をこする音は、風や枯れ葉など様々な情景を連想させますが、この
ような音は西洋の楽器からは雑音として排除されてきた音でもあります。

数世紀にわたり和声音楽を担ってきた西洋音楽ですが、20世紀を過ぎて変
化が見られるようになりました。長男が弾いている現代オルガン曲には、協
和音に解決を試みない不協和音がたくさん聞こえてきます。様々な音の重な
りはそれぞれに違う響きを生み出していて、その美を最大限に引き出そうとし
ています。

そんなことを考えながら琵琶演奏に聴き入っている時、私の両サイドからは、
夫と友人のフランソワからうるさく質問が入ります。

「今聴いている《壇ノ浦》は、さっき見た映画の中で歌われていたのと違う気が
するんだけど」

「映画の中では、平家物語は一晩では語り尽くさせない程たくさんのエピソード
からなっていると言っていたけど、今から演奏する《義経》はいくつ目のエピソー
ドなんだい?」

「歌われている日本語は今の日本語とは随分違うのかな。リサは聞いただけ
で全部わかるのか?」

薩摩琵琶奏者の上田さんは、現在スペイン在住だそうです。
ヨーロッパの演奏家たちとも共演し、東洋と西洋の音楽の未来を探っておら
れます。

ヨーロッパに住みながらご自身の薩摩琵琶演奏家としての熟成を目指される
ことは、多文化の中に身を置くことが良い刺激になる一方、時に日本の文化
から遠ざかって生活することにジレンマを感じられるかもしれません。

上田純子さんのホームページです。
http://www.junkoueda.com/ja/

コンサートが終わって家に帰ると、日曜の教会コーラスのピエールさんから
メールが来ていました。
「今月30日の日曜日は《 fête du Christ Roi 王であるキリストの主日》にあ
たります。ミサでは9世紀に書かれた現存する最古のポリフオニー 曲
《 Rex caeli Domine  天の王よ 》を歌いましょう。まだ現代譜への書き換
えができていないので、元の楽譜(9世紀の書式で書かれたもの)送ります。」
とあり、楽譜が添付されていました。


リサ1031-4.jpg
(ピエールさんの送ってくれた"Rex Celi domine"は2声のポリフォニー。
Rex(王)が同じ音から始まって、上の旋律が一音ずつ上がって行く。)


それにしても、カトリック教会では毎週のように大切な行事があります。この
コーラス(といっても5、6人しかいない...)に参加するようになってから教会
行事に少し詳しくなりました。


明日は10月最後の日曜日、30日は冬時間に変わるので、今日は寝る前に
時計の針を一時間遅らせます。朝一時間多く寝られるのが嬉しい。

リサ 10月29日 リヨンにて



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