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松田悦佐(著)
価格:1,680円
出版日:2012年1月
出版社:徳間書店
本書は向こう5年間(昨年の本なので4年間かもしれません)に世界情勢を大きく揺るがす
テーマを10個選び、それぞれのテーマの動きがどうなるかを見通したものです。
そのテーマは、①ユーロ、②円・ドル、③デフレとインフレ、④グローバル化、⑤中東情勢、
⑥エネルギー・資源情勢、⑦中国、⑧知的エリート、⑨二大政党制、⑩金です。
私は特にこの時点ではっきりとインフレの怖さを訴えていることに著者の慧眼を認めたの
ですが、簡単に言うと著者の主張は、インフレは弱者を狙い撃ちにする貧困税という性質を
持っているということです。ちなみにデフレは、金持ちを狙い撃ちにする富裕税ではなく、
現金を持っていることを選択すれば、金持ちにとっても対処が簡単な制度なのです。
では、デフレで困るのは誰でしょうか。それは借金をしている人です。デフレは借金をして
いる人に対して厳しい借金税という側面を持っているからです。関連箇所を引用させていた
だきます。
(引用開始)
だが、そもそも信用力が高くて何をやっても有利な立場にある連中が、それに輪をかけて
蓄財に有利な借金という手を使えないことが、それほど深刻な悲劇だろうか。ふつうの勤労
大衆にとっては、どうしてもしなければいけない借金の元本返済負担は高くなるが、返済に
いたるまでの金利支払い分は低下しているはずだ。全体として見れば、深刻な負担増とは
思えない。
ただ、借りなくてもやっていけるカネを借りることで蓄財のスピードを速めようとする大手
企業や金融機関と、借りたカネの実質負担を返済時には激減させて合意なき増税を達成
しようとする政府だけが、いままでのように特権的な立場にいられないという「深刻な被害」を
こうむるだけのことなのだ。大手企業や金融機関には、「正直な商売から上がる利益だけで
蓄財しなさい」と言い、政府には、「もっと大きな予算を使いたかったら、正々堂々と増税を
訴えなさい」と言えばすむことではないだろうか。
(引用終了)
それ以外の項目も多くの示唆に富む意見が展開されているのでぜひ参考にして見られたら
いいと思いますが、特に面白かったのが、日本以外の国ではエリートが自分の考えを実現する
ためにしっかりとした戦略を作ってそれを遂行しているが、日本ではエリートのレベルが低い
ので戦略すら描けていない。しかし、どんなにすばらしいエリートが立てた計画でも、人が作った
計画は破綻するようになっており、エリートのレベルが低くて何も戦略を組めない日本の方が、
結果的には上手くいっているというか、少なくとも幾らかはマシな現実があるという点はとても
納得してしまいました。
(船井勝仁ドットコムより)