足立 禮子 (著)
2007年10月 発行
出版社 三五館
この本は、観世流能楽師である足立禮子氏が、ご自身の体験を含めた能の世界を、
初心者にも分りやすく紹介しています。
こう観るとおもしろい能の観賞ポイントや、能楽師のこと、師弟関係など、
能についてほとんど知識のなかった私にとっては、すべてびっくりすることばかりの内容でした。
能の世界での著者の生き様には、とても心打たれるものがあります。
著者の師、観世流初の女性師範の生涯から始まり、自身の生い立ち、
そして能の世界に入ってからの苦労話の数々・・。
女性が能の世界で生きていくことは、どれだけ大変なことか、
まさに能が好きという情熱と力強い意志、そして継続力がないと出来ないことだと思いました。
著者の、人生を精一杯生きている力強いエネルギーが文章からも伝わってきて、
読了後、自分ももっと頑張らなくては、という気持ちにさせてくれます。
現代人が忘れかけている、人のあるべき姿―。
そんなエッセンスが織り込まれた本書でした。
“能の目的は、人を幸せにすること。”
能の世界を通して、人生の生き方を学べるおすすめの一冊だと思います。
(にんげんクラブ会報誌2007年12月号より抜粋)
奥山 清行 (著)
2007年7月 発行
出版社 祥伝社
梅原 猛 (著), 市川 亀治郎 (著)
2006年10月 発行
出版社 角川学芸出版
野本 寛一 (著)
2006年10月刊
出版社: 文藝春秋
本書は、女性の一生に視点を置いて書かれた民俗学の本です。
にんげんクラブ会員である谷阪智佳子様からご推薦いただきました。
かつての日本は貧しく、厳しい時代でした。特に女性は、血の「穢れ」を持った者として
隔離され、虐げられてきた存在であると後年の多くの人々には認識されていると思います。
本書を読むと、月経や出産によって女性が隔離されてきた本当の理由がわかります。
女性たちは、厳しい生活の中で一時の休息の場を与えられ、守られてきたのです。
綿密なフィールドワークによって集められた多くの実例は非常に多くのことを教えてくれます。
本書では女性の一生のその時々の役割や仕事が、少女時代のママゴトから始まって、
嫁ぎ、出産、子育て、老いてからの生き万と、順を追って章ごとに書かれています。
特に印象的だったのは、出産に関する事柄でした。
現在では仰向けに寝て出産するのが一般的だとされていますが、
かつては臼を抱きかかえて座産していたという地方もありビックリしました。
しかし、それは日本古来の出産方法の可能性もあり、その合理性と安全性を
伝統として守ってきた女性たちの知恵は、大変興味深いです。
また、ある村では女性の出産を軽いものにしようとする伝統(現象)として、
なんとその夫にツワリの症状が出るという話にはびっくりしました。
その症状は頭が痛くなり風邪のような症状になるとのことです。
私の身近でも、奥様が妊娠してツワリで苦しんでいる際に、なぜかそのご主人が
体調不良になっているケースのご夫婦が多かったため、これはその村だけでなく、
現在でも多くの人に実際にある話なのだろうな、と妙に納得しました。
また、産土(うぶすな)の語源をこの本では知ることができました。
忙しい農業や子育ての他に、麻や蚕を育て、糸を紡ぎ、機織をして家族の着物を作ることも、
女性の仕事の一つでした。家庭では味噌、漬物、ドブロクの作り方を嫁ぎ先の母に
教えてもらい、日々の家事も電気やガスのないのが当たり前の時代では、
かつての女性はさぞ忙しかったことだろうと思います。
そのような厳しい生活の中で女性たちは守られ、誇りを持って、必死に生きてきました。
日本人として、女性として、昔ながらの人々の生き方を学ぶことは、自分たちの特性や
ルーツを知ることになります。昔ながらのやり方をそのまま今に受け継ぐというのは
難しいかと思いますが、今をどう生きるべきか、どのような女性になりたいのか、
様々なヒントをこの本は与えてくれたように思いました。
女性の方に特にオススメの本です。
(にんげんクラブ会報誌2010年12月号より抜粋)
木村 達雄 (著)
2005年11月
出版社: 合気ニュース
宮本 常一 (著)
1984年5月刊
出版社: 岩波書店
本書は、日本全国をくまなく歩き、民間伝承を克明に調査した
民俗学者官本常一氏の代表作とも言える一冊です。
著者は天性の聞き上手であったのか、各地の老人たちの話が生き生きと表現されています。
本書はまるで小説を読んでいるかのように、楽しく読むことのできる本です。
本書の冒頭は、対馬の寄り合いの話から始まります。一つの事柄を、皆が納得する結論が
出るまで、何日も話しあい、時には泊まりこみでとことん話をする場がかつてはありました。
そこには、身分の上下はなく、皆が対等な立場で発言することができたそうです。
そのように冒頭からかなりのインパクトのある話題が登り、その後もぐいぐいと
本書に引き込まれていきました。
この本を読んだはじめの感想は、「日本人の働き好きは、今にはじまったことではない」ということでした。
かつての日本人と比べると、今の日本人はかなり怠けているようにも見えるでしょう。
朝の4時ごろには起きだして仕事をし、夜は日が暮れても田畑に残って働き、家に帰れば
夜中まで夜なべをする。その暮らしには土曜日も日曜日もなく、毎日重労働をするのが当たり前。
そしてそれだけ働けども、金銭的には今よりもずっと貧しく辛い生活でした。
これがごく一般的な農民の生活のようです。しかし生活は貧しくとも、人々はいろいろな
工夫をして、心の豊かな生活をしていました。
田植歌、盆踊り、祭りなど、今はなくなりつつある風景が、かつての村々にはありました。
私たちはこの働き好きで心の豊かな日本人のDNAを受け継いでいるということを
改めて本書は教えてくれます。
本書を読んで驚くことの一つは、男女の性の営みに関する事柄の多く書かれていることです。
本書には、貧しさから来る閉塞感やある種の残酷さ、村の掟や生活の知恵など
様々な事柄が書かれていますが、中でも印象的な事柄は性に関することでした。
女性たちが田植えをしながら青空の下で語られる性についての話は、
なぜだか嫌らしさ、陰湿さがありません。
たとえばかつて田植えは女性の仕事であり、女性はもんぺを穿かずに腰巻だけで
田植えをしたそうです。それは下から覗いている田んぼの神様を喜ばせるためとのことで、
豊作を願う気持ちと子を宿すという女性性とがあわさったような風習が面白いと思いました。
かつての日本人は性に対して今よりも寛大であったように思いました。
また他にも、文字を持つ伝承者と文字に縁の訪い人の時間の感覚の対比など、
非常に興味深い内容でした。ぜひお読みください。
(にんげんクラブ会報誌2010年11月号より抜粋)

